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note界のシンデレラは、かぼちゃの馬車を間違えた

先週の土曜日、渋谷に行くことになった。発端は岸田奈美さんの生配信での早出し告知だった。


「これ言っていいんかな、いいか、言ってしまえ」


こんな感じでサラッと水面下で動いている企画を告知してきたのである。


「今度の土曜日に、へラルボニーさんがブースを出している渋谷スクランブルスクエアで出版記念サイン会をやらせていただくことになりましたぁ〜」

彼女の初著書である「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の出版を記念してサイン会を行うらしい。

全然行けるやん。それも写真家のかつおさん(仁科勝介さん)の写真展が、ほぼ日曜日で開催中で、これは良きタイミングだと思い朝から渋谷に行く決意をした。

カツアゲにビビった末の悲劇

思い返せば、初めて渋谷に行ったのが中学1年になってすぐの頃だった。確か靴を買いに行ったんだと思う。今ほどABCマートが店舗展開していなかった頃、さらに言えばAIR MAXとジョーダンのバッシュが全盛の頃だ。

そして、カツアゲも日常茶飯事のように横行していた時代だった。

ぼくは見た目とは裏腹に、ノミの心臓だし浅い醤油皿くらいの心の器の持ち主だ。

要するに、ビビりなのである。

かといって「ぼくビビりなんです」と口裂け女のように口が裂けても言えない。

そんなぼくを分かっていたのか、はたまたただの心配性なのか、母親はぼくに持たせた一万円を財布ではなく別のところに隠せと言い出した。


「靴下の中に入れて行けばバレないんじゃない?いいね!そうしよう」


きっと母親にしてみれば、エジソンが電球を発明した時やトースターを売るために朝食もしっかり食べよう!と行った時のひらめきに近いものを感じていたはずだ。

ぼくもいけなかった。まだまだ純粋だったぼくは、あまりにも心配する母親に従って、くるぶしまでしかない靴下にそっと福沢先生を忍ばせた。くるぶしに印刷されているナイキのスウォッシュがのびのびだったことも忘れて。


どんな靴が欲しかったのかは覚えていない。だけれどこれだけは一生忘れない。

レジ前で靴下からお金を出すのはさすがに恥ずかしいので、トイレに行って靴下から財布にお金を移してからレジに向かおうとした。

個室に入って靴下を探る。

・・・ない。

・・・・いない。福沢諭吉先生が。

右足に入れたはずだ。もしかしたらぼくはMr.マリックのように瞬間移動ができる能力者なのかもしれないと思ったか思わないかは別として、左足の靴下も音速で脱いだ。


・・・ない。・・・いない。

靴の中にも、もちろん財布の中にもいない。いるのは緑色の顔をした夏目漱石先生が三人ほどだ。

ようやくここで来る途中に落としてしまったことに気がついた。もうパニックとダサさと悔しさと心強さがグルグルと目まぐるしく頭の中で反復横跳びを繰り返していて、汚ったないトイレの床にガクッと膝から崩れ落ちそうになった。

が、耐えた。耐え抜いた。

何事もなかったようにトイレを出て、友人にこう言い放った。

「やっぱりこれを買うのはやめておくわ。ここにないものを今度買うよ」

どんな顔で言っていたのだろうと思うと今でもゾッとする。間違いなく顔は引きつっていたろうし、顔面真っ青というか、当時流行っていた鈴木その子くらい真っ白だっただろう。

なんとかその場を乗り切ったぼくは、手ぶらで渋谷を後にした。

拾った人がその1万円で楽しいことをしてくれればいいやと無理やり考えようとしたけど、悔しくて悔しくて母親に当たったっけ。

私が悪かった、と言ってくれたけど、まぁ誰のせいでもない訳で。今でも我が家ではその話になると、ガハハと全員笑う。1万円で一生笑えるんだから安いもんだ。

むかし話が長くなってしまった。お恥ずかしい話なのに。


イマノシブヤ、レイワノシブヤ

そんな思い出から20年以上たった今、財布に5人の野口英世を携えて渋谷に降り立った。学生時代より所持金が少ないのは、決してカツアゲが怖いからではない。衝動買いしてしまうからだ。ある意味セルフカツアゲと言えるけど。

渋谷はこんなに変わりました。時が経つのは長かったり早かったり忙しい。

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スクランブル交差点にあるスターバックスを背に撮った渋谷は、もうぼくが知っている渋谷ではなかった。大きいと思っていた東急のビルが可愛く見えてしまう。

