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ざっくり解説:アルメニアン・ダンス

こんにちは!ウインドオーケストラオリジンです!
年の瀬ですがいかがお過ごしでしょうか。

今回は演奏曲解説シリーズ第一弾、来る第5回定期演奏会のプログラムより、「アルメニアン・ダンス」をお届けいたします。

本投稿を読めば、第5回定期演奏会をもっと楽しんでいただけること間違いなし!

担当は原田さんです。
それでは本文をどうぞ!



『アルメニアン・ダンス』とは

『アルメニアン・ダンス』は、アルメニアにおけるクラシック音楽の創始者といわれるコミタス(1869-1935)によるアルメニア民謡集に基づいて作曲された、全4楽章からなる作品です。コミタスは4000曲以上のアルメニア民謡を収集・採譜・分析し、ピアノ伴奏付独唱や無伴奏合唱などに編曲しており、リードはこれらの楽譜を下敷きとして、本作を完成させました。

『アルメニアン・ダンス』は単一楽章からなる「パート1」と、3楽章からなる「パート2」に分かれています。なぜ2つに分かれたかについては、出版社の関係ではないかといった意見もありますが、はっきりとしていません。はっきりしているのは、「パート1」「パート2」は別々のタイミングで完成され、初演のタイミングも異なる…ということです。リードが最初から全4楽章を想定していたかについても定かでないところが多く、本作を委嘱したハリー・ビジャン(1921-2010)は、「『パート2』は1973年の『パート1』の初演の成功を受け、リードがコミタスに引き続き関心を寄せていたため委嘱した」と述べています。確かに、4楽章構成とするのであれば、第1楽章にあたる「パート1」にやや比重が偏っており、結果としてみればビジャンの言葉に信ぴょう性があるものと思われます。それぞれ独立した作品として、単独での演奏機会も多くなっています。

本作の作曲の下敷きになっているのは民謡であり、元々は舞曲ではなく「歌」です。吹奏楽において民謡による組曲は、レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ(1872-1958)の「イギリス民謡組曲」など様々な名作がありますが、リードはコミタスが収集した民謡をそのまま用いず、メロディの特徴を生かしながらもリズムやハーモニーを自由に展開することで、交響的な「舞踏組曲」として完成度の高い内容にまとめあげています。


金管セクション練習風景

「パート1」について

「パート1」は1972年の夏に完成し、1973年1月10日にハリー・ビジャン指揮、イリノイ大学シンフォニックバンドによって初演されました。この時にはまだ「パート1」の表記はなかったようです。
以下の5曲を、メドレー風に接続した作品となっていますが、前述の通り民謡をそのままつなげたわけではなく、リード独自のアレンジが加えられた、ヴァラエティ豊かな単一楽章の作品となっています。

第1曲「あんずの木」
原曲のアルメニア民謡では不遇を嘆く内容となっていますが、リードは、原曲の心の叫びのようなレントの部分をファンファーレ風に仕立て上げ、全曲の前奏曲としての性格を強く押し出しています。

 第2曲「やまうずらの歌」
 実は原曲はアルメニア民謡ではなく、アルメニアの詩人であるホヴァネス・トゥマニャン(1869-1923)が民間伝承をもとに創作した詩に、コミタスが作曲したものです。児童唱歌として親しまれており、2小節のフレーズを独唱が歌うと、児童合唱がそれを追いかけるように歌う、というスタイルをとっています。リードも同様の形式を踏襲しており、同じフレーズを2回繰り返しながら進みますが、リードのオーケストレーションによる、繰り返す前と繰り返した後での豊かな音色の違いがひとつの聴きどころとなります。

 第3曲「ホイ、僕のナザン」
 原曲は遠くから来た花嫁のナザンを迎える内容の、結婚式でも歌われるような8分の12拍子の歌です。リードはこの曲の拍子を8分の5拍子と8分の6拍子が入り混じる状態にしており、スリリングで民族色豊かな舞踏曲としての性格を強めました。また、「パート1」を5楽章構成と見たとき、ちょうど中間のスケルツォ楽章としての意味合いも持たせているものと思われます。

