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俳句の鑑賞㉟


林中に蝶の道ありハンモック

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.68

季語:ハンモック(三夏・生活)

蝶の飛んでいる様子を観察していると、あるひと所を巡回していることが多くあります。それを、蝶道・蝶の道ともよびます。

林の中でハンモックに寝転んでいる作者の眼に入ったのは、一頭、あるいは数頭の蝶々。眺めていると、所謂、蝶の道、と言われる飛び方をしていることに気づきます。
日頃の喧噪から抜け出し、林という非常に居心地のよい空間で、しかもハンモックに揺られつつ、ゆったりとした時間を過ごしている。なんと幸せな光景でしょう。
もしかしたら、家族や仲間たちとのキャンプなのかもしれません。周りの人々の穏やかな様子も見えるようであります。


万緑やどの木ともなく揺れはじむ

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.69

季語:万緑(三夏・植物)

緑、という色が好きです。漢字で表現すると、ただの一文字ですが、ありとあらゆる緑の色が次から次へと浮かぶからです。
そしての、万緑、という季語。そこからは、様々な緑だけでなく、満ち溢れる生命、葉葉の香りも感じられます。

そんな万緑ですが、それは実は一本の木、一枚の葉から成り立っている。そのどれか一本から揺れ始め、ひいてはありとあらゆる木々、山までが揺れ始めるのです。そのことに気づき、句に仕立てる、その感性に非常に惹かれます。

最近、南風俳句会の二代目の主宰でいらした、山上樹実雄先生の句集を読み始めました。
第一句集「眞竹」の第一句に
揺れやすきところより花咲きそめし
という句があります。私は、山上先生のこの御句を目にした途端、主宰のこの万緑の句を思い出しました。


父の日やパレットに絶海の青

津川絵理子句集「夜の水平線」P.85

季語:父の日(仲夏・生活)

初見、絶海の青、にひどく惹かれました。なんて素敵なのでしょう。深い深い青色を想像いたします。
それが、パレットにあるという。恐らく、海を中心とした絵を描いているのでしょうが、その海の深さ、周りの空、樹々の色までもが見えるようであります。

取り合わせの季語は、父の日。とても紳士然としたお父さまが浮かび、尊敬の念も感じられます。


大南風アルプス席に人はりつく

津川絵理子句集「夜の水平線」P.86

季語:大南風(三夏・天文)

野球場の景。恐らく、相当強い南風が吹いてきたのでしょう。アルプス席の観客が、その風に煽られつつ、飛ばされないように踏ん張っているのです。それを、アルプス席にはりつく、と表現しているところに面白味をとても感じます。
大南風とアルプス、の文字もまたよく響きあっていると思います。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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