大きな声をだす

足がつる、足がつる……、予感的中、左足がキーンとつって目が覚めた。そんなときはたいてい、つった方の足先が掛け布団からはみ出している。いててて……痛~い! 私は大きな声をだして足を高く持ち上げた。東側の窓のカーテンからは、すでに明るい日差しが注ぎ込まれている。
朝でも昼間でも、夜、真夜中だって、窓さえ開いていなければ、好きなときに好きなだけ大きな音をたてても、何の問題もない、だれに咎められるわけでもない、これがひとり暮らしのいい所だ。痛い、痛いと大げさなくらい声に出せば、紛らわすこともできる。嬉しいときには思いっきり笑えばいいし、作り笑いだってかまわない。自分に腹を立てて悪態をついたって大丈夫。懐かしい歌が流れてきたら、多少音が外れようが、声が裏返ろうが、堂々と歌えばいい。踊ったっていい。自由気ままに大きな声が出せるというのは、案外いいストレス解消法になるもんだ。
4人の子持ちのお向かいさんを除いて、右隣も左隣も、そのまた隣も、裏並びのお宅も、わが家の周りはぜ~んぶ高齢者。何十年も前は、子どもを叱る声や泣き声、飼い犬を呼ぶ声などなど、なんやかんやと大賑やかだったはずだが、今やいるのかいないのか。ガラガラガラ~と雨戸を開け閉めする音が、唯一の在宅確認だ。誰かが尋ねてきて会話をすれば音や気配が伝わるが、老人が家の中で大声で笑おうが、歌おうが、1人がたてる音は案外外には流れてこない。誰に憚ることなく、私は自由に暮らしている。


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