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セックスワークサミット2018春@渋谷: 夜の世界で働く女性のための税金入門講座 【対談】松本崇宏さん(税理士)×今賀はるさん(現役風俗嬢)

 夜の世界で働く女性の中には、税金や確定申告、マイナンバーについて、何をどうすればいいのか分からないまま、不安な日々を過ごしている人も少なくありません。そもそも税金のことをよく分からないまま長年営業している店舗も少なくありません。
 税金を申告していなかったために、仕事を辞めた後に各種手当や保育・学童などの制度やサービスをうまく利用できず、困ってしまう人もいます。
 税金やマイナンバーに関する問題は、働いている間、そして夜の仕事をやめた後も、多くの人を悩ませる原因になっています。
 にもかかわらず、風俗と税金について学ぶことのできる場は、全くと言っていいほど存在しません。


 こうした状況を少しでも改善すべく、2018年春のセックスワークサミットでは、税理士と現役風俗嬢の対談を企画しました。
 風俗業界に特化した税理士法人を運営し、店舗及び働く女性の税務相談に精通した税理士・松本崇宏さんに、現役風俗嬢の今賀はるさんが、働く女性が現場でぶつかりがちな税金に関する素朴な質問・疑問をぶつける、『知ってスッキリ!「風俗と税金」入門講座』をお届けします。

今賀 そもそも、風俗嬢は確定申告をする必要があるのでしょうか?また「源泉徴収」「確定申告」「個人事業主」といった言葉の意味自体がよく分からない、という人も多いと思いますので、松本さんに分かりやすく説明して頂けると嬉しいです。

松本 まず「源泉徴収」とは、給与・報酬・利子・配当・使用料等の支払者が、それらを支払う際に所得税等の税金を差し引いて、それを国等に納付する制度である・・・という説明がウィキペディアに載っていました(会場笑)。
 真面目に答えますと、源泉徴収というのは「会社が従業員にお給料を払う時に、所得税などの税金を差し引く」という制度です。税金のとりっぱぐれが無いようにするための制度ですね。
 もし源泉徴収という制度がなく、サラリーマンが毎月の給料を全額現金でもらっていたとする。そして年末に「一年分の所得税、20万円を納めてください」と言われたら、「ええっ!」となりますよね。税金を支払う痛み=痛税感が大きい。
 そうした痛税感を和らげるために、源泉徴収という制度があります・・・とウィキペディアに載っていました(会場笑)。
「確定申告」とは、1月1日から12月31日の一年間の所得の金額と、それに対する所得税などの納税額を計算し、翌年3月15日の申告期限までに申告書を提出して、源泉徴収された税金などとの過不足を精算する手続です。
 サラリーマンであれば、大半の人は確定申告をしなくても大丈夫なのですが、「個人事業主」の方に関しては、確定申告をして税金を納める形になります。
 個人事業主とは、「自ら事業を行っている人」という意味です。個人事業主をはじめ、株を持っている人、最近だと仮想通貨を持っている人、そして不動産を売ったり住宅を買ったりした人は、確定申告が必要になります。
源泉徴収をされている場合、確定申告をすると払い過ぎた税金が還付される=お金が戻ってくる可能性があります。
 しかしデリヘルで個人事業主として働いている女性の場合は、源泉徴収をされていないケースが多い。そうした方が確定申告をすると、納税=税金を支払うだけになり、痛税感が出てしまいます。

今賀 風俗嬢の中でも、確定申告をしなくてもいい人もいるのでしょうか?

松本 いると思いますよ。お店から支払われたお金が「給与」として明確になっており、その会社が源泉徴収と年末調整をしているのであれば、確定申告をしなくても大丈夫だと思います。
 ただ問題なのが、風俗店の場合、お店自身が女の子に支払っているお金が「給与」なのかどうかよく分かっていなかったり、そもそも税金を支払っていない無申告のお店も非常に多い。
 そのため、まずご自身がどういう立ち位置なのか=サラリーマンと同じように「給与」をもらっている立場なのか、それとも個人事業主という立場なのかを確認することが大切です。

今賀 税金をきちんと申告したいという気持ちはあるんです、という人もいるのですが、具体的に、いつ・どこで・どうやればいいのでしょうか。

松本 今だったらパソコンでe-Tax(インターネットで国税に関する申告や納税、申請・届出などの手続ができるシステム)がありますので、それを使って一年分の所得と納税額を計算して、翌年3月15日までに申告すれば大丈夫です。
 やり方が分からないという人のために、税務署や税理士会で無料の相談会が行われているので、そういうところを利用してもいいでしょう。ただ、そういうところでは節税の提案は行いません。
 納税は個人の財産に関係することなので、脱税はもちろんすべきではありませんが、節税はすべきだと思います。節税の知識については、確かにネット上にも色々載っているのですが、プロである税理士に相談するのも選択肢の一つです。