 第4曲「アラガツ山」
 アラガツ山は、アルメニアで2番目に高い山(4,095m)であり、原曲はゆったりとしたテンポの愛の歌となっています。『アルメニアン・ダンス』では、そんな雄大な山の姿を思わせる、息の長いフレーズが特徴的な、歌心あふれる楽章となっています。

 第5曲「ゆけ、ゆけ」
 原曲ははつらつとした愛の歌ですが、リードはテンポをさらに速め、激しくも楽しげな舞踏曲として、また「パート1」を締めくくる終曲としての役割を持った曲に仕上げました。木管楽器の16分音符が細かく動き回る中、金管楽器の咆哮が響きわたり、エキサイティングな雰囲気の中で幕を閉じます。


木管セクション練習風景

「パート2」について

 「パート2」は1975年の冬に完成し、1976年4月4日に「パート1」同様ハリー・ビジャン指揮、イリノイ大学シンフォニックバンドによって初演されました。
 「パート1」がメドレー的性格を強く持っていたのに対して、「パート2」ではひとつの楽章の中で民謡の可能性を拡充しつつも、同時に『アルメニアン・ダンス』全体がひとつの交響的な組曲としてのまとまりと説得力を持つように注意が払われています。

 第1楽章「風よ吹け」
 原曲のアルメニア民謡は、日照りによる農作物の被害から解放してほしいと山に祈る内容となっています。原曲のメロディの順番を入れ替えたり、部分的に音程を上げたり下げたりすることによって、作品に更なる抒情性とドラマティックさを付加することに成功しています。オリジナルの伴奏に続いて謳われるコール・アングレのソロは、農民の苦しみを訴えるかのように切々と歌われるのが印象的です。

 第2楽章「フマル」
 フマルとは女性の名前で、原曲では新婦フマルと新郎サハクの結婚パーティの様子をストーリー風に描く内容となっており、今も結婚式等で陽気に歌われます。コミタスの編曲では2小節のソプラノ独唱に続いて合唱が追いかける形になっていますが、リードはそれにとらわれず、『アルメニアン・ダンス』全体で見たときに、スケルツォ或いはメヌエットの楽章となるような、明るく華やかな性格の舞曲にまとめています。

 第3楽章「ロリ地方の農耕歌」
 原曲は耕作中に家畜や労働者を鼓舞するために歌われていたもので、先頭の牛に乗る年長のリーダーの歌に続いて仲間たちが唱和することで、統率のとれた動きができていたようです。中間部の8分の5拍子の部分以外は、原曲をどのように使ったかはっきりせず(リードは「直感的に書いた」と述べています)、原曲のエッセンスを生かしながら、『アルメニアン・ダンス』全体の終曲を飾るにふさわしい劇的で迫力のある舞曲に仕上げました。また、中間部のフルートに導かれるように途中から8分の6拍子による『キリキア』という別のアルメニアの大衆歌が歌われており、過酷な労働の中で行われる一瞬の回想のような効果をもたらしています。

(本稿は、アルフレッド・リード著、村上泰裕著訳『アルフレッド・リードの世界』(スタイルノート,2023)を参考に執筆しました。)


以上、アルメニアン・ダンスの解説でした!


★次回演奏会情報★

<ウインドオーケストラオリジン 第5回定期演奏会>

日程:2024年2月10日(土) 13:15開場 14:00開演

場所:江戸川区総合文化センター大ホール


【オールリードプログラム】

曲目:アルフレッド・リード作曲/

アルメニアン・ダンス パート1
アルメニアン・ダンス パート2
オセロ
第2交響曲

指揮:高野義博
入場無料(未就学児入場不可)

当団の記念すべき第5回定期演奏会では、名曲プログラムとして吹奏楽界の巨匠、アルフレッド・リードの作品を取り上げます!

曲目は、日本で最も有名なリード氏の作品と言っても過言ではない「アルメニアン・ダンス」、シェイクスピアを題材にした作品群でも人気の高い「オセロ」、リード氏の初の吹奏楽編成の交響曲である「第2交響曲」を演奏します。いずれも1970年代に作曲、初演された作品です。

挑戦的なプログラムではありますが、当団の記念すべき第5回演奏会に是非ご期待ください。

団員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。


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