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MWiCメモ04 バイトセンサー調整-2(リップベンド編)

先行テスター(私)の経験談としてのMWiCのバイトセンサー関連の反応とその設定関連のメモ・その2です。リリコンやWX的挙動(リップベンド)の、Reed BendとTrack Bendモードについて。(2023年8月1日作成)

MWiC詳細は開発・販売メーカーであるTeefonics社のサイトを御覧ください。

EWI+リップベンド

MWiC管体コンセプトが「タッチセンサキー+リード使用木管型マウスピース」に決まり、EWI系バイトセンサ挙動だけでなくリリコン的なリップベンド挙動も装備する・・・となりまして以前よりリップベンド系のWX5を吹いていてWEBサイトでウンチクしていたことから私に先行テスターのお声がけをいただきました。サイト更新停止したけど残しておいて良かった・・・

そんな私の理想は「リップベンドもできるEWI」だったものですから、まさにMWiCはそのものズバリ、気合を入れてテスターさせていただきました!!!

さてこれまでのウィンドコントローラーでリップベンドができるものは
・リリコン
・YAMAHA WXシリーズ
・Roland Aerophone AE-10, 20, 30
になるかと思います。
リリコンは完璧に無段階のリップベンドでリードを噛む動きがダイレクトに音程変化につながります。つまり正しい音程を得るには噛む強さを一定に保ち続ける必要があり、ちょっとでもずれると音痴になります。これは難しいです。私もリリコン実機(注1)で相当練習しましたがどうしても一曲丸々、正確な音程で安定させることができませんでした。プロフェッショナルの方々の歴代のリリコン演奏は皆安定していますので技量次第ではあるのですが、なかなか壁が高いのも現実。

フラットスポット

リリコンの直後に発売されたYAMAHA WX7ではおそらくその点を考え、正確な音程が出しやすいようにリップベンドの変化挙動に「フラットスポット」という平坦領域があるように設計されています。後続のWX11、WX5も同様です。
参考:WX5 Reed Bend vs. Displacement
https://windworksdesign.com/wx5bend.html

https://windworksdesign.com/wx5bend.html
より引用

フラットスポットの範囲内ではリードが動いてしまっても(動かしても)音程は一定を保ちます。音程は安定するのですが、私の感覚ではWX5の場合このフラットスポットが結構広く、正規ピッチに対して上下均一にきれいなビブラートがかけにくいのが不満でした。RolandのAE-10, 20, 30も私が試奏した感覚では、同じくフラットスポットがあるようです(違ったらすみません)。

Reed Bendモードについて

つまりリップベンド系ウィンドコントローラーにおいては「フラットスポットがあると音程は安定させやすいがきれいなビブラートをかけにくい。フラットスポットが無いとビブラートはきれいだが音程を安定させにくい」わけです。上級者はフラットスポット無し、入門者はフラットスポット広め、熟練に従ってフラットスポットを少しずつ狭くしていければ良いのですが既存のコントローラーはその調整が細かく出来ない。

そこでMWiCでは、リップベンドモード(MWiCではReed Bendと呼称)のフラットスポット幅、カーブ形状、上下ベンド幅を演奏者の幅広い好みに対応しつつ、細かくカスタマイズして設定できるようになっています。上級者はフラットスポット無しでリリコン同様の無段階リップベンドで演奏できますし、中級者は自分の技量にあわせたなるべく狭い範囲のフラットスポットとすることで自分にできるかぎりの美しいビブラートが可能になるわけです。

Track Bendモードについて

さらに、それでも吹き初めの音程を安定させるのが難しいという方向けにTrack Bendモードを備えています。このモードは吹き初めのリードの噛みの強さが毎回微妙に違っていても、音の出だし(note on)の時に噛みの強さを追跡(Tracking)してそこをゼロとして自動補正して正しい音程(PB中心値)で鳴らしてくれる機能です。短所としては音の出だしと同時に音程を変えるいわゆる「しゃくりあげ」の表現を行いにくい、ベンドをかけたままタンギング無しで別の音に移れない、などの一定の制限があります。
Track Bendはどちらかというと入門者を想定した機能なのですが、実際に使用してみるとEWI奏法に慣れている方がリップベンド奏法を取り入れた演奏をするのにも適している面があり、一概に入門者向けとは言えない、むしろEWIエキスパートの方にも一度試していただきたいモードであるとも思いました。EWIの場合はしゃくりあげは親指ベンドでやりますのでリップで出来なくても問題ないですよね。一方、EWIのバイトセンサでは自由度が限られているベンドダウンは、リップベンド系の得意なところです。うまくいけばEWI奏法のままで表現にリップベンドダウン表現を加えることができるかもしれません。


