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俳句の鑑賞㊾


秋晴や水にしたがふ藻のゆらぎ

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.100

季語:秋晴(三秋・天文)

清らかな水面や、水の中にただよう藻はとても美しく、それを静かに見つめているだけで、心が整うように思える私です。

秋晴のもと、清流の中の藻の景が、目の前に広がります。「水にしたがふ藻のゆらぎ」、とても心地の良い音です。濁音も効いていて、たまに、流れが急になるときもあるのだろうな、と思えます。
水の流れにしたがう藻、育った長い藻、まだ生まれたばかりのような小さい藻、それぞれが楽しそうでもあります。


小鳥来る水にただしき木のかたち

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.101

季語:小鳥来る(晩秋・動物)

一句目は、流れる水の中の景。そして、二句目は、閑かな水に映るものの景。

「ただしき木の容」の措辞、生えている木が、ほぼそのままに、ただしい容姿で水面に映っているのです。恐らく、風もない、ひっそりとした晩秋の湖、或いは、池なのでしょう。
映っている木々も、かなり葉を落としているものが多いのではないでしょうか。枝ぶりさえもが見えるようです。
そんな木に、そして、水辺に小鳥がやって来ています。閑かな空間に、鳴き声が色を添えます。


氷水もうその人の話出ず

津川絵理子句集「夜の水平線」P.114

季語:氷水(三夏・生活)

二人、或いは、数名で甘味処のテーブルを囲んでいる景が浮かびます。「その人」の話題が中心だったのでしょう。時折、汗を拭く仕草も見えるようです。
そして、そこに、注文した「氷水」が置かれます。

待ち侘びた氷水。氷を丁寧に崩しつつ、無言で氷を口に運ぶそれぞれなのです。


口のなか舌浮いてゐる鰯雲

津川絵理子句集「夜の水平線」P.116

季語:鰯雲(三夏・天文)

何かに気をとられているとき、気づけば、口が半開きになり、その口の中では、舌が少し反り返って宙ぶらりんになっていることがあります。
まさに、「口のなか舌浮いてゐる」です。

そのような状態の作者が見ているのは、「鰯雲」。さぞかし、圧倒的な空の青と白い鰯雲だったのでしょう。
細かな自己観察、と、的確な表現、惚れ惚れといたします。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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