毎度渋谷駅は迷子になる。ちゃんと案内板や地図があるのに、新しい建物や出口の表記ばっかりだからわかるわけがない。

地上に出たもん勝ち!と思って出てみたものの、ハチ公に程遠い出口から出てきたときの悲壮感たるや。


ちなみに岸田さんのサイン会が行われるビルは一番デカイやつ。

デカすぎる建物を見ると、たまに怖くなってくる。その感覚を文章で説明するのは難しいんだけど。人間の作るものはどこまで大きくなるんだろうという途方もない妄想から来るのかもしれない。未だに謎だ。

まずは、かつおさんの写真展へ。

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おそらく11時半頃に到着したのだが、かなりの盛況っぷりで大賑わい。ご本人が在廊されることがほとんどだと聞いていたけど、多分いなかったと思う。如何せんみんなマスクしてるからね。わかりゃしない。

かつおさんの写真集が平積みされていて手を伸ばした。

欲しい。いや、だが、しかしだ。今日は野口5人衆しかいないのだ。戦力としては心もとない。買ってしまえばこの後の予定がダダ崩れである。

諦めた。しゃーない。帰宅後、ほぼ日曜日さんのTwitterでその日のうちに完売したことを知った。これも運命である。そう、しゃーないのである。

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気を取り直して渋谷で有名なカツ丼屋さんに向かった。長蛇の列である。

ディズニーランドではどれだけ並んでもイライラしない性格の持ち主なのに、その他の列となると話は変わってくる。コンビニでさえ出来れば並びたくないからヒマな時間を狙っていくほどだ。

だけど幡野広志さんがほぼ日曜日で写真展を開催していた時にトライして定休日だったことを思うと並ばずにはいられなかった。

美味しくいただきました。「瑞兆」(ずいちょう)


note界のシンデレラはかぼちゃの馬車を間違えた

いざ岸田さんのサイン会へ。到着したのは12時半過ぎで、前には5人ほどの方がすでに並んでいた。

岸田さんの等身大パネルがある。記念撮影したい。が、アラフォーのおっさんが、店員さんに「写真お願いできますか?パネルと」を言うには清水寺の舞台から真っ逆さまに落ちるくらいの気持ちが必要だ。

それでなくとも岸田さんにお会いするのに、ど緊張をかましているアラフォーおっさんは子鹿のように震えているのだ。

だから、現地での写真は1枚もない。無念。


やっぱり岸田さんは持っている。

12時ごろに「これから向かいます〜!」とTwitterでおっしゃってて嫌な予感はしていたんだ、実はな。予感の原因はわからないけど、意外とギリギリじゃね?って思いがそう思わせたのかもしれない。

忙しい人だからスケジュールもタイトすぎてしょうがないんだろうなぁとは思っていたけど。

彼女のTwitterが更新された通知が届いた。

配車していたタクシーが行き先を間違えて二子玉川方面に向かってしまったらしい。

・・・んなことってあるかいね?!

どうやら同じ場所、同じタイミングで配車した人がいたようで、名前も「ハヤシダ」と「キシダ」で似ていたようだ。二子玉川でよかったよね。国道246号線で一本だもの。

これが横浜や埼玉だった時、彼女はどこで気付いたのだろうと想像して少しだけ緊張がほぐれた。


15分遅れで岸田さん到着。

ぼくは緊張していませんよ?と言う顔をしながらも、マスクの下では

「ヤベェ、本物来た。ヤベェヤベェ」

と、念仏のように唱えていて、なんとか心を落ち着かせようとへラルボニーさんの商品ばかり見ていた。マスク最高!菌からも守ってくれるし、あのおっさん緊張してるぜ、へっ、ダッセーの!という好奇な目からも守ってくれる。ありがたや。


素晴らしいネクタイやTシャツを一心不乱に凝視しているおっさんは、周りから見たら滑稽だったかもしれない。だって本人がいれば普通そっち見るよね。

ちゃうねん、見れへんねん。横目では見てたけどな、ははは。


遂にぼくの番になった。

誰かに会う時必ず選ぶ鎌倉紅谷さんの銘菓「クルミっ子」を最寄駅で買っていたので、開口一番にお土産です!と渡した。

「わぁ、お土産一番乗りですぅ〜」と喜んでいただけた。さらに「わっ、めっちゃ重いですねこれ」と言われてなんと返したかは覚えていないが、後々考えたら、こんな日だから差し入れや荷物をたくさん持って帰るだろうに、一番量の多いクルミっ子を買って行ってしまって邪魔くさかったなぁと、ほんの少しだけ反省した。

