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俳句の鑑賞㊺


独り身に包丁ひとつ梨を剥く

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.91

季語:梨(三夏・植物)

仕事からの帰り道、店先に並んでいた梨を買ったのかもしれませんし、故郷から送られた梨かもしれません。
何れにせよ、作者は梨がとても好きなのだと思います。
一人静かに、丁寧に、皮を剥いている包丁と、梨の汁にまみれた手が見えます。そして、梨のなんと美味しそうなこと。
同時に、なんとも言えぬ、淋しさも漂います。

現在は、俳人の奥様と、元気いっぱいの息子さん、愛くるしいお嬢さんに囲まれた村上主宰。きっと、賑やかに梨を召し上がっていることでしょう。


後ろ手に良夜の芒提げてゆく

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.91

季語:良夜(仲秋・天文)

中秋の名月と芒とは鉄板の組合せではありますが、満月の道々、後ろ手に芒を提げて歩く景に、様々なドラマが生まれます。

後ろ手、しかもその手に何かを握ることは、あまり女性にはない仕草と私には思えます(赤ん坊をおんぶ、はありますが)。ですから、男性の少し寂しげな後ろ姿が見えます。
手には芒。家で、その芒を生けるのでしょうか。或いは、その芒を待っている家人がいるのでしょうか。その芒をどうやって手に入れたのでしょうか。

また、自身のことではなく、同じ道の先を歩いている誰かのことを詠んでいるのかもしれません。そんな二人をも、名月が照らしてるのであります。


ちよいちよいと味噌溶いてゐる桜どき

津川絵理子句集「夜の水平線」P.105

季語:桜時(晩春・時空)

桜どき、まさに桜が見頃です。庭の桜、或いは、厨の窓から見える桜に、気もそぞろな作者が、「ちよいちよい」のオノマトペに表れているように思います。

味噌はゆっくりと溶く方が美味しいので、結果オーライかもしれません!
日常の何気ないひとコマの詩であります。


表札の「若竹」「泉」うららけし

津川絵理子句集「夜の水平線」P.106

季語:うららけし(三春・時候)

「若竹」「泉」、料亭や、ホテルの個室の入り口に掲げてある木の表札でありましょう。うららかな春の日、そこに集う人々の服装や、表情までもが、穏やかな春のようです。

「」の使い方も学びになります。


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「遅日の岸」より、村上主宰ご自身の「自選十句」を、YouTube 「ハイクロペディア」で順に見ることができます。


第七回は、

真清水にたくさんの手の記憶あり 村上鞆彦

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.71


第八回は、

雨あしのやがて揃ひぬ冬紅葉 村上鞆彦
「ハイクロペディア」内では、
あめあしのやがて揃ひぬ冬紅葉

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.115

     

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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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