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だって私は分別のある大人だから、電車の中で泣いたりしない

分別がつく大人になってしまったがゆえに、しなくなってしまったことって意外と多い。

例えば、人目を憚らずに泣くこと。ヒューマン恋愛ドラマなるものを見ていると、ときどき「えっ……そんなとこで泣くの?」と思うシーンが出てくる。“ そんなとこ ” というのは、場所もあるし、泣く理由としてもあって。

場所でいうと、電車の中とか、大雨の中で傘もささずに、とか。「泣く」ってことは感情爆発で、自分ではコントロールができないがゆえの涙もある。思い出して「うぅ……」ともなるし、目の前に相手がいなくなったことでブレーキが効かなくなることもあるだろう。しかし、そうであったとしても、電車の中で泣けるか? 私だったら、「ハンカチで鼻を抑えて、あたかも気分が悪いのでそうなっちゃってますよ」を装ってしまう。または、電車の端の端に立って、風景を見てるふうを装う。どちらにしても、「泣いている」ことを悟られないようにしてしまう。……めちゃめちゃ人目を憚る。なんていうか、「やばい人」「明らかに何かあった人」と思われることが、たったその場限りで今後一切会うことはない一期一会同士の中であったとしても、私は私自身の羞恥心からそれを許せない。大雨の中でもそうだ。せめて傘はさそう。途中から降った雨だとしても、コンビニで傘を買おう。私なら絶対に買う。


他には、自由にご飯を食べること。今、自由にご飯を食べられていないかというとそういうことではなくて、例えばカレーをルウとご飯を混ぜて食べるとか。魚の骨を手でバスバスとるとか。いわゆる、マナーやビジュアル的にどうなのか、とされる気持ちが邪魔してできなくってしまった食べ方だ。カレーなんてほんとうは、混ぜて食べたほうがいいのだ。配分をミスって白米を白米で食べることもないし、ルウだけが残って、ルウだけを掬って食べることがなくなるんだから。なのに私は、丁寧にスプーンのうえで、ミニカレーをもう1つ作って口の中でカレーライスにする。している、今のところ。

魚の骨だって、家だと遠慮なく手でとっている。だって、そっちのほうが食べやすいから。だけど外で誰かと食べるときは「ウフフフ」と言いそうな勢いで、頑張って箸を使ってとっている。「ウフフフ」と笑いながら、(この骨、ぜんっぜんとれないんだけど……!?)と思っていることを隠して。

だって私は、分別のある大人だから。

”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。