今賀 e-Tax、今年やってみようと思ったのですが、失敗しまして・・・。

松本 それでは今賀さん、今年は税金を払っていない=脱税しているということですか(会場笑)

今賀 違います!結局、郵送で送りました。国税庁のホームページ、難しすぎじゃない?と思ったのですが。

松本 僕らは日々職業として扱っているので、それほど抵抗は無いのですが、年に1回だけ確定申告をされる場合、正直「何だこれは?」という感じだと思います。用語も難しい言葉が多くて、よく分からない。
 あれはわざとやっていると思う・・・と言うと国に怒られるのであまり言ってはいけないのですが(笑)、そもそも国語・算数・税金のような形で、学校で税金に関する授業があれば、もう少し関心を持たれるはず。でもそれが無いために、理解しづらいのが現実だと思います。

今賀 一応税金は払ったのですが、かなり不安を感じています・・・。今年は自分でやったのですが、来年からは松本さんに頼みたいと思うので、よろしくお願いいたします(笑)。
 働く女性の中には、何年間も無申告の状態だったので、今さら申告したら、とんでもない額の税金を請求されるんじゃないのか・・・と不安に思っている人もいます。
支払うための貯金があればいいのですが、貯金は全くのゼロという方もこの業界は結構多いんです。どうしたらよいのでしょうか?

松本 この問い合わせはものすごく多いです。私たちは税の専門家として、「払わなくてもいいですよ」とは言えないので、「ちゃんとやりましょう」という回答をさせて頂きます。 
 税金の時効=税務署が税金を徴収することができなくなるまでの期間は、5年間(申告の期限内に提出していない場合)です。
 つまりこれまで無申告だった場合、税金は最大で5年分さかのぼって支払う必要がある。1年間で100万円の税金の未払いがある場合、5年間だと500万円になる。かなり大きな金額になるので、申告すること自体を躊躇される方も多いです。
 ただ、お買い物が好きでクレジットカードを使われている方は、カードに支払いの記録が残ります。
 毎月のお給料が銀行振り込みという方、また現金でもらっていても「タンス預金だと不安だから」と銀行口座に入れられている方は、銀行の口座に記録が残ります。
 記録が残ると、「これだけの買い物や預金の記録があるのだから、それなりの収入があったんだよね」と税務署から指摘されます。「頭隠して尻隠さず」の状態になるわけです。
 あとは女の子の考え方次第ですね。中には「絶対に逃げ切ってやる」という人もいらっしゃいますが、僕らは決断を強制することができないので、最後はご本人の自己判断になります。税務署にバレるバレない以前の問題として、無申告は大きなリスクです。
 そのため繰り返しになりますが、まず自分が確定申告が必要な立場なのかどうかを確かめることが大切です。給料として源泉徴収されていたのであれば、確定申告は要りません。一方、既にお店が潰れてしまったというケースになると、確かめるのはなかなか難しいのですが。

今賀 お店をいくつも渡り歩いています、という女の子も多いので、そうした場合は個々のお店に確かめるのは難しいかもしれませんね。
 ちなみに、税金は分割して払うこともできるんですか?税務署に聞いたら「四分割までだったら簡単な手続きでできる」と言われたのですが。

松本 一括で払えない場合、分割は可能です。ただし、過去の分に関しては、本来であればすぐに払っていなければいけないものなので、即納を要請されます。
 税務署と国税職員は、合計で約五万人います。五万人いれば、良い人も悪い人もいる。機嫌のいい人もいれば、朝夫婦喧嘩をしてしまい、機嫌の悪いまま働いている人もいる。
 税金の徴収をする部隊も人間なので、税金をいつまでも滞納していると、財産を差し押さえられたりする。私たちのお客様でも、何人も差し押さえられた人がいます。

今賀 「差し押さえられる」って、具体的にどんな感じなのですか?

松本 通帳の口座に入っている給料や預貯金が無くなってしまいます。

今賀 大変ですね・・・。きちんと申告をしたいのですが、兼業をしている場合、申告をしたら本業にはバレることはあるのですか?

松本 これもよくある質問です。確定申告の場合、個人事業主として働いている女の子であれば、「自分で納付」=住民税は給料とは別に自分で納付します、という欄にチェックを入れれば、会社にバレづらい。
しかし風俗で働いていることを昼職の同僚に知られてしまって、そこから会社にバレた、という方がどちらかと言えば多い。

今賀 税金よりも、職場での人間関係の方が怖いんですね。

松本 風俗をやっている子に対して、「羽振りが良くて羨ましい」と妬む人もいる。そこからバラされることもあるかもしれない。

今賀 お昼の仕事と風俗を掛け持ちでやっている場合なんですけど、会社から「住民税が高い」と言われた場合、どうすればいいでしょうか?

