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岩田奎句集「膚」を読む。

岩田奎句集「膚」から、気になる四十五句。


千手観音どの手が置きし火事ならむ

雨女鶯餅を買うて来し

耳打のさうして洗ひ髪と知る

天の川バス停どれも対をなし

旅いつも雲に抜かれて大花野

合格を告げて上着の雪払ふ

仔馬開眼ひかりとしてのわれ佇てり

水羊羹風の谷中のどこか通夜

血清の届けられたる海の家

白式部手鏡は手を映さざる

履歴書と牛乳を買ふ聖夜かな

榾の宿闇のどこかにオロナイン

掻敷に油の移る花疲

もう雨の日を知つた白靴でゆく

噴水はだれにも肖てゐない裸像

晩夏光鍵は鍵穴より多し

寒卵良い学校へゆくために

国鉄のころよりの雛飾りけり

逃水をいふ唇の罅割れて

枝剪つて鉈にみどりや梅雨ふかし

賭博うつ老婆は海の家にをり

蚯蚓死すおのれの肉と交叉して

稲の花ラジオは馬の名を呼んで

赤い夢見てより牡丹根分かな

鹿の目の中をあるいて白い服

タクシーの間仕切の穴蚯蚓鳴く

生まれつき静脈透いて朱欒剥く

木の奥をゆくよそさまの七五三

枯野にてアーッと怒りはじめたる

御通じに草ひからせて百千鳥

あと一度ねむる夏蚕として戦ぐ

捩花や馬の涎のゆつくりと

刈りし藍袋の中に饐えはじむ

二種類の吸殻まじる夕焼かな

青柿のころより確と富有柿

噴水の霧がしたがふ微風かな

老人の日の蛇が呑む卵

シュプールは悲鳴のやうにのこるなり

雪国へ入りぬ綺麗に箸割れて

立てて来しワイパー二本鏡割

雪掻の汗そのままに急須とる

水鳥よひとびとの喪の箸づかひ

残雪に狐の不浄見て過ぐる

まだ学生してゐるものも花疲

蠅生るゼブラのペンを胸許に

ふらんす堂「岩田奎句集・膚」より抜粋




     ・・・・・

岩田奎氏は、南風俳句会の「創刊90周年記念号」にも特別寄稿を寄せてくださっている俳人で、南風の板倉ケンタさん(群青にも所属)と、俳句甲子園、開成高校チームで優勝を共にしたお仲間。
角川俳句賞も、史上歳少年で受賞なさっています。

今月、荻窪の「屋根裏バル 鱗 kokera」で行われる読書会の兼題図書でもあることから、拝読。

個人的に、気になる四十五句、と記したのは、好きな句も含みつつ、まさに「気になる」ということです。
季語の使い方(季重なりも含む)や、固有名詞の用い方、汚物の表現、視点、などなど学びも多くありました。

正直私には、意味をよく把握できない句もあり(挙げた句以外)、二度、三度読み直しをいたしましたが、岩田氏のこの句集が、今後の日本の俳句、令和の俳句を代表する句集のひとつとなることは確実と思います。

皆さまもそれぞれに、「膚」を実際に読んでみていただきたいなあ、とも思います。


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