だって美味しいんだもん。スイカもずっしり重い方が美味しいんでしょ?あんまり好きじゃないから知らんけど。


自由が丘の話になったような気がするんだけど、もうど緊張MAXでほぼ覚えていない。だから、岸田さんが書いてくれているサインなど見ていなかった。すでに長蛇の列だ。早めに切り上げなくてはという気持ちの方が優った。

ありがとうございます、ありがとうございますと言い合ってレジへ進んでお会計を済ませた。

へラルボニーの店員さんに「ご本人との写真はNGなんですけど、良かったら等身大パネルなら大丈夫なので撮って行って下さいね!」と言われたんだけど、そこはもう全力で上手いこと理由をこねくり回して回避した。

きっと店員さんはパネルと並んで撮れとは微塵も思っていないと思う。ただあなたがパネルを撮ればいいじゃん、と言ってくれているのだ、間違いなく。

だけど、もうなんだかこの空間から一刻も早く抜け出したくて、赤べこの原画すら写真に収めずに会場を後にした。

ちなみにスクランブルスクエアからの出口すら間違って、サイン会場を2度通り過ぎたことは是非内緒にしていただきたい。

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へラルボニーさんの粋な演出の一つ、特別ブックカバーを頂けた。

ちっちゃな岸田さんが笑顔で小躍りしている。

そして、サインをいただく際の宛名は、悩みに悩んでハンドルネームにした。

「ぷるぽ、でお願いします!」

「え?え?パピプペポのプですか?プルポさん?え?」

「えっと、ひらがなでぷるぽです。ぱぴぷぺぽの方です」

ぼくが見当違いな返しをしたからなのか、岸田さんも遅刻して焦っていたのか、タクシーの「ー」が抜けている。


タクシて。

ちょっと本名に近いやん。

え、なんで本名知ってるのって一瞬思ったじゃんか!


家に帰ってから気付いて、写真に納めてTwitterにアップすると岸田さんから「ごめんやで」のリプライをいただいた。

これもいい記念になります。ありがとう、岸田さん。


弟にサイン本を見せた時に新たな発見があった。

「岸田さんってウチの母親と同じだねぇ」

え?何が?と聞き返すと

「カタカナの”シ”と”ツ”が多分書き分けられない人かもってことだよ〜」

あぁ、そういうことか。ぼくはもうタクシという内容しか頭に入ってこなくて細かく見ていなかった。なるほどなぁ。

ぼくの母親は前著した通りシとツの書き分けが苦手だ。

だから、引き出しにしまってあるカラーボックスに書いてあるラベルはシーツではなく”ツーツ”になっていたり、誰のスーツなのかわかるようにスーツカバーにも書いてある。”スーシ”と。

書ける書けないなんてどうでもよくて。母親だってもう60年近くたくましく生きている。岸田さんだって作家として独立して初著書を出版して、たくさんのファンに愛されているわけだ。

それを面白おかしく言えるか言えないかが重要だと思っている。

我が母は「もうわかんないんだもーん♪」の言葉で30年以上ぼくたちをはぐらかし続け、その度に笑いが家族に起こる。

苦手も、捉え方や見方次第では面白さや楽しさに変換できるんだなぁと母親から学んだ大きな教訓の一つだ。

(ちなみにぼくは簡単な漢字すら書けないことが多い。PCよ、スマホよ、ありがとう)

ーーー

やさしさに包まれたなら、きっと。

久しぶりに5000文字ほど書いた。なんだかんだ2日間もかかってしまったわけだけど、なんだかとっても良い気分だ。

会いたい人に会う。それが憧れの人であれば非日常であり、もしかしたらその人の生きる活力となって、違う誰かの活力を生むかもしれない。

幸せや楽しさってそうやって連鎖していくことが理想だなと思うし、そうであって欲しい。

さらに言えば、とっても優しい空間であった。

アイドルなどのサイン会や握手会に行ったことはないが、殺伐とした雰囲気を醸し出している会場も少なくないと聞く。

映像制作会社で広報をやっていた時に、担当女優さんのイベントに必ず同行していたんだけど、業界が業界だけあってコアすぎるファンの巣窟だった。危険人物も一人や二人じゃない。

そんな会場に比べ、とっても優しい空気が流れていた。本当に行って良かったと思っている。

こんな機会を作ってくれたへラルボニーさん、そして岸田奈美さん、ありがとうございます。


優しさや幸せのバトンをしっかりと受け取ったぼくは、次の人へバトンを渡す日々をこれからも過ごせそうです。

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さまざまな人に出会うために旅をしようと思っています。 その活動をするために使わせていただきます。 出会った人とお話をして、noteで記事にしていきます。 どうぞよろしくお願いいたします!