松本 そもそも風俗の仕事を個人事業主としてやっているのであれば、住民税を自分で納付するようにすれば、会社には分からないのでバレにくい。
 給料としてもらっている場合、会社ごとによっての源泉徴収は事前に連絡が必要になるので、そこからバレるかもしれない。いずれにせよ、先ほどもお伝えした通り、自分がどの立ち位置で働いているかを知ることが大切です。
 以前、女の子を個人事業主として扱っている=支払調書を税務署に提出しているお店で、女の子のところに直接税務調査が入ったことがありました。
 税務調査の対象になった女の子は、ずっと年収が一千万を超えていたので、消費税も払わないといけない(注:個人事業主は売上が1,000万円を超えた場合、消費税を納める義務が生じる)。税務署からすれば、一回で所得税も消費税もとれるので美味しい、と判断されたのかもしれません。

今賀 自分がどの立ち位置で働いているか分からない方も多いと思いますが、そういう時は税理士さんに相談したほうがいいのでしょうか?

松本 そうですね。ネット上の知識を信じても、何かあった時に誰も保証してくれないじゃないですか。曖昧な知識に頼るよりは、プロに相談したほうがいい。

今賀 申告はしたいのですが、今までの収入や経費を全くメモしていない。レシートもすべて捨ててしまった・・・という人も多いと思います。証拠がなさ過ぎて、自分が一体何者なのかすら分からない(笑)。そういう場合は、まず何から始めればよいでしょうか?

松本 気まずい状況ですよね。ただ、私たちにお問い合わせを頂く女性のうち、半分くらいはそうした方です。
 手元に資料が全くないケースは多くあります。そんな時は「推計課税」というやり方があります。「その時、これくらいは稼いでいたよね」というイメージから、所得の合計金額を復元していく。
 「資料がないから税金を払えません」と言っても、税務署は怒るだけです。そのため、当時の生活状況や家賃はこれくらいで、最低でもこれくらいは稼いでいたよね・・・と逆算していく。
 そうした中で、一円でも税金を安くしようという気持ちが働くと思うのですが、実態とかけ離れてしまうと突っ込まれやすい。
 通常の税理士事務所は、推計課税をやりたがらないんですよ。なぜなら、誰も百点を取れないからです。私たちも、納税者ご本人様も、税務署もとれない。だから普通の事務所はやりたがらない。
 私たちは多くの案件をやっているので、これまでの所得率を基にして「大体これくらいであれば、経費にできます」というアドバイスはできます。

今賀 レシートが全然残っていなくても、申告できるんですね。

松本 根拠となる資料は作って頂きますが、申告はできます。もちろん、明らかな不正はダメですよ。たまに確定申告書を見せてもらうと、「大根」を経費にしている人がいたりして、それって経費ではなく晩御飯の材料じゃないですかと言いたくなります(笑)。

今賀 ちなみにコンドームを経費にしてもいいのでしょうか。レシートに「コンドーム」と書いてあると売春になってしまうため、経費では落とせないと聞いたことがあるのですが。

松本 落とせますよ。確かに管理売春云々という話は出てくるのかもしれないですが、税金と法律はあくまで別問題です。
 「税金は合法か非合法かを問わない」というルールがあります。
 例えば、オレオレ詐欺で稼いだお金に対しても、税金はかかる。収入の手段に対しては、合法か非合法化を問わない。オレオレ詐欺の人たちも税金を払わなければいけない。
 コンドームや売春の問題は、税務調査では全く関係ない。「身を守るために持っていました」と言えばいい。ただ「プライベートで彼氏と使っていました」となるとダメです。

今賀 所得証明について、「お店が所得証明を出してくれない」という人もいれば、お店から所得証明をもらった時点で「自分はもう確定申告が完了している」と勘違いしている人もいます。
 私は所得証明というものを一切見たことが無いのですが、「お店から出してもらっていないから、私は確定申告とかは関係ないです」と考えている人もいます。

松本 お店自体が税金の申告をちゃんとしていない場合もあるので、繰り返しになりますが、自分がどの立ち位置で働いているかを把握することが大切ですね。
 キャバクラの場合は、外注(女の子=業務委託契約に基づく個人事業主という立ち位置)であっても、給料(女の子=雇用契約に基づく従業員という立ち位置)であっても、いずれも源泉徴収が必要です。
 給料であれば源泉徴収票、外注であれば支払調書がお店から出されますが、それらをもらっても・もらわなくても、納税の必要が無くなるわけではない。
 年収数千万プレイヤーのように、ものすごく稼いでいる方は、毎月のお給料から源泉徴収されている金額では足りない。所得税は最低5%から最大45%まで上がっていくため、仮に源泉徴収されていたとしても納税しないといけないという現象は起きます。

今賀 素人の脳みそだと理解が難しい・・。プロに任せた方がいいですね。

松本 税金の相談に来られるのは、稼いでいる人ばかりではなく、年収200万円程度の人も多い。後から何か言われたら嫌だからきちんと清算しておきます、という人も多いです。

今賀 お店から源泉徴収票や支払調書をもらった場合、お金の流れは税務署に把握されている、と考えていいのですか?