注1:よしめめ氏より所蔵のリリコンドライバをお借りいたしました。練習結果は私のYoutubeチャンネルにリリコン動画をいくつかあげておりますが、この体験がMWiC開発にも影響を与えております。よしめめ氏に深く感謝いたします。

Reed Bendモードの設定

ということで前置きが長くなりました。やっとReed Bendモードの実際の設定の説明になります。
公式サイトにReed BendとTrack Bendの設定例について記述されていますのでまずはお読みください。https://teefonics.jp/mwic_howtouse/bite_setting_guide

Reed Bendの最適設定値は個人差が非常に大きいと思われます。ですのでここでは公式サイトの記述も踏まえつつ、ちょっと違うアプローチも行っています。私が設定したときはこんな感じだったということ、例えばこういう流れで最適値に近づけていくんだなぁ、という感じで読んできただければ幸いです。新しい楽器なので何が標準的かはまだ決まっていないのです。

事前準備

まずはここまでのMWiCメモ01〜03に従って、バイトSwingモードでの設定をしてMWiCそのものに慣れてください。また音源側の準備として前回のMWiCメモ03で説明したとおり、MIDIピッチベンド(PB)の値が目でみてわかるようなメーターがある音源を用意してください。MacでMainstageを持っている方はMainstageでPBを表示することをおすすめします(それ用のMainstageファイルを無料配付していますのでMainstageを使える場合はご利用ください)。

バルーン位置についてこの説明ではとりあえず「リードを手でギュッと押さえた時の値が約800」になる位置であるものとして書いています(下の写真では806になっています)。これは今のところの私の設定位置です。自分でも数ヶ月後には変わっているかもしれないなぁとは思いますのであくまでも設定の一例ということで。なお最終的にこの説明での私のBite-3画面の設定値は下の写真の通りで、フラットスポットあり、得られるリップベンドの幅は、正規ピッチに対し±約半音(上側にも下側に約半音)の設定となります。(フラットスポット無し、リップベンド幅±全音だと自分には安定性が不足しているのでいまのところあきらめました)。

私の設定例のBite-3画面

Reed Bendモードに関連する設定項目

関連する設定画面はBite-1とBite-3の2つです。公式サイトは下記。
Bite-2は初期設定のまま変えなくてOKです。
・08 Bite-1:https://teefonics.jp/mwic_settings/08_Bite-1 
・10 Bite-3:https://teefonics.jp/mwic_settings/10_Bite-3 

Reed BendモードでのBite設定の流れと詳細

Bite-1、Bite-3をとりあえず次のように設定してください。太字は初期設定と異なる箇所です。

Bite-1
Response: 1(Fast)

B.Compensate:   Swingモードで設定した値と同じ(初期値は15%)
Function:  Reed Bend
BiteBendAdj:   100%
U/D Ratio: 100%(初期値は50%)
Calib.Trig:Roller

Bite-3
Min:  10 (またはSwingモードで自分で設定した値)
Range: 800(またはSwingモードで自分で設定した値)
Curve: 4

Reed BendモードでのBite設定の流れ

設定の流れ、考え方は下記1〜8の通りです。Swingモードでの設定を経験済みでその流れを理解していることを前提としています。

  1. B.Compensateを適切に設定して、息を入れたときにバイトセンサが不適切に動かないようにする(念のため設定値を再確認する)

  2. 自分が最も「噛む強さ」を安定して一定に保持できる位置で噛む(サックス的に言えば、自分が一番やりやすいアンブシュアでマウスピースを咥える)

  3. その安定できる噛みで音程が正規ピッチ(ピッチベンド値中央値=63)になるようにRangeを変える(ピッチが不安定でもとりあえずOK)

