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【新雑誌『モノノメ』より】[特別企画]虫の眼、鳥の眼、猫の眼──人間外から都市を読む

 宇野常寛さんが新創刊された雑誌『モノノメ』。

 発刊前に宇野さんが書かれたnote「あたらしい雑誌を(かなり変わったやり方で)出すことにしました 」の見出しを並べてみるだけでも興味深い。

・タイムラインの潮目を読まない発信の中心地をつくりたい
・Amazonにも大手チェーン店にも置かない/でも5000部を売り切る挑戦
・たくさんのものが「芽吹いていく」場に

 実際に拝読すると多様なジャンルの記事が載っていて飽きさせないが、どれも斬新で深い視点がありつつも身の丈で感じて考えることができる内容だ。そして、記事同士はバラバラのようでいて雑誌の流れとして繋がっている。読書の秋にじっくり深堀りしてみる雑誌として是非おススメしたい。

※上記の通りAmazonでは買えないので、以下からどうぞ。

 さて、今回はこの『モノノメ』創刊号より、雑誌のコンセプトにも繋がる記事、[特別企画]虫の眼、鳥の眼、猫の眼──人間外から都市を読む の概略を紹介し、感想を書きつづってみた。

概略

 子供の頃から筆者(宇野さん)は虫が好きだった。意思疎通ができず、人間とは大きく異なる世界に生きる「他者性」を持つ彼らは、いわば世界の外側に導いてくれる存在だった。時は流れて現代の東京。意外と身の回りにいた虫たちと「再会」した筆者は、ガイド役の柳瀬博一氏(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。以降は柳瀬 [敬称略] )と共に人間外の視点から都市を読み歩いてみた。

●虫の眼
 柳瀬は「昆虫は小さいので、都市部でも条件が整えば少しの規模の環境で何代も暮らしていけたりする」と言う。ドイツの生物学者ユクスキュルは生物ごとの主体的な世界観を「環世界」と名付けたが、虫の環世界=「虫の眼」は都市を決定的に変容させる。人工的な「自然公園」が無価値に見え、コンビニが目の前にある雑木林やベランダの一本の山椒が無限の価値を帯びるのだ。「虫の眼」において都市と自然とは対立構造ではなく、人間と虫の環世界は同じ場所に平行に存在しているのである。

●鳥の眼
 筆者と柳瀬は都心の川を見に行った。人がコンクリートで固め、かつて70年代前半の公害問題で生き物が居なくなった川には今や外来種の藻やエビが入り、カワセミにとても住みよい環境になっている。「豊かな自然」を目指した外来種排除の運動、「絵葉書的な自然」のカワセミを撮りたがって場にそぐわない止まり木を置くカメラマンといった「現状を否定し自らの望む自然に変えたがる」人々の思惑に関係なく、カワセミの眼ではこの川はこの状態であるからこその希少な「一等地」なのだ。

●猫の眼
 筆者や柳瀬が通う近所の森で、近年猫の姿が消えた。彼/彼女らがどこへ行ったか知るには「猫の眼」で良い場所を探すしかない。向かったのは湾岸の物流拠点エリア。倉庫と行き交うトラックだらけで歩く人はいないが、隙間や物陰にあふれている。そこに猫たちはいた。家畜化されて久しい猫と言う生き物は人間の補助なしには生きていけない。ここでも猫に餌付けをする人達がいるが、役割やエリアの分担も「なんとなく」決まっていて、その人達の間に密接な関係性は無い。猫を保護したい目的だけで場を共有している。 
 猫と彼らは互いの存在とこの都市の隙間と物陰を、それぞれの理由で共に必要としていた。これからの都市や公共と言ったものを考える時の大切なヒントがここにあるように筆者には思えた。

感想

※最初にお断りしておくと、上記の概略はかなり内容をはしょってある。なので、是非とも雑誌を手に取って本文を読んでみて頂きたい。

 さて、まずは筆者である宇野さんが虫に感じていた「他者性」が非常に面白い。通常、虫を好きな人は「かっこいい」「身近な自然や命に触れてる気がする」といった、憧れや親近感をベースにするケースが多いと思う。
 ところが、それとは逆に「自分から絶対的に離れた存在」であるがゆえに「自分が普段過ごし、感じている世界の外へ連れていってくれる」ので好き、だというのだ。この観点をまず与えられてから、その後の虫、鳥、猫という三者三様の眼を通じて人間の都市を捉える体験は刺激的だった。自分が都市に対して持つ解像度とアングルが一気に増した気がする。

 耳障りの良い「都市には色んな生き物が住んでいる。彼ら/彼女らの立場に立って考えよう。」といった言葉ではなく、人でない生き物たちを圧倒的な断絶のある他者とまずみなすことで「自分なりの世界をそれぞれが勝手に観ている」ということが逆に理解できるのだなと感じた。
 「(人間の)都市に住んでいる生き物」という言い方をしている時点で人間主体なのだ。そのヒトの眼のままで他の生き物に憑依して、相手の気持ちを考えてみたところで意味は無い。虫の眼、鳥の眼、猫の眼、その他のイキモノの眼で、彼らと共有しているこの世界を眺めてみる。すると、僕らが「都市」としてしか見ていなかった世界が、多様な価値と景色を与えられて輝きだす。そのような視座を与えてくれた記事だった。

好き勝手なことを気ままに書いてるだけですが、頂いたサポートは何かしら世に対するアウトプットに変えて、「恩送り」の精神で社会に還流させて頂こうと思っています。