松本 お店側がきちんとしていれば、源泉徴収票や支払調書を税務署に提出しているケースもあると思います。ただ、ほとんどはきちんとしていない。
お店がメモ的に作成して、女の子に渡しているだけの可能性もある。「Aちゃんだけが『支払調書が欲しい』とうるさく言うから、作って渡しています」という場合もあれば、在籍している女性全員分の支払調書を作って出しているところもある。お店次第ですね。
 源泉徴収票や支払調書については、お店が税務署に提出する上で「支払金額が50万円以下であれば提出しなくてもいい」などの要件があります。そうした要件を満たしていれば提出する必要があるし、満たしていなければそもそも提出しなくてもいい。
 だから、ある女の子がお店から源泉徴収票や支払調書をもらったからといって、その女の子の収入が全て税務署に把握されている、とは言えません。

今賀 申告をしっかりやっているお店とそうでないお店、どちらが多いと思いますか?

松本 圧倒的に、しっかりやっていない方が多いですね。七割くらいはやっていないんじゃないかな。三割くらいのお店は申告をしているかもしれないけど、その中でも適正申告をしている割合は多くない。

今賀 私も自信がないです・・・。

松本 この対談、取材で撮影・録音されていますけど、脱税を告白してしまって大丈夫ですか(会場笑)。

今賀 自分ではしっかりやったつもりでも、ミスがあったらどうしよう・・・と不安になるじゃないですか。

松本 悪意がないのは仕方ないと思うんですね。風俗店が無申告になる理由の一つが、融資の問題です。通常の会社、例えば飲食店であれば、銀行からお金を借りられる。風俗店の場合、金融庁から「融資適格対象外」とされているため、銀行はお金を貸してくれない。
 そうした中で、「税金なんか払ってもしょうがない」という考えと、「手元にキャッシュ(現金)を置いておきたい」という考えを持った人が増える。
 申告をしている店舗の方々であったとしても、税金は払いたくない。「申告さえしておけば大丈夫だろう」という考えで、売上を除外したり、経費を水増しすることもある。完全な脱税ですね。こうなると、さすがに税務署は怒ってしまう。「申告の仕方がよく分からなくて、間違えてしまった」とは次元が違う。

今賀 しっかり確認しておきたいと思います。これまで税金を申告してこなかった女の子が、もしこのまま申告しなかったら、どうなりますか?

松本 いわゆる無申告の状態ですよね。先ほどもお伝えした通り、税金の時効=税務署が税金を徴収することができなくなるまでの期間は、5年間です。
 つまり現在からさかのぼって5年の間は、自宅に税務調査官がやって来て、お金を持っていかれる可能性がある。
 ただ言葉は悪いですが、6年間経ってしまえば、最初の1年間は逃げ切り=支払わなくてもいいことになる。そのこと自体の善悪はさておき、ですよ。
女性の場合、5年間の間に、結婚や妊娠・出産、家を買うなど、様々なイベントを迎える場合もあると思うのですが、そのタイミングで万が一税務調査に入られて、働いていたことがバレたら困るという方は、きちんと申告するべきでしょう。最後はご本人の自己判断ということになります。

今賀 この業界で働いていると、お店は「税金を払ったところで、信用や利益が増すわけではない。他の業界に比べても、別に法律で守ってもらっているわけでもないし」と思っている。女の子もそう。国から差別的な扱いを受けるのであれば払いたくない、という人もいる。でも、それが今後の人生で足かせになるかもしれない・・・というわけですね。

松本 またお店から源泉徴収票や支払調書が発行されていないことで、女の子が困ることがある。例えば保育園にお子さんを入れる時などですね。そういう時のためにも、申告はやっておいた方がいい。
 シングルマザーの方で、各種手当などをもらうために虚偽の申告をしている方もいますが、バレた時に後から困るんだろうな・・・と思います。

今賀 「詐欺的な行為をした」と取られてしまうわけですね。

松本 全て自己責任でもあると思うんですよ。ご本人が「税金なんて、ビタ一文支払わない!」という姿勢でそのまま突っ走りたいのであれば、仕方がない。
 万が一税務調査が来た時に、「あの時払っておけば良かった・・・」とならないために、正しい知識を身につけておきましょうということです。

