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【読書録】「仕事ができる」とはどういうことか(山口周・楠木健)

本書は、山口周氏と楠木健氏の対談形式で進んでいく。軽妙な中にウィットに富んだやり取りが展開され、音楽を聴くように、肩肘張らずに読める内容だ。
山口周氏は、広告代理店、コンサルティングファーム等を経て現在は幅広い分野で活躍している。以前は自身のバックボーンからスライド作成の技法などスキル本を多く出版していたが、最近はアート等リベラルアーツへの重要性を説いており、スキル(のみ)の限界によく言及している印象だ。筆者も好きなビジネスパーソンの一人である。
楠木健氏は、一橋大学教授で、競争戦略論の研究をしている。「ストーリーの競争戦略」は特に有名で、戦略が思わず人に語りたくなるようなストーリーになっているかが肝要と説いており、その新しい見方は多くのビジネスパーソンに支持され、筆者も刺激を受けた。

さて、筆者は、この両者のコンビとタイトルに惹かれて本書を手に取ってしまった(笑)。
本書は、「仕事ができる」人が少ないと感じるのは何故だろう?というシンプルな問いから始まる。

私が印象に残った点は、下記4点だ。
「論理(スキル)は常に直観(センス)を必要とする」
これが、最も本書で言いたいポイントではないだろうか。何かを分析するにしても、何が原因かを直観的に掴んでいるから「意味のある分け方」ができるはずなのに、どうもそのことがあまり理解されていないんじゃないかと著者二人は説く。何かの答えを導いていくには、自分が培った経験であったり、自分の哲学・価値観だったりが起点になるはずだが、多くの人が社会現象に対して、自然現象のように法則を適用して自動的に答えを出そうとしてしまうのだと語っている。確かに、それではどうやったって平均的にしかならず、面白い答えは導けないなと感じる。これに関していうと、私は何年も前に読んだ藤原正彦の「国家の品格」がオーバーラップした。論理には必ず出発点が必要で、論理だけでは完結しない。その出発点には必ず情緒的なものだったり、日本人的な精神といった価値観があるのだと説いていた記憶が蘇った。例えば、「人を絶対に殺してはいけない」というのは論理ではなく価値観だ。論理ばかりが偏重され、肝心な価値観的なものの教育がおざなりになっていると氏は警鐘を鳴らしていた。


「上位者ほどセンスがなければならない」
上位者ほど、全体俯瞰ができ、物事の優先順位付けをつけられるセンスがないとダメだと説いている。どういう順番でXXをやって●●をやって、▲▲とストーリーで時間の奥行きをもって語れる。楠木氏の代表的な著作「ストーリーの競争戦略」ともオーバーラップする。これが、「タスクマン」になると、全てのタスクが並列なものだから「こなす」だけに終わり、独自の価値を発揮することは難しいのだ。多くの日本企業の人事制度では、スキルが高い人がまず管理者になり、その中からセンスのある人を経営陣に選んでいくというシステムだが、果たしてそれがいいことかという疑問を呈している点は面白い。GEは若手時代からのセンスのタグ付け能力が秀でており、だから経営者人材がどんどん育っているのだと膝を打つ納得感がある。

「自分の土俵を分かっているか」
初めのうちは、とにかく何でもやってみることが重要かもしれないが、それをずっと続けている人はセンスが悪く、「これが自分の土俵だ」という感覚をもっていることが、仕事ができる人の特長と説く。「なんか、俺みんなが空振りするスライダーを何故かうまくヒットできるんだよね」と気づいた方は、他のボールは捨てて徹底的にそのボールを狙いヒットにできるから高い成果が出せるという山口氏の喩えは分かり易い。

「芸人は努力をするな」
かつて芸能界を引退して島田紳助が、吉本の若手芸人に対して言った言葉とされる。若手芸人は、売れるために漫才の練習を何度もするのだが、紳助に言わせると順番が違うと。どうやったら売れるかの戦略なしにひたすら漫才の練習をする前に、まず笑いの戦略を立てんかいと言うのだ。お笑いはマーケットであり、競合がいる、だから戦略なき努力は意味がないと主張する島田のメタファは、目から鱗だ。

「センスがいい」、「センスが悪い」をこれまでなかなか言語化できずにいたが、あー、なるほどなと思える対談だ。スキルや資格は数多く手にしているが、どうも仕事が上手くいかないと感じる方は手にとって見るとヒントを得られるかもしれない。

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