  4. その位置でタンギング(舌つき)をする。舌をついたときのPB値の上昇が10〜20程度ならOK。それよりかなり大きいようならRangeとMinの値を調節。

  5. Curveをフラットスポット有り(Curve10〜14)に変更。自分の好みのCurveを選択。

  6. 実際に演奏しながら、Min, Range, BiteBendAdj, U/D Ratio, Curveの選択、Curve14のFlatWとLin%を微調整。

  7. どうしてもしっくりこなければバルーン位置を変更し1.〜6.を繰り返し。

1.B.Compensate (Bite-1)の調整(再確認)

B.Compensateの説明は前回MWiCメモ03の通りです。設定値は基本的には前回Swingモードで設定ままの値でOKなのですが、Reed BendモードではSwingモードより少しB.Compensateの影響がシビアなので、念のためもう一度確認します。
Reed Bendモードにしたうえで、Bite-3のMinを大きくマイナス値にして、マウスピースを咥えていない状態のPB値が中央値(63)になるようにしてください。(例:-570)。(もし最小値-1250でもPBが63にならない場合はPB値30位になるような数値でもOKです)この状態で、マウスピースを深く咥えて、リードに歯や唇で力をかけない状態で、息を自分が演奏で使う最大の息の強さで2秒位続けて吹き込んでください。吹き始めに瞬間的にPBが±3程度揺れ、2秒続けたときのPB値が初期(63)と±1であればOKです。2秒後のPBが63よりかなり大きい場合はB.Compensateを大きくします。2秒後のPBが63よりかなり小さい場合はB.Compensateを小さくします。最適値付近では2〜3回繰り返して(n数増し)、2秒後のPBが初期(63)に最もなりやすいところを見つけてください。もしかするとSwingモードで設定した値と2〜3ズレているかもしれませんが問題ありません。おそらくReed Bendモードで設定したB.Compensate値がSwingモードでも最適値と思われますので、Swingモードに戻ったときもこの値を使用すれば良いと思います。設定が終わったら、Bite-3のMinの値を10に戻します。

2.リードを一定の強さで噛み続けられる位置(アンブシュア)

Reed Bendモードでは正規音程でリードを噛む強さ(管楽器的に言うとアンブシュア)を固定する必要があります。サックス・クラリネット経験が無い方の場合はとにかく自分が楽な位置ですね。例えばキツく噛むような場合は疲れてキープできませんので不適です。サックス・クラリネット経験のある方はMWiCに自分をあわせるよりも、普段の自分のアンブシュアにMWiCをあわせるべきだと思います。咥え方はファットリップでもシンリップでもどちらでも良いです。もしくはEWIに慣れている方でしたら、唇を巻かずにリードを直接下の歯で噛むやり方でもOKだと思います。とにかく自分がアンブシュアを最も一定にキープできる位置に、MWiCのほうを設定していって合わせることをおすすめします。

3.Range (Bite-3)の設定

アンブシュアが一定になる位置で長く吹いてください(ロングトーン)。PB値がどこかの位置でほぼ一定になっているはずです。自分のアンブシュアで正規音程(PB値63)でほぼ安定するようにRangeの値を調整します。PB値が中央値の63より小さい(音程が低い)場合はRangeを小さくします。PB値が63より大きい(音程が高い)場合はRangeを大きくします。(私の場合はこの調整後の時点でRange = 650でした)

4.タンギングをして確認(Bite-3, RangeとMinの設定)

ここで、普通に演奏するようにタンギング(舌つき)をしてください。舌つきで舌がリードを僅かに押すのでバイトセンサーも反応してPB値が上がります。自分が普通にタンギングする時の舌の付き方で、PB値がプラス20以内であれば概ね問題は無く、10以内であればまず問題はないかと思います。舌を離した瞬間(音が出る瞬間)にバイトセンサーが戻るので、舌をついた時に多少PB値が上がっても、実際に出ている音の音程はそこまでズレないのですが、舌つき時にPBが上がりすぎている場合は音の出だしの音程にも多少影響が出てきます。(私の場合はこの時点で舌つき時のPB値は83(=プラス20)程度でギリギリOKといえなくもない程度ですが、安定性重視でPB値プラス10以内にすることとしました。)

