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俳句の鑑賞㊼


蛍火や風のはじめの草の音

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.96

季語:蛍火(仲夏・動物)

暗闇に浮かぶ蛍火を見ている作者。人気ひとけのない、静かな夜なのでしょう。
蛍火と、自分だけの世界の中、ふと、草の囁きが耳に入ります。やがて、その草を揺らした風は、作者の元にも届いたのでしょう。
もしかしたら、蛍もその風に乗って、それまでとは違った動きになったのかもしれません。

蛍火と、草の囁きと、吹き始めた風と、作者との静かな時間であります。


さざなみに森のいろ揺れ未草

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.96

季語:未草ひつじぐさ(晩夏・植物)

深緑の木々に囲まれた池、或いは、湖に、さざなみが立ちます。水面に映り込んだ森のいろが美しく揺れ、それに合わせるように、未草(=睡蓮)の葉も、花も揺れているのでしょう。

さざなみは、風によって生まれたのかもしれませんし、ボートなどによるものかもしれません。
暑さのなか、ほんの小さな秋の報せも感じられます。


梅雨寒しシアターの席立てば閉ぢ

津川絵理子句集「夜の水平線」P.110

季語:梅雨寒(仲夏・時候)

シアターの席、確かに立つと閉じます。その小さな当たり前に、読み手はハッとし、大きな共感が生まれます。

梅雨寒、季節外れの寒さに、シアターでほっと一息ついた作者。上映前に、雨に濡れた衣服を拭いたり、上着を脱いだり、傘を足元に置いたり、その動きの都度に閉まろうとする席、とてもリアルです。


天井にはみだす映画夜の秋

津川絵理子句集「夜の水平線」P.111

季語:夜の秋(晩夏・時候)

二句目は、恐らくシアターではなく、仮設のスクリーンでの映画上映なのでしょう。
こちらもまた、天井にはみだす、というありがちな景を切り取っていることに、小さな驚きと共感が生まれます。

季語「夜の秋」は、晩夏。「秋の夜」とは異なります。
夏の終わりの夜、少しだけひやりと秋の気配を感じた作者だったのでしょう。天井にはみだした映像も、少し哀し気なものだったかもしれません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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