今賀 風俗で働いている女の子たちからは、マイナンバーに関する不安や質問も寄せられています。「私はマイナンバーを税務署から受け取っていません。受け取っていない状況だから、申告しなくてもバレませんよね?」という質問がありました。

松本 はい?(会場笑)

今賀 私も「ん?」と思ったのですが(笑)、「自分はマイナンバーを受け取っていないから、国から番号は振られていないはずだ」と思われている方がいて。

松本 マイナンバーは、全ての国民に自動的に振られています。受け取るか否かは関係がない。
 マイナンバーについては・・・あっ、会場に国の方はいらっしゃいませんよね(会場笑)。個人的な感想ですが、それほど普及していない。いずれ銀行の通帳との紐づけがはじまり、そこから機能していくのかもしれない。ただ、以前盛大にコケた住基カードの繰り返しになりそうな気配があります。
 マイナンバーの導入によって、「女の子が税金を申告していないことがバレるんじゃないのか」といったことが去年騒がれて、私たちへの問い合わせも増えました。
しかし、国は最初からキャバクラやデリヘルを狙っているわけではないので、正直そんなに影響しない、というのが私の回答です。
 ものすごく真面目に回答すると、キャバクラやクラブなど、所得税法204条(第一項第6号)に該当するものに関しては、源泉徴収が必要になるため、マイナンバーは影響します。ただ、そこに該当していないデリヘルには全く影響してこない。

今賀 マイナンバーの話が出た時、あちこちで「風俗にも影響する」「ヤバいんじゃないか」と言われていましたが・・・。

松本 そこじゃないんですよね。マイナンバーがあろうがなかろうが、バレる時はバレる。そして税務調査も入ります。

今賀 マイナンバーで風俗で働いていることがバレることはありますか?

松本 今賀さんのマイナンバー、教えてもらえますか?(会場笑)

今賀 えっ!最初の七桁くらいまでだったら・・・そもそも何桁か知らないです(笑)。

松本 マイナンバーではバレないですね。むしろどうやってバレるんでしょうか?
 「マイナンバーの提出をしてほしい」というお店は、むしろしっかりした真面目な事業者だと考えられます。マイナンバーから何かがバレるという話ではないので、過剰に反応する必要はないです。

今賀 ネットのうわさに振り回されるのではなく、税金のことをしっかり学ぼう、と。

松本 おっしゃる通りです。

今賀 最後の質問ですが「キャスト個人に税務調査は入らない」というのは本当ですか?

松本 嘘です。女の子個人に税務調査が入ったことは、レアケースではありますが、私たちがやっているだけでも数十件以上あります。
 お店に税務調査が入った場合、その店で現役で働いている女の子だけではなく、辞めた子にも入ってしまうケースもあります。

今賀 私は今出稼ぎで全国各地のお店を回っているのですが、色々なお店に働きに行くと、その分足がつきやすくなるのでしょうか?

松本 むしろ逆じゃないですかね。一つの店に所属して長期間働いていた方が、把握されやすい。ただ渡航記録やクレジットカードで交通費に関する支払いが多いと、そこから追及される可能性はある。Suicaの記録もそうですね。各地を転々としていたとしても、何らかの事実が分かるものを通して、税務署に捕捉される可能性はある。

今賀 Suicaで思い出したのですが、松本さんにお聞きしたいことがあります。あっ、答えにくい質問であれば、お答え頂かなくても大丈夫です。

松本 この対談、うちの従業員が録音していますけど、大丈夫ですか?(会場笑)

今賀 「コンビニなどの買い物を全部Suicaで支払って、交通費として経費にしてしまえばいいよ」と言われたことがあるのですが、それは脱税に当たるのでしょうか?

松本 それ、今賀さんご自身のお話ですか?(会場笑)

今賀 違います・・・!と一応言っておきます(笑)。

松本 今まで私たちが担当してきた税務調査では、正直、それほどSuicaの中身までは見られていなかったのですが、ここ最近は結構見られています。
 税務署には「反面調査権」(税務調査先と取引関係にある第三者に対する調査権)という権利を持っています。これを使って税務署がJRに照会をかければ、すぐに履歴が出てきます。
 ただ、コンビニでSuicaを使って買い物をしたら経費にならないかというと、それも違う。「仕事用のコンドームを買いました」というのはありえる。
悪意がどれだけあるか、というのも大事です。「Suica に1万円チャージして、130円だけ交通費で使って、あとは他の買い物をしていました」というのはダメです。