PB値が大きくプラスされてしまう場合は、Rangeが小さい(感度が高すぎる)ことが原因です。自分のアンブシュアで正規ピッチ(PB値63)を出すことは一旦置いておき、舌つきの時のPB値上昇を抑えること優先でRangeを大きくします。(私の場合は舌つき時のPBをプラス10にするためにはRange=1200でした)
しかしRangeを大きくすると、自分の安定アンブシュアで吹いた時の音程(PB値)はかなり低くなります。そこでこれを修正するために、Minの値を小さくします。負の値にすることも有りです。Minを負の値にすると、リードに何も触っていないときのPB値がゼロではなくある一定の値になってしまいます。つまりPBの全幅(通常全音分)のリップダウンベンドはできなくなってしまいますが、これはしかたないのであきらめます。(この時点で私の場合はMin= -190、Range=1200で、何も吹いていないときのPB値は20です(半音よりもう少し低い音程))。

5.Curveをフラットスポット有りに変更(Bite-3)

ここまでの設定はバイトセンサのカーブを4(直線)、つまりフラットスポットが無い設定を使っていました。これで安定したピッチで演奏できる場合はこのままでも良いのですが、難しい場合はフラットスポットのあるCurve 10〜14どれかを選択します。試しに一番フラットスポットが広いCurve 13を選択して吹いてみてください。音程はバッチリ安定し、タンギングをしてもPBは全く揺れないと思います。しかし、かなり噛みの強さを大きく動かさないとビブラートもリップベンドもかけられないのではないかと思います。Curve 12→11→10と順番に選択していって、自分がピッチを安定させられる範囲で一番番号が小さいカーブを選択します。しっくりくるカーブが見つかったらOKですが、微妙にしっくりこない、例えばCurve 10と11の間が欲しい、となった場合はCurve 14を使用します。Curve14は、フラットスポットの幅(FlatW)とカーブ形状(Lin%)をカスタマイズできます。Bite-3設定画面でCurve14を選択すると画面に出てくるFlatW、Lin%の値をそれぞれ設定します。Lin%を大きくすると線形になり、カーブ形状がカクカクになっていくのを画面のグラフで確認できます。(私の設定としてはCurve14を選択、FlatW=10〜15、Lin%=70〜90位が好みですがまだ決めかねている感じ)

6.実際に演奏しながら調整を繰り返す。

Curveを変更すると、アンブシュアは同じでもRangeとMinの最適ポイントが少しずれるので、好みにあったCurveを一旦固定し、そのカーブにあわせてMinとRangeを再度調整します。
(私の場合は上のBite-3の写真の通り、Min=-130, Range=1250, Curve14となりました)

ここまできたらもう少しです。実際に演奏を繰り返し、音程コントロールに対して気になるところを調整していきます。Min、Range、Curve種類の他、
Bite-1のBiteBendAdjとU/D Ratioの設定も有用です。

BiteBendAdj (Bite-1)

BiteBendAdjは上下のリップベンド幅の設定です。50%にすると上下とも半分になります(100%で全音の設定なら50%で半音になる)。リップベンドダウンはそこまで必要でなくビブラートだけ欲しいという場合はこれを小さい値にします。小さくしていくと音程は安定する方向に行きますので、Min、Range、Curveはもう少し不安定でもOKな設定値に調整できることになるのでそれぞれ調整して自分にとって最適なポイントを追い込んで行きます。

U/D Ratio

U/D Ratioは、バイトセンサによるダウンベンドに対するアップベンドの比率です。100%にするとアップとダウンが同じ比率、50%にするとダウンに対しアップが半分のベンド幅になります。MinとRangeのバランスによっては上下のベンド幅が極端に異なることがあるのでその補正や、自分のビブラートのクセ(アップ側の幅が大きすぎる等)の補正に使用できます。
また、U/D Ratioを0%にすると、いわゆる「Down Only」挙動になります(リリコン、WXシリーズでこの挙動のセッティングを好んで使用していた方向け)。ただし、ここまで設定を追い込んでくるとDown Onlyではなく、ちょっとだけUPもできる、という設定でも充分安定して演奏できるのではないかと思います。例えばU/D Ratioを20〜30%程度にすれば、ビブラート無しでも安定したピッチで演奏でき、一番良く使う浅いビブラートはアップとダウン両方使って上下に均一なビブラートができ、かつダウンベンドは大きく取れるということが可能かと思います。MWiCは親指ベンドとしてEWI同様のタッチセンサ方式を採用していますので親指ベンドの操作性は申し分ありません。速いしゃくり上げやアップベンドフレーズは基本的に親指ベンドでのEWI奏法を使いつつ、ビブラートと長めのダウンベンドはU/D Ratioを小さめにしたリップベンド奏法を使うというのも、特にEWIに慣れている方にはおすすめかもしれません。事実上「噛みっぱなしEWI奏法」によるEWI演奏の感覚でビブラートでき、さらにEWIより自由度の高いリップダウンベンド表現を加えることができる可能性があります。EWIのタッチセンサキー/親指ベンドシステムにリップベンドを組み合わせたMWiCのシステムだからこそ実現できる奏法だと思います。MWiCによって新たなウィンドシンセ表現が生まれたら最高です!!!

