姥ときめき

東京ー新潟の往復新幹線の中で、田辺聖子の「姥ときめき」を読んでいた。この作品自体は昭和59年刊とあるが、文庫本になったのは昭和62年、もともとは母のものだったのだろう。昨年秋に妹のところの書籍整理を手伝った際に、「私が読んでから処分する」箱に仕分けして持ち帰った本の1つだ。
当時、田辺聖子の小説は大人気だったが、30代半ばの私には今ひとつピンとこなかった。ところが75歳になった今読むと、夫に先立たれた77歳の主人公、ひとり暮らしの「歌子さん」のコテコテの関西弁が全部スッと入ってきて、実に面白い。常識の中にはめこもうとする息子や嫁の言いなりには、決してならない、素直ではないしちっとも可愛らしくない、強気のマンションひとり暮らし、良妻賢母の延長線上にある理想のおばあちゃん像とはかけ離れたへそ曲がり・・・。令和になった今ならともかく、「女たるものかくあるべし」と決めつけられていた時代だから、歌子さんの言動を読んで、主婦たちは胸がスカッとしたのだろう。
「姥ときめき」ー、ただ、ときめきの内容はことごとく、出会い、見合い、結婚、男と女なのだ。しかも、60歳過ぎた女はみんな老女で、70そこそこの男とくっつく話ばかり。そんな決めつけには乗らない、散歩相手、話し相手に胸おどらすことはあっても、それが幸せのすべてとは思わない、経済的にも精神的にも自立していて、自分の考えをちゃんと持っている歌子さんのような高齢者が、増えているなら嬉しいのだが・・・。


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