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ワイナリーの一般公開日。キャンティ・クラシコ「黒い鶏」のテロワール

イタリアでは、毎年、5月の最終日曜日に「カンティーネ・アペルテ」というイベントがおこなわれます。ワイナリーが一般公開される催しで、「カンティーネ」は「蔵」、「アペルテ」は「オープン」の意です。
5月30日日曜日、カンティーネ・アペルテの機会に、キャンティ・クラシコのワイナリーへ行ってきました。

カンティーネ・アペルテとは

カンティーネ・アペルテとは、ワイナリーが蔵の見学と試飲を一般の人向けにおこなう、ワイン・イベントです。
通常は、蔵見学と試飲は有料ですが、カンティーネ・アペルテでは、無料もしくはリーズナブルな料金で蔵見学と試飲ができるので、気軽にワイナリーへ行くことができます。
カンティーネ・アペルテは今までは予約不要でしたが、今年はコロナ感染対策のため、予約制でおこなわれました。

昨年はオンラインのみでおこなわれたため、2年ぶりのリアルのカンティーネ・アペルテとなり、5月末の暖かい日差しとともに、喜びもひとしおでした。

イベントに参加するワイナリーのリストが事前にウェブサイトに掲載されます。今年は、例年に比べ、参加ワイナリーの数がだいぶ少なくなりました。
というのも、イタリアでは、まだ屋内での飲食は禁止されていた期間だったため(6月1日から屋内での飲食が解禁になりました)、屋外の試飲場所を確保できなかったり、感染対策を万全に整えることができないワイナリーは参加することができなかったからです。

トスカーナ州では、56のワイナリーが参加。そのうち、キャンティ・クラシコのワイナリーは14が参加していました。

キャンティ・クラシコ地区は、フィレンツェとシエナの間にあるエリアで、フィレンツェからだと、半日でワイナリーの旅をすることができます。

この日に行ったのは、「ロッカ・デッレ・マチエ」。キャンティ・クラシコ地区のカステッリーナ・イン・キャンティ村にあるワイナリーで、イタリア映画界の名プロデューサー、イタロ・ツィンガレリ氏が1973年に設立しました。

ロッカ・デッレ・マチエの外観↓

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5月末は例年晴れの日が多く、今年もお天気に恵まれました。この時期の田舎は、どこまでも続く新緑が美しく、心も晴ればれと明るくなります。いたるところに咲いている野生の赤いポピーやエニシダの黄色がアクセントになっています。

ワイナリー見学

蔵の見学では、たいてい、畑とワイン造りの説明があります。畑については、立地、土壌、ブドウ品種など。ワイン造りについては、収穫、除梗、発酵、熟成について語られるという具合です。畑、除梗機、タンク、樽を見学しながら、直接生産者からそれらの説明を受けます。
プロセスは同じでも、生産者によってこわだりがあり、それぞれの思い入れや歴史、フィロソフィー、自然への取り組みを聞くのがワイナリー見学のおもしろいところです。

そして、見学のあとに続くテイスティング。造り手の思いを理解したうえで試飲すると、より深くワインを味わうことができます。

ワイナリーの蔵↓

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テロワールを感じるワイン

今回の見学内容は、通常のワイナリー見学と少々異なっていて、興味深いものでした。
通常の見学では、「発酵は何度で何日」「熟成は何リットルで何か月」などテクニカルな内容が多く登場します。
ワイン・ラヴァーは、発酵や熟成の方法がどのようにワインの味に影響するかを知っていますが、ワイン初心者にとっては、テクニカルなことからワインの味を想像するのは難しいため、今回はワイン・ビギナーにもわかりやすいように工夫がされていました。
見学担当スタッフのかたは、学校の社会科見学のようなノリで、
「ワインはどんな味がする?」
と見学者に問いました。
8人の見学者は、それぞれ「甘い!」「酸っぱい!」「渋い!」など、発言しました。

次にとんできた質問は、
「では、ブドウはなぜ甘い?」
でした。
「ブドウは甘いもの」だと思っていた私は、「なぜ甘いか」を即座に答えることができませんでした。
すぐに、「太陽」と答えた人がいました。
正解!
太陽がブドウを甘くするのです。

ワインは、ブドウの香り以外に、さまざまなニュアンスを感じるという特徴があります。
「ワインのいろいろな香りはどこから来る?」
というスタッフのかたの質問。
瞬時に、「」と答えた人がいました。
正解!

樽熟成によって生まれるアロマもありますが、ワインの香りの大半は、ブドウ、つまりどんな土で育ったかに起因します。

太陽と土。いわゆる「テロワール」がワインの味の決め手になるのです。
テロワールとは、ブドウが栽培されている環境すべてのことを表すフランス語で、世界共通のワイン用語です。
社会科見学のような初心者向けの説明かと思いきや、本質をついた深い意味のある説明だったのです。

キャンティ・クラシコのテロワール

卓越したテロワールに恵まれたキャンティ・クラシコ地区は、1716年、トスカーナ大公コジモ3世が定めたワイン産地「キャンティ」にあたります。300年も前から、「キャンティ」は上質なワインができる場所だと認められていたのです。
キャンティ・クラシコ地区は、現在8つの市にまたがっています。ロッカ・デッレ・マチエは、カステッリーナ・イン・キャンティ市の西側に位置し、息をのむような美しい丘陵が続いています。

美しい丘陵に広がるブドウ畑↓

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カステッリーナ・イン・キャンティの標高は、200メートルから600メートルと幅が広く、バラエティーに富んだ地形といえます。そうはいっても、カステッリーナ・イン・キャンティで造られるワインに共通して感じられることは、豊かなミネラルと美しい酸です。

この日の試飲は、外のテントの下でおこなわれました。目の前の丘の斜面に横たわるブドウ畑を眺めながら、グラスをかたむける贅沢な時間。
豊かなミネラルと美しい酸が口の中に広がり、カステッリーナ・イン・キャンティのテロワールを感じることができました。

屋外での試飲↓

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キャンティ・クラシコの「黒い鶏」

ロッカ・デッレ・マチエの入り口には、キャンティ・クラシコのシンボルである「黒い鶏」の巨大なオブジェが堂々と立っています。

「黒い鶏」のオブジェ↓

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この黒い鶏には、有名な伝説があります。
中世、フィレンツェとシエナの境界線を決めるためのレースがおこなわれました。一番鶏が鳴いたときに、フィレンツェとシエナの騎士がそれぞれスタートし、出会った地点を境界線にすることにしました。
フィレンツェは黒い鶏を、シエナは白い鶏を用意しました。黒い鶏は、レース前日エサを与えられず、おなかが空いて朝早く鳴きました。そのため、フィレンツェの騎士は、シエナの騎士より早くスタートし、より長く走ることができたというお話です。
そして、その黒い鶏が、現在のキャンティ・クラシコのシンボルとなっています。

両騎士が出会った場所はどこかというと、カステッリーナ・イン・キャンティにある「フォンテルートリ」だとされています。
フォンテルートリは、名門マッツェイ家が15世紀から所有するお城を中心とした集落です。カステッリーナ・イン・キャンティを代表するワイン生産者となっており、キャンティ・クラシコをはじめ、高品質なワインを造っています。


まとめ

黒い鶏に想いを馳せながら、カステッリーナ・イン・キャンティのテロワールを感じ、ワインを堪能したカンティーネ・アペルテでした。

キャンティ・クラシコのワインはこちらから



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