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組織サーベイは結果が出た後のフィードバックが勝負!~企業内ファシリテーターに必要なこと~

「で、この結果を社員にどう伝えるの?」
役員会で組織サーベイの結果を報告した後、担当者は役員からよくこういった質問を投げかけられます。多くの会社で「調査結果を全社員向けにメールで流して終わり」というパターンが多いようですが、それでは折角のデータが効果的に活用されているとは言えません。

サーベイ結果を、回答者と共有し、結果に基づいて改善点や行動計画を話し合っていくことをサーベイフィードバックといいますが、本来は、企業内ファシリテーターが部署毎に丁寧にサーベイフィードバックを行っていくことがあるべき姿でしょう。

では、そのサーベイフィードバック、どのように進めていけば良いでしょうか。2024年7月、日本教育工学会論文誌で、サーベイ結果をフィードバックをする上での企業内ファシリテーターの行動について分析した論文(※)が発表されました。論文の中では、実際の企業内ファシリテーターへのアンケートをもとにしたファシリテーターとしての5つの行動項目(下記)を明示しています。

①相互理解の促進
②的確な課題設定
③ボトムアップ型の計画策定支援
④配慮ある伝達行動
⑤話し合い時のプロセスの観察

これらの行動項目について、私の経験も踏まえつつ考察していきたいと思います。

①相互理解の促進
この項目には、「メンバーの話を最後までじっくり聴く」や「メンバー同士でコミュニケーションを取れる場をつくる」という具体的な行動が含まれます。勿論、前者のように、課題を議論する際に、ファシリテーターが傾聴の姿勢をとることはとても大切ですが、ファシリテーターと個々のメンバーとのやり取りだけでは議論は前に進みません。ここでは後者の行動、つまり、メンバーの意見や質問を他のメンバーに振るなど、メンバー間の話し合いを促進していくことも入っています。

②的確な課題設定
サーベイ結果のデータを単に共有しても、それぞれのメンバーが独自の解釈をしてしまい課題の見方が分かれてしまいます。おそらく、そういった状況になると、チームが合意する共通課題に辿り着くまでに相当な時間がかかります(場合によってはそこまで辿り着けないかもしれません)。必要なことは、事前にファシリテーターがサーベイ結果を見て解釈し、自分なりの課題仮説を設定しておくこと。その仮説をベースに意見を求めていけば、効果的、効率的に共通課題に向けた議論が展開できるでしょう。

③ボトムアップ型の計画策定支援
サーベイ結果を見ると、とかく低い点数ばかりに目がいきがちです。そして、組織の弱みばかりに話しが集中しそこに留まってしまいます。ファシリテーターは、それに流されることなく、適宜、組織の未来像や大切にしている価値観を問いかけながら、現状とのギャップ、そして、それを埋める計画策定の議論を進めていく必要があります。そして、一部の声の大きい人たちだけで決めるのではなく、若手や主張が苦手な人にも意見を求め、ボトムアップで話し合いを進め、その場の全体の肯定性や上げていく意識を持つことも大切です。

④配慮ある伝達行動
サーベイ項目が多いと、何に注目して良いか分からなくなることもあります。ファシリテーターは結果の見せ方を工夫する必要があるでしょう。例えば、組織の特徴を、組織の強み3点、課題3点に絞って纏めたり、また、その部署で対応できる項目に絞って整理していくことも大切です。また、項目によっては、一部のメンバーが犯人とされてしまうこともあります。そうならないよう、課題を人と結び付けず、組織全体の問題として捉えるよう促し、場の心理的安全性に配慮していくことも気を付けておくべきことでしょう。

⑤話し合い時のプロセスの観察
ファシリテーターがその組織のメンバーである場合、話し合いの中に没入してしまい、場の状況を客観的に見られなくなるケースもあります。ファシリテーターは、常に議論の流れを客観的に見て、いまどこのプロセスを話し合っているのか、場の雰囲気がどうなっているのか的確に把握し、その場にフィードバックしてあげることが大切です。そして、全員の声に耳を澄まし、組織の将来に向けてより良いアイディアが出たときは見逃さず、積極的に取り上げていくことも重要です。

この5つの行動項目を実施するため、具体的にファシリテーターはどのようなことを気を付けておくべきでしょうか。さらに下記に3つのポイントを提示します。

●5つの行動項目を軸に場数を踏む
上記の行動項目を評価項目とし、とにかく経験を積むことです。そして、ファシリテーションが終わった後に、メンバーやオブザーバーから評価をもらい、自分では気が付かなかった癖や、気づいていなかった自分の特長を明確にしていくと良いでしょう。参加メンバーからの声は、ファシリテーションスキルを向上させる上で何より貴重なものとなります。

●サーベイ結果を適切に取り扱う
通常のファシリテーションと違うのは、サーベイ結果を効果的に議論に活用していくことです。そのためには、
1)事前に対象組織の強みと課題を整理し、自分なりの仮説を提示する。
2)フィードバックでは、微細に入らず、結果を切り口に対話を促す。
といったことが大切になります。事前に組織のデータを読み込んで仮説を立てるなど徹底的に準備する一方で、実際のファシリテーションのでは、そのデータに拘り過ぎず、場に出てくる意見に注目しながら、柔軟に話し合いを展開させていくことが大切です。

●グランドルールを作る
話し合いの最初にメンバーとルール作りをしておくことも大切です。例えば、
「全員の意見を尊重する」
「犯人捜しをしない」
「時間内に行動計画を策定する」など、
こういったルールを事前にメンバーと共有しておけば、より中身の濃い議論に繋げられていくでしょう。

サーベイ結果は組織を良くするための様々なヒントが隠れています。それを経営報告だけで済ませておくのはもったいないこと。上記のファシリテーションにおける注意点を参考に部署単位でフィードバックし、サーベイに参加してくれたメンバーに結果を届けていくことが、組織開発の重要な一歩となります。

※)東南裕美,池田めぐみ,中原淳(2024)企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発,日本教育工学会論文誌

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