7.どうしてもしっくりこない場合

1〜6を行ってもどうもアンブシュア・安定性・コントロール性のバランスがしっくりこないという場合は、バルーンの位置を少しずつ変えて、1〜6の調整を行う、という操作を繰り返し行ってください。バルーンの位置は全体のバランスにかなりの影響を与えます。
また、ダウンベンドの幅を全音(PB値0から開始する)にしたい場合は、Min値をマイナスにするという手法は使えず、Minは少なくとも0以上である必要があります。この場合に自分のアンブシュアに合わせるパラメータはRangeの値だけですが、Rangeだけではどうしても感度が高すぎて音程が不安定になってしまうこともあると思うのでこのような場合は、バルーンの位置をもう少し先端側にしてベンドセンサの最大値が大きくなるようにします(例えば1000,1500,2000等)。こうするとRangeの値をある程度大きく保ったまま(感度を落としたまま)、PB値が中央(63)になるアンブシュアの位置を変えられます。つまり、
・Min=0に固定
・バルーン位置を少しずつ動かしてはRangeを変える、という作業を繰り返し、自分のアンブシュアとPB中央値(63)が一致するポイント(バルーンの位置)を探す。
という作業になりますが、ピッタリ合わせるのは難しいです。たまたま一致すればラッキーですね。このあたり、マウスピースの種類、特にティップの開きも多少影響するのではないかと思いますが、まだノウハウがありません。何しろ新しい楽器ですから・・・

補足1:Response設定

Reed Bendモード、Track BendモードのResponseは基本的に最速の「1」を使用します。リードの動きをなるべく速くPBの挙動に反映させるためです。Swingモードで標準の「8」ではリップベンドの反応が悪く演奏しにくいと思いますのでご注意ください。ただ、人によっては1では無く、やや反応が鈍い2や3のほうが良い、という場合はあるかもしれません。一度Responceを大きくするとどうなるか、自分の好みかどうか、試して見てください

補足2:Calib.Trigの設定

Calib.TrigはReed Bend特有の設定項目です。MWiCのバイトセンサのバルーンはごくわずかですが空気圧の抜けがあるため数十秒間レベルで見るとゼロ点がわずかに変化します。このゼロ点の変化はSwingモード・Track Bendモードでは仕組み上影響が無いのですがReed Bendモードではアンブシュア最適ポイントが動くことにつながりピッチがずれるなど演奏に影響を及ぼします。1曲の演奏中に変化してしまうことがありますので、それより短い間隔でセンサのリセット(キャリブレーション)が必要になります。演奏に支障の無いタイミングで演奏の合間に素早く自動でキャリブレーションを行う、そのトリガーを設定するのがこの項目です。詳細は公式サイトのBite-1の項目の最後の通り。 https://teefonics.jp/mwic_settings/08_Bite-1

初期設定は「Roller」で、演奏の合間に「左手親指をローラーから離す」ことがトリガーとなりキャリブレーションします。キャリブレーション自体は一瞬なのでそれ自体は演奏に影響を与えませんが、注意しなければいけないのは、リードを噛んでいる最中に左手親指をローラーから離してしまうとリードを噛んでいる状態をゼロ点とみなすので、それ以降、狙った音程から外れてしまうという点です。ですので演奏中に無意識に左手親指をローラーから離してしまうクセのある人(私です・・・)は、「L-Hand」=「ローラーと表側の左手キー全てを離すとトリガーがかかる」を選択するとこの問題が防げます。
リードを噛みながら左手全てを離すことは、そうそう無いかなとは思います(譜面を左手でめくる人は注意したほうが良いかもしれません)。
ということでMWiCをReed Bendモードで使用する際は、「曲の間に時々、ローラーまたは左手をキーから離してキャリブレーションすr」「リードを噛んだままローラーまたは左手を離さない」という意識が必要です。ちょっと面倒ではありますが私の体感ではすぐ慣れるので問題ないと思いますし、万が一噛んだまま離して音痴になってしまっても、慌てずもう一回トリガーすればすぐに元に戻ります。(アナログシンセのピッチのドリフトの面倒臭さに比べれば全然問題なし!)

