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新生児の疾患:呼吸器疾患

こんばんは!yanagiです。
学生のうちに小児科専門医試験に受かるくらい勉強したいという気持ちで、日々学んでいます。

ぼくが尊敬する人のひとり、順天堂大学小児外科の山高篤行先生。
彼の言葉に「常に臆病であれ」というものがあります。自分の出した答えが本当に最適なのか、何度も繰り返し吟味する。本番への準備を決して怠らず、妥協を許さない。その姿勢に衝撃と感動を受けました。
自分には臆病さが足りないと思う瞬間が多くて、特に最近は山高先生の言葉をよく思い出しています。

さてさて、今日扱う内容は「新生児の呼吸器疾患」です。

【問題】在胎37週3日に予定帝王切開にて出生した女児。体重は2300gでApgarスコアは7点/1分だった。羊水混濁を認めず、呻吟や陥没呼吸が出現した。もっとも考えられる疾患はどれか。
a. 呼吸窮迫症候群
b. 胎便吸引症候群
c. 新生児一過性過呼吸
d. 動脈管開存症

《問題の正解は一番下にあります》

新生児仮死

出生時に呼吸循環不全に陥った状態を新生児仮死といいます。原因の90%が分娩前や分娩中の胎児機能不全です。そのほか、過強陣痛・遷延分娩や胎児発育不全・胎児水腫なども原因となります。

仮死の程度を客観的に評価するために、Apgar scoreが用いられます。すべての出生直後の新生児に対して、出生後1分および5分の時点で調べます。5分時点での点数は神経学的予後によく相関します。点数が高いほど良い状態であることを表します。

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軽度仮死(4〜6点)ではチアノーゼを認めるものの刺激を与えると反応を示し、自発呼吸をはじめます。重度仮死(0〜3点)では刺激や酸素投与にも反応しません。
呼吸障害の判断には、Silverman-Anderson retraction scoreが用いられています。Apgar scoreとは逆で、点数が高いほど障害の程度が強いことになります。

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対応としては、とにかく呼吸を確立させて低酸素状態から脱出しなければなりません。まず、乾布での全身の水分の拭き取りと全身刺激を行います。改善が見られない場合はマスクとバッグを使った陽圧換気を行い、それでもダメな場合は気管内挿管し、陽圧人工呼吸とします。重症例では死に至ることもあり、乗り切ることができても、低酸素症による中枢神経障害を起こし、脳性麻痺や知的障害、てんかんなどの後遺症を残す場合が多くなります。

呼吸窮迫症候群(RDS)

胎児の肺は肺水で満たされ萎んでいます。分娩中、産道を通過するときの圧力で肺水は押し出され、さらに出生時の第一啼泣により肺が膨らむことができます。
しかし、肺の成熟が十分に進行していないと、肺サーファクタント(在胎34週で完成)が不足しているため、呼気終末で肺胞が表面張力に負けてつぶれてしてしまいます。これは二次性無気肺であり、この病態を呼吸窮迫症候群といいます。
出生児体重が1,500g未満, 在胎32週以前の早産児に多いほか、母体糖尿病児や帝王切で出生した児にもみられます。

分娩時に一度は広がった肺胞が、出生後2〜3時間で徐々に虚脱し、無気肺となることで多呼吸・陥没呼吸・呼気性呻吟・チアノーゼなどの症状が出現します。呼気時には声門を閉じることで気道内〜肺胞内を陽圧に維持できますが、これによって肺胞の虚脱を防ごうとする生体防御反応が呼気性呻吟として現れます。換気不全・低酸素症により呼吸性アシドーシスを示し、進行すると嫌気性代謝の亢進により代謝性アシドーシスも合併します。

胸部X線では、reticulogranular pattern(虚脱した肺胞と機能している肺胞が混在している)とair bronchogram(空気に満たされた気管支が虚脱した肺胞と重なって写る)が認められます。出生前の羊水や出生後の胃液で調べる、L/S比やマイクロバブルテストでも診断できます。

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治療としては、低酸素症に対する酸素投与を行い、肺胞の虚脱に対して陽圧呼吸(持続的陽圧呼吸:CPAP)を行います。PaO2は未熟児網膜症*の問題があるため、50〜80Torrを目安にします。また、同時にサーファクタントの気管内注入を行います。RDSの児にサーファクタント療法を行うと高率に動脈管開存症(PDA)が生じます。低酸素状態が回復すると、肺血管抵抗が低下するため、動脈管を介する左右シャントが急増し、左心負荷から呼吸不全・心不全を招くことがあります。症候性PDAにはインドメタシンの投与や結紮術を行います。