今賀 あからさまにおかしいことをやっていたら、突っ込まれるかもよ、ということですね。

松本 そうですね。銀行口座やクレジットカードを含めて、記録が残るものは全て税務署に見られると思ったほうがいい。

今賀 「マイナンバーも始まったことだし、あらゆるものが記録されているから、もう自分は現金払いしかしない!」という人もいます。

松本 極論を言えば、確かにそうなんですよね。ただ税金の支払いを避けるために、今の生活状況を全部捨ててどこかに逃げたり、全てを他人名義にするのは大変です。家族やお子さんがいる場合はなおさらでしょう。どこかでちゃんとやらないと。
 最終的には自己判断になりますが、税金に関する正しい知識を持つことは重要だと思います。

今賀 私も正しい知識を持たなければ・・・!と思いました。

松本 では今賀さんのマイナンバー、教えてください。絶対ネットには書かないので(会場笑)。

今賀 来年から松本さんにお願いするので、結局教えることになりそうですが(笑)。

●質疑応答

Q:生活保護を受給しながら風俗で働いている女性の場合、福祉事務所から申告を求められた際に、どのように対応すればよいでしょうか?

松本 生活保護をもらうために所得を過小に申告するのは脱税行為であり、ペナルティが課されます。ありのままに申告したほうがいいのではないでしょうか。仕事の経費をきちんと計上して、利益を下げられるのであれば下げましょう、という提案になります。

Q:デリヘルで働いているのですが、一本当たりの給料(売上)について、所得税をひかれるお店とひかれないお店があるのですが、これはどういうことでしょうか?

松本 そもそも大前提として、お店から支払われているお金が外注先の個人事業主に対する報酬なのか、それとも従業員に対する給料なのかという点が問題になります。
 デリヘルの場合、ほとんど「女の子=個人事業主」「支払い=報酬」でやっているケースが多いと思います。
 デリヘルにおける報酬は、所得税法204条に該当しないので、源泉所得税を徴収しなくてもいい、という回答になります。

Q:女の子の希望で、お店が女の子の収入額を低く書いて所得証明を出した、という場合は無効になるのでしょうか?

松本 「それでも大丈夫です」と言ったほうがよろしいでしょうか?(会場笑)
「風俗あるある」ですが、これは明らかな脱税です。ただ難しいのが、お店が女の子を獲得することが10年前に比べて大変になっている。広告代やスカウト代などの費用もかかるので、良い子を入れるのは大変です。
 売れる子から「収入額を低くして所得証明を出して」と言われたら、お店側は従わざるを得ないという側面もあります。でもやっていることは明らかな脱税なので、ダメです。
 お店にCTI(電話とコンピュータの統合システム)が入っている場合、税務調査の際にデータを抜かれます。データを削除していたとしても、削除ログが残る。その際に、女の子の方にも調査が入ることがある。
 女の子は安易な気持ちで「少なくしてよ」と言っているのかもしれませんが、そうしたデータが残っている店舗であれば、リスクはあります。

Q:所得税法204条の該当職種に、キャバクラやクラブに加えてデリヘルを含めれば、納税する人は増えると思いますか?

松本 増えると思います。もちろん痛税感は増えると思いますが、源泉徴収をされていれば、確定申告によって還付されるかもしれないので、申告をしようと思う人も増えるかもしれない。
 個人事業主としてデリヘルで働いている女性の場合、源泉徴収がゼロなので、確定申告をしても基本還付はありません。
 ただし、普通の生活ができる水準の収入がある限り、税金は絶対にゼロにはならないので、一年分をまとめて支払うよりも、毎月源泉徴収という形で支払う方がいい。
 ちなみに大手のデリヘルでは、わざと源泉徴収にしているところもあります。これは「女の子のところに税務調査が行くことを止めたい」という気持ちの表れなんですよね。
 源泉徴収さえしていれば、大なり小なり所得税(国税=国に納める税金)は払っていることになる。もちろん、確定申告をしていなければ、住民税(地方税=住んでいる自治体に納める税金)は払っていないことになるので、別の問題は生じます。

