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俳句の鑑賞⑱


古書買うてわづかな雪を帰りけり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.35

季語:雪(三冬・天文)

住んでいる街の贔屓にしている古書店。そこから、以前から欲しかった本が入ったと連絡をもらい、休日にいそいそとその本を買いに行きます。
無事、その本を手に入れ、もう少しお店を見ている間に、来るときには降っていなかった雪がちらつき始めました。
もしかしたら、その冬初めての雪なのかもしれません。

傘はもたずですが、降っている雪はわずか。その雪の中を、古書をもって家路につきます。小さな幸せのとき、であります。


寒林の奥にある日へ歩みけり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.36

季語:寒林(三冬・植物)

冬の林には、葉を茂らせたままの常緑樹と、すっかり葉を落とした落葉樹の裸木とが入り混じっているところも多いように思います。

この御句の寒林は、恐らく手前に常緑樹、そして、その奥に裸木があり、暗い林の奥に、日の光が射しこむ明るい場所があるのでしょう。
ぽっかりと穴が空いたように、地面に降り注ぐ光。神々しくもあります。
その日に向かってゆっくりと歩いて行く。私がその景にいたとしたら、やはり絶対にその光の場所に向かうと思います。そして、写真に収めたい。

人の希望をも感じられる御句であります。


初電車しみじみ知らぬ顔ばかり

津川絵理子句集「夜の水平線」P.41

季語:初電車(新年・生活)

お正月明けのお出かけでしょうか。
慣れ親しんだ電車に乗り込んだものの、目の前に広がった景は、普段の様子とはかなり違っていたのでしょう。親子連れがいたり、若い人々が多かったり、また、衣服なども新年を感じるものなのかもしれません。

しみじみ知らぬ顔ばかり、の措辞に、興味津々でまわりを見まわしている主人公が見えるようです。
若干の可笑しみもまた、楽しい御句であります。


冬虹や鞄に入れしままの本

津川絵理子句集「夜の水平線」P.42

季語:冬虹ふゆにじ(三冬・天文)

本当は、本を読もうと思っていたのでしょう。
ですが、目に入った冬の虹に息に驚き、その美しさに見入り、そして、あれこれと想いを巡らせる主人公が見えるようです。

鞄に入れしままの本、という中七下五のもつ余韻が、冬虹を際立たせているように思います。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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