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WIM Journal Vol.1 国際女性の日

Women In Music Japanは、音楽業界に携わる全ての女性の権利向上や意識改革、雇用機会改善と促進、ダイバーシティ推奨などをミッションに掲げて活動をしています。その一環として、日本そして海外で行われてきたリサーチや論文の中から、特に音楽業界におけるジェンダームーブメントや女性を取り巻く環境について紹介をしていきます。

国際女性の日

記事第一弾として紹介する「国際女性の日(International Women's Day)」は、1975年3月8日に国連によって制定されました。女性達による社会的、文化的、政治的な功績を称える日であり、 また男女不平等に関する問題の提唱、改善へとつなげていくための日でもあります。2021年のテーマは #ChooseToChallenge (挑戦することを選ぼう)。どんな事柄においても、何かしらの変化を起こすためには「挑戦」が不可欠となります。男女格差について考えさせられる機会が増えている今、より多くの人々が身の回りの環境と向き合い、社会の歪みに気付くことが男女平等への第一歩となるのではないでしょうか。

ジェンダーバイアス

「ジェンダーバイアス」という言葉を聞いたことはありますか?男女の役割について無意識のうちに作られた固定観念のことであり、誰しもが少なからず持っていると言えます。「男だから重い物を運ぶ」「女だから外出時にメイクをしなくてはならない」というのも、バイアスの一種です。しかし、よく考えれば性別に関係なく重い物を持ち上げることが出来る人が持ち上げれば良く、メイクをしないで外に出ても人々に迷惑をかけることは無いのです。また「女社長」や「イクメン」などという言葉も耳にしますが、裏を返すと「社長という役職は通常男性のポジションであるから、女性がなるのは珍しい」「育児は女性がやるものであり、それをやっている男性は特別だ、かっこいい」という思い込みからきているものです。もちろん、このような考え方は悪意からきている訳ではない場合がほとんどでしょう。しかし悪意が無いからこそ気づきにくいものであり、実は個人の可能性を潰してしまっていることもあります。 国際女性の日は、それらの固定概念が社会に存在することや、それが引き起こす男女不平等についてより多くの人に知ってもらうためのムーブメントでもあるのです。

音楽業界に存在するジェンダーバイアス

では、音楽業界に存在するジェンダーバイアスとはどのようなものなのでしょう。American Economic Reviewによれば70年代から80年代にかけてアメリカの音楽大学を卒業した人の中で女性の割合は半数を超えていました。しかし、実際にオーケストラで演奏している女性団員の割合は全体の10%以下であったと言われています。70年代というと、音楽業界でも女性の権利について主張がされ始めた時代であり、応募者の性別を伏せて行う「ブラインド・オーディション」という方法がいくつかのオーケストラで採用されるようになりました。この取り組みによって女性ミュージシャンが採用される割合が徐々に上がり、2000年代には25%から45%ほどになりました。この研究で明らかになったことは、性別を認識することで雇用における男女差が生まれるということです。
音楽業界において男女差がみられるのはミュージシャンだけではありません。「USCアネンバー グ・インクルージョン・イニシアティブ」が音楽業界を対象に行った調査結果によると、2012~2017年の間にリリースされ、Billboard Hot 100にランクインした600曲のうちプロデューサーとしてクレ ジットされている男性と女性の割合は49:1で圧倒的に多くの男性がクレジットされていました。女性プロデューサーがクレジットされている場合でもパフォーミング・アーティストを兼任しているケースが多く、プロデューサー専任の女性が音楽プロジェクトを仕切っているという例は稀です。また、日本およびアメリカのジャズメディアが行った2019年のアルバムレビューでレビュワ―として起用された女性はほぼ無に近いという調べもあります。ジェンダーバイアスの例として「男性はリーダー、女性はサポート」というものがありますが、このバイアスも男女格差の現状を作り出している理由の1つとも考えられるでしょう。
このように音楽業界には男性優位の社会が存在し、楽曲制作やコンサートの責任者または批評家という立場で女性の意見が反映される機会は低いと言えます。 この考察は女性のプロデューサーや評論家を増やし、より多くの女性ミュージシャンがランキング入りをしたり注目を浴びるべきと述べているわけではなく、そのようなポジションに女性が加わることによって音楽シーンは違ったものになるであろうということを示しています。

ジェンダーによって生き方を左右されるべきではない

2021年3月4日に行われた、LinkdIn主宰の国際女性デーの特別企画では「無意識バイアス」の存在を認識することの重要性についての議論が行われました。その中で、ゴールドマンサックス 証券元副会長であるキャシー松井氏がこれからの時代で必要なスキルは「4Cs」であるという話をしています。
4Csとは、
- Communication (コミュニケーション)
- Collaboration (協働)
- Critical Thinking (批判的思考)
- Creativity (創造性)
という4つのスキルです。中でも「創造性」というのは長年続く同じ思考や行動よりも、多様なバックグラウンドや経験・立場を持つ人々の中で生まれることが多いでしょう。昨今問題視されている男女不平等の日本社会は、男性の特権や優位性がずっと存在してきました。男女格差が浮き彫りになり始めた今、女性の立場や置かれている状況を改善して、性別に関係なく活躍できる新たな社会を作るべきではないでしょうか。松井氏は議論の中で、今までになかった社会の仕組みを取り入れることにより摩擦が生まれるということも指摘しています。もちろん、長年続いてきた状況を変えるということは大変な道のりであり、決して簡単なことではありません。しかし、そこで今こそ社会全体で挑戦「#ChooseToChallenge」することを選ぶのです。「男性だから」「女性だから」という固定概念に縛られることなく、全ての人が自由に生き方を選択できる世の中を作っていきましょう。

Women In Music Japanは、今後も音楽業界における男女不平等やジェンダーバイアス、ムーブメントについての 情報収集やリサーチを進めていく方針です。関連リソースがあれば、ぜひWIMJまでお知らせください!


参考文献
International Women’s Day
Orchestrating Impartiality: The Impact of "Blind" Auditions on Female Musicians 無意識のバイアス - Unconscious Bias - を知っていますか? 
ジェンダーギャップと無意識バイアス
SDGsや国際女性デーで注目される女性のエンパワーメント 
総務省統計局:人口推計
音楽業界のジェンダーバランス 2019-2020 
音楽業界のジェンダーギャップ、女性の裏方は皆無
15,000名のデータから見る「無意識バイアスが企業に及ぼすリスク」 
ジャズ批評のジェンダーバイアス


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