Q:風俗に対応できる税理士を増やす方法、アイデアがあればお伺いしたいのですが。

松本 僕自身は、増えてほしいと思っています。普通の商売であれば、同業のライバルが増えるのは嫌だなと思うのかもしれませんが、そもそも風俗業界はそんな小さな産業ではない。店舗だけで見ても五兆円産業と言われている。
 国が把握できていないのでどこまで信ぴょう性があるのかは分かりませんが、その後ろに申告のサポートを必要としている女の子がたくさんいる。
そう考えると、ものすごい大きな市場です。多少税理士が増えたところで、僕らはあまり変わらない。むしろ活性化につながるので、出てきてほしい。
 ただ、税理士は風俗店からの依頼を受けたがらない。風俗業は不正発見割合や脱税が多い業種の常に上位にいます。「怖い人がやっているんじゃないのか」というマイナスイメージや偏見もあって、一般業種のお客さんには「先生のところ、風俗もやっているんですか」と言われる。私たちも何回も言われました。税理士事務所自体の求人にも影響します。
 私たちの税理士法人は50人くらいスタッフがおり、業界の中では中規模以上の事務所なのですが、これはどちらかというと奇跡なんですよ(笑)。
 七~八割の店が申告していない状況を変えるためには、法律を変えて、申告せざるを得ない環境をつくることも有効だと思います。
 キャバクラであれば、許可を一年更新制にして、更新時に確定申告書と納税証明の添付を必須にすれば、どの店もやらざるをえない。それをサポートする税理士も増えなければいけないので、業界も変わってくると思います。

Q:確定申告の際に、風俗の仕事だとバレることはあるのでしょうか?店や個人に税務調査が入った場合、昼の会社にバレることはあるのでしょうか?

松本 職業欄に「サービス業」というフワッっとした書き方をしていれば、申告書を見ただけでは分からないと思います。
 業種によって所得率、平均の経費率というものがあります。商社や小売の場合、仕入れが発生するのですが、サービス業であれば仕入れは発生しない。そのバランスが明らかにおかしくなければ、何をやっているのかは分からない。後は金額によりますね。
 個人の自宅に税務調査が入った場合、本人が立ち会いをしないといけない。税理士が代理人になれることもありますが、個人だと会社を休むことになる。それくらいでしょうか。自分から言わなければ、税務調査が入っても昼の会社にバレることはない。

Q:お店に確認する以外に、自分が個人事業主かどうかを確認する方法はありますか?

松本 あまりないですね。店との契約が雇用契約なのか業務委託契約なのかは、お店に確認するのが一番です。ただ税金を払っていないお店では、教えてくれない場合もあります。困りますよね。
 また引かれている金額が雑費控除的な扱いをされていて、それが源泉所得税なのか、そうでないのかが分からないケースが多々あるんですよ。これもどうしようもない。推計をしながら、少しでも事実に近づけていく作業になります。
 税金は不誠実でも、店の業績は非常に良くて、女の子の報酬も高いお店もあります。税金を払っていないからこそ、女の子の報酬を高くできるという背景もあります。税金を真面目に払っている風俗店は、払っていないお店に比べて価格競争で負けてしまう。
 ともあれ脱税している会社であろうがなかろうが、自分の税金について関心を持つことが大切です。

Q:キャスト側でできる節税方法や、「やることリスト」はありますか?

松本 あります。例えば、働いて稼いだお金を給料ではなく、個人事業主としての事業所得としているのであれば、領収書をきちんと取っておいて、経費を細分もらさず計上しましょう。例えばSuicaの支払いも含めて。
 あとは所得控除のところで、生命保険に入ると税金が安くなります。年金も含めて、将来の貯蓄をしながら税金を下げることができる。
 風俗で働く女の子の中には、今後の不安もあって、そうした保障へのニーズが多かったりします。小規模企業共済なども使えます。その方にあったプランを提案をできますので、なんでも専門家に聞いてください。

Q:チャットレディをしています。領収書でなく、レシートでも経費の証拠として大丈夫ですか?またチャットレディにも税務調査は来ますか?

松本 レシートでも大丈夫です。そしてチャットレディにも税務調査は来ます。ライブチャットを運営している会社に税務調査が入った時、そこから「うちの所轄の女の子がいるから」という理由で、働いていた女の子個人にも税務調査が入ったことがありました。

Q:今賀さんに質問です。周りのキャストさんの中で、納税されているのは何%くらいですか?

今賀 全然分からないんですけど、ツイッターでも税金関連の質問をしたときは反応が良くないので、みんな聞きたくない話なのかなとは感じます。
 お店の待機室でも、たまに税金の話は出ます。納税している人は乗ってきますけど、そこで何にも言わない人は、きっと申告していないんだろうなと思います。

Q:愛人業で一千万稼いでいる女性の場合、どのように申告すればいいのでしょうか?

