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【ABZU:分析】癒やしのために恐怖を克服する。それはまさしくゲームの体験

”「海中に川が流れているんです。海は十分に不思議な世界なので、作り物は不要なんです。実に素晴らしい場所です。」”

UNREAL ENGINEのインタビューより引用

ウィキダです。
ゲームのグラフィックは日進月歩で向上しているがここまで現実の海の美をリスペクトした力強い言葉もあるだろうか。今回は癒やしゲーと名高いABZUの癒やしについて分析したい。というより一見ゲーム要素の薄い本作に深海のごとく潜む単なる映像では表現できない要素について触れたい。

ABZUは海を泳いであらゆる海洋生物と触れ合うゲームだ。Steam、Xbox Oneでプレイできる。2018年2月7日にPS4でも配信されている。基本的に一本道で壁画をみたりホオジロザメを行く先を追うことによる非言語的なストーリーが特徴。特に時間に追われることもないのでひたすら魚につかまって遊んでもいいしどんどん次の魚をみるために進んでもいい。

本作は攻略の観点から言えばひたすら先へと進むだけでいい。閉まっている扉などもあるが鎖や水路など目で追っていけば必ず辿り着けるようになってている。これは海を縦横無尽に泳げる分、迷子にならないようにする配慮だろう。つまりあくまで探索のための導線であり、仕掛けを探すのこと自体は楽しみとして重視されていないと言える。

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はじめて鎖から扉をあけるこのエリアに入った時点で
狭い道からすでに鎖が伸びていて気を惹くようにできている。

そういった快適さの反面、本作を遊ぶうちに「もしかしてゲームじゃなくてアニメーション作品で良かったのではないか」という疑問が沸く。

私もそう考えていたがいくつか引っかかる点からABZUがゲームならではの体験を知らずのうちに引き出していることに気がついた。
それはこのゲームが美しさの中に恐怖や畏れを与えつつ、克服するという側面をもつゲームなのではないかという考えだ。

◯ABZUは意外と怖い。

まず本作の進行自体がパニックホラーの定番であるホオジロザメを追う点からかなり意図的に恐怖の演出がされている。
序盤でホオジロザメは目の前をゆったりと横切ったあと、すこし場面をおいて主人公のサポートメカを破壊してしまう。その後もごく短いが度々プレイヤーの前を横切るようになり「もしかして他にももっとヤバいのがこの海にいるんじゃないか」と考えるようになる。

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間違ってDepth買ってないよな…

他にも底の見えない暗い海、海藻に遮られた視界、遠くから見える巨大な魚影。恐怖の対象が幽霊やゾンビではないから個人差は大きいだろうが少なからず恐怖というか畏れを駆り立てる要素はある。本作の感想などを調べてみたが確かに同じような感想が見られた。

しかしストーリーに関わるホオジロザメ以外はその気になれば無視して逃げることもできる。だからある意味自分の距離感で触れ合える。
特にウバザメなどがいる各エリア間にある海の暗がりなどはすぐ近くに別エリアをつなぐゲートあるので怖かったらすぐ回避出来るように配慮されている。

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上に戻れば次へいける。下に進めばいったい何が……?

しかしABZUの魚はあくまで気ままに泳いでいるだけで驚かせることはあっても襲うことはない。魚たちがプレイヤーに直接害を与えない存在だということがわかってくると次第に恐怖よりも好奇心が強くなってくるだろう。ゲーム自体も初めはシャチやマナティーがいる明るく華やかな海から慣れていき徐々に暗い海になってゆきダイオウイカやエラスモサウルスといったうっかり出くわすと驚くような生物が増えてゆく。

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なんか…すごい魚影が見えるんですが……

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なんか…すごいのいるんですが……

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なんか!すごいのに掴まって泳いでいるんですがー!!

やがて魚たちに近づき掴まって泳いだり、石像から眺めたりしていくうちに恐怖の対象は癒やしの存在に変わっていることだろう。もし気に入らなくてもこの広い海には無数の海洋生物がいるから先へと進めばまた新たな魚たちと出会える。本作の進行はリニアで進行方向の自由度は低い。しかし少しずつ、そして常に主体性を刺激するゲームとなっている。

なかには掴まった時にあまり言うことを聞かない魚もいるがそういった魚が「この魚はどういう泳ぎをするんだろう」といった疑問を作ってくれる。どんな結果であれ、好奇心から自分から近づいていって確かめる。それもまた一つの楽しみに変えてくれる。もしどの魚も単に速さの優劣しか違いがなかったらきっと攻略のための乗り物にしか見えなくなるかもしれない。

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アノマロカリスちゃんに掴まってもご飯に夢中で振り回される。

◯まとめ

自然とふれあうといっても様々な形があると思う。犬のようになついてくれることもあれば餌付けしてもなびかない虫のような生き物だっている。海洋生物に表情はない分プレイヤーに微笑むようなことはないがその分、媚びることのないあるがままの自然に対して好奇心を刺激してプレイヤー自身のペースで自ら主体的に関わっていけるようになっている。これはまさしくゲームの持つ特徴を活かしているといえるだろう。

ABZUは文字情報がないゆえに様々なストーリーの考察がなされている。今回の分析はあくまでゲームの面白さに焦点をあてている。だが今回の分析から推察するに自身も機械だった主人公が他の三角錐の機械を破壊して自然をとりもどし、ホオジロザメとともに戯れるEDになっているのはそういった自然への恐怖や畏れを受け入れることによって真に美しさを讃えることができるようになったというメタファーともいえるかもしれない。

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買ったのはDepthじゃなかった…ほんとによかった……

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