Track Bendモードの設定

Track Bendモードでの設定は、Reed Bendの設定方法と基本的に同じです。Reed Bendモードで上述した通りにできるだけ安定性とビブラート操作を両立できるように設定を詰めた後に、モードをReed BendからTrack Bendに変更します。基本的にはこれだけでOKです。
Track BendはReed Bendモードでどうしても音の出だしの音程が一定にできないという場合に音の出だしの部分だけTrack Bendで自動補正してもらうというイメージですので、Reed Bendでできるだけ設定を詰めておかないと、出だしの音程はあっているけど、その後のコントロールがきちんと出来ない、ということになります。
なお、他の設定項目でTrack Bend時の演奏性に影響を及ぼす可能性があるのは、Breath-AのMin値です。Track Bendの自動補正はレガート時はおこなあれないので、Min値を「5」等極端に低い値にすることでレガートとみなされる機会が増えてベンドに関する意図しない挙動が減る可能性があります。曲を演奏しながらBreath-AのMin値を小さくしたり大きくしたりして試してみてください。

参考:私の設定値とその意図

私のReed Bendでの設定値を例として書きいておきます。この設定のコンセプトとしては、

  • リップベンド上下全音(PB値0〜127)が理想だったが、不安定なのであきらめた。

  • リップベンド上下半音分(PB値32〜95)は自分の音楽表現上絶対欲しかったのでそこは死守

  • 普段の自分のサックスのアンブシュアにできるだけ近づける

  • 上下均一なビブラートが得られやすいように気をつける

  • EWI的な親指ベンド奏法と共存できて互いに邪魔しない

です。実際の設定値は次の通り

マウスピース:ヤマハ4C
バルーン位置:最大値約800の位置
05 Breath-A:  Min 60, Range 900, Curve 4
08 Bite-1:  Responce 1, B.Compensate 18%, Function Reed Bend, BiteBendAdj 100%, U/D Ratio 80%, Calib.Trig:L-Hand
10 Bite-3: Min -130, Range 1250, Curve 14 (FlatW 12, Lin% 70)

私の設定例(再掲)

まとめ

・バイトセンサ調整はReed Bend/ Track Bendモード設定の前に、まずSWINGモードで設定して設定の仕方に慣れておく
・Min, Range, Curveを自分好みに設定して、自分の希望のリップベンド挙動に細かくカスタマイズする。
・リップベンドの幅をフル(PB値0〜127)にすることにこだわらない。幅が半音でも良いかもしれないし、ビブラートだけなら半音も不要。アップ側だけを小さくすることも可能。それらも含め自分の好みにあわせる。
・ベンドフレーズにはEWI同様の親指ベンドセンサを活用できるのでリップベンドだけにこだわらなくても良い

リップベンドも可能で、かつタッチセンサ式のキー/オクターブローラー/親指ベンドセンサ方式を採用したウィンドコントローラーはMWiCだけです。つまりMWiCはEWI奏者が普段のEWI奏法をそのまま表現できる上に、EWIでは不可能なリップベンド奏法を加えた音楽表現が出来る可能性があります

MWiCによって新しいウィンドシンセ表現が生まれるかも!生まれてほしい!!


【ご注意】2023年7月スタートアップ企業Teefonics社より、日本発の新しいWind Midi ControllerであるMWiCの販売予約と貸出試奏受付が開始されました。私は先行してテスターをさせていただいておりましたのでその経験メモをここで共有しております。というわけで本記事の内容は単なる一人のユーザーの経験談でありTeefonics社の公式見解とは無関係です。また速報的なものですのでこれからどんどん変わっていくこともあり得ます。その点ご理解の上、参考になれば幸いです。


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