*未熟児網膜症
早産児では眼も対外環境に順応できるレベルに達していません。治療目的で高濃度酸素を投与すると、網膜血管が成長不十分なことも相まって、硝子体への血管新生が生じ、そこから出血や網膜剥離を起こしてしまいます。そのため、必要以上の酸素投与は行わないようにします。

新生児一過性過呼吸

肺水は分娩児の機械的排出(前述)とリンパ間や毛細血管からの吸収により生後4時間くらいで消失します。帝王切開や骨盤位分娩では機械的排出が働かず、早産児や低出生体重児では低蛋白血症になりやすいことから、吸収が悪くなります。肺間質に液体が貯留していると一回換気量が減少し、多呼吸となります。(新生児一過性多呼吸

これは一時的な適応障害と考えることができ、出生後、数分から数時間に多呼吸・呻吟・陥没呼吸で発症します。肺サーファクタントは正常なので、呻吟・陥没呼吸はRDSほど顕著ではありませんし、チアノーゼも軽度です。
また、本症はRDSや胎便吸引症候群、B群溶連菌感染による肺炎、頭蓋内出血など高リスク疾患を否定することで、除外診断されます。

治療はチアノーゼが存在するとき酸素投与を行えばよい程度で、呼吸数や心拍をモニターし、嚥下性肺炎に注意して経過観察していれば24時間ほどで消失します。

胎便吸引症候群(MAS)

胎便吸引症候群は、胎便の肺内の吸引によって起こる呼吸障害です。分娩前に長い低酸素状態(胎児仮死)があると、迷走神経反射から腸管蠕動運動亢進・肛門括約筋弛緩により、児は胎便を排泄してしまいます。同時に低酸素状態によるあえぎ呼吸で胎便を含んだ羊水を肺に吸引すると、出生後に気道閉塞や炎症により呼吸障害を生じます。早産児には少なく、過期産児やFGR児に多くなります。

分娩に際して、胎児心音が弱まる、羊水混濁を認めるなど、胎児仮死の徴候が確認できることが多いです。仮死より蘇生させても、多呼吸・努力呼吸・チアノーゼなどの呼吸障害を認め、肺野には湿性ラ音が聴取されます。

胎便は気道を刺激するため、気道狭窄と炎症を引き起こします。気道が完全に閉塞すると無気肺が生じ、部分的な閉塞を示すと肺気腫となります(吸気時に空気が入るが、呼気時は気道が狭くなり空気を排出できない)。このように無気肺と肺気腫が混在することにより、X線では索状陰影斑状陰影として確認されます。

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治療としては、気管挿管して吸引、洗浄を行います。胎児仮死が認められるなら、第一呼吸開始前に胎便を気管内吸引してしまうのが予防の上では大切です。吸引で不十分の場合は、サーファクタントを使って気管内洗浄も行います。また、肺炎予防のために抗菌薬も投与することになります。細菌性肺炎や気胸を合併しなければ、 48時間以後改善されていきます。

慢性肺疾患(CLD)

酸素投与を必要とする呼吸窮迫症状が日齢28日以上続く状態を新生児慢性肺疾患といいます。低出生体重児にみられやすく、Ⅰ〜Ⅲ型に分類されています。

【CLD Ⅰ・CLD Ⅱ:気管支肺異形成】
RDSが先行する新生児慢性肺障害で、生後28日を超えて胸部X線写真上びまん性の泡沫状陰影を呈するものです。肺疾患の治療目的で行われる人工換気や高濃度酸素投与が肺損傷をきたし、それに伴う肺繊維化が原因と考えられています。

【CLD Ⅲ:Wilson-Mikity症候群】
CLD Ⅰ・Ⅱと異なるのは、RDSが先行しないこと、臍帯血や出生直後の血清IgM高値、臍帯炎、胎盤炎など出生前感染の疑いが濃厚であることです。在胎32週以下、出生体重1,500g未満の極低出生体重児にみられ、この点はRDSに類似しています。

解答

【正解】c(新生児一過性過呼吸)

*参考文献
・STEP 小児科 第3版
・PT flashcards(Twitterアカウント)
 https://mobile.twitter.com/PTFlashcards/status/1362202621793079301
・南山堂医学大辞典「シルヴァーマンの採点法」
・Wikipedia「新生児呼吸窮迫症候群」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/新生児呼吸窮迫症候群
・Wikipedia「胎便吸引症候群」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/胎便吸引症候群




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