松本 愛人業に関しては、私たちも申告のお手伝いをすることがあります。事業所得ではなく贈与という考え方が出てきたりしますが。申告の際は、「サービス業」という名目でいいと思います。申告をすることに意義があるので。
 愛人業の場合、払う側の男性がお金持ちであることが多いので、ポケットマネーから出るケースが多いと思います。その場合、言葉は悪いですがバレにくい。自営業者で会社の経費から愛人への手当を出している人は、バレやすいですね。

Q:風俗で働いているのですが、親を扶養するのにメリット・デメリットはありますか?世帯主は父親で、母親は扶養家族です。父も母も国民年金のみで生活しており、私が世帯主になる方がいいのか、このまま扶養家族でいいのか、迷っています。

松本 世帯主の欄については、正直それほど大きな問題ではない。ご両親がご年配になっていて、収入も無く、ご本人が扶養している事実が明らかなのであれば、ご本人の扶養にご両親を入れることによって扶養控除をできる可能性がある。それで税金が下がることもあるので、メリットにはなります。
 デメリットとしては、既にごきょうだいがご両親を扶養に入れている場合、「親を扶養に入れてどうしたいんだ」と問われて、そこからバレる可能性はあるのかなと。そのくらいでしょうか。

Q:風俗店経営におすすめの会計ソフトがあったら教えてください。

松本 会計ソフトは、正直クラウド系も弥生会計も含めて、どこも大差はないです。

Q:確定申告のやり方を教えるのは、税理士以外の人間がやっても問題ありませんか?弁護士で言うところの「非弁行為」になりませんか。

松本 税理士法で、税金の相談は有償であろうが無償であろうが、税理士にしかできない独占業務であると定められています。ただ青色申告会の相談会などでは、資格を持っていない人が相談に乗っていることもあります。
 会計事務所で仕事をしていた無資格の人が、個人で仕事を受けて、税理士の署名・押印を押さずにやってしまうこともありますが、それもマズい。
私の関わっていた仕事にニセ税理士が絡んできて、その人は逮捕されました。私が逮捕されたわけじゃないですよ(会場笑)。やりすぎるとそうなります。
 本物の税理士かどうかは、登録番号で確認できます。税理士会のホームページでも確認できます。

Q:お店が女の子に給料としてお金を支払っている場合、必ず源泉徴収しなければいけないのでしょうか?

松本 しないといけないです。ただ、ちゃんとやっていないところも多いですが。

Q:所得証明を出すのはお店の義務ですか?

松本 給料であれば源泉徴収票、報酬であれば支払調書が発行されます。源泉徴収票の発行は義務ですが、支払調書の発行は義務ではありません。
 そのため、給料でない場合は、女の子の側からお店に「ください」と言わないと支払調書は出ない場合が多い。給料としてもらっているのに源泉徴収がされていない、という場合は、お店が税金を払っていないことになります。
 ちなみに毎月給与明細をもらっていれば、それを申告に使うことは可能です。

Q:デリヘルを経営しています。女の子の取り分を引いた額を売り上げとしているのですが、記帳方法として間違っているのでしょうか?

松本 いわゆる「店落ち分」ということですよね。お客様から1万円もらう。女の子に6千円払う。残ったお店の取り分4千円を「売上」として計上しています、ということですね。
 正しいか正しくないかで言うと、「正しくない」です。無店舗型性風俗特殊営業という届出を出しているのはあくまでお店であって、お店のホームページに載っているお店の電話番号に電話が来て、お店側に発注があって、お店側の指示で役務提供が発生する。こうした流れから言えば、お客様はお店にお金を払っているので、今のやり方は間違っています。
 店落ちを売上として処理しているお店の税務調査を五件くらいやったことがありますが、売上を抜いたり水増ししたりさえしなければ、金額自体は変わらないので特段問題にはならない。利益には影響は出ない。ただ消費税に影響が出る場合があるので、税務署からの指導は入ると思います。
 また女の子に税務調査が及ばないように、店落ち分のみを売上として計上しているところもあると思いますが、その場合も日報などの何かしらの集計表をつけているはず。そこには総額の売上が書いてあって、女の子にいくら払ったということも書かれていると思うので、あまり意味が無いのかなと思います。

Q:義務だから税金を払っているけど、どうしたら納税が楽しくなるのでしょうか。具体的な方法があればお聞かせください。

松本 ふるさと納税じゃないですかね。私のこのスーツもふるさと納税です。日本で働いている以上、税金は払わなければいけない。利益が高くなっていけば、税率も高くなる。ふるさと納税をたくさんして、税金を下げるしかない。あとは「国の道路は俺の税金でできているんだ」と考える(会場笑)。そのくらいでしょうか。

今賀 確定申告、毎年泣きそうになりながらやっているのですが、終わった後に「やり遂げた感」はあります。国の一員として納税をしました、という達成感はある。払わない人も多いですが、風俗嬢でもしっかり申告はやったほうがいいと思います。
 風俗を取り巻く法律に対しては色々思うところもあるのですが、「あなたたちの業界、全然税金払っていないじゃない」と言われるのもアレなので、自分たちが安全に働くためにも、税金は払ったほうがいいと思います。毎年、泣きそうになりながら申告していますが(笑)。

松本 それでは、あとで今賀さんのマイナンバーと納税額をツイートしてください(会場笑)

司会 ゲストのお二方、ありがとうございました。(会場拍手)


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