見出し画像

俳句の鑑賞《52》


海を見にゆく白靴のおろしたて

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.109

季語:白靴(三夏・生活)

靴を新しくするとき、人はささやかな幸せ、を感じることが多いように思います。通学靴であっても、通勤靴であっても、気づくと自分の口角が上がっていたり、自然と背筋が伸びて、真っ直ぐに前を見て歩いていたり。

白靴は、恐らく真っ白なスニーカーでしょう。おろしたてのスニーカーを履いて作者が向かうのは、海。もしかしたら、心を寄せている人とのデートかもしれませんし、もしかしたら、一人気楽に、その日を愉しむのかもしれません。

爽やかな青春の一コマであります。心がとくんと鳴ります。


いつせいに鳴る風鈴のどれ買はむ

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.111

季語:風鈴(三夏・生活)

昭和の時代の風鈴屋さんの景が、ぱっと広がりました。
昔は、東京であっても、夏になると風鈴を売りに来るおじさんがいらしたものです。

急に風が吹き、色とりどりの風鈴が、まさに「いっせいに」鳴り始めます。近寄れば、一つ一つの音色は少しずつ違っていることに、気づきもします。
さて、どの風鈴を買いましょう。親子で、または、夫婦で相談している様子も見えてまいります。

風鈴のあの懐かしい音色が、いつまでも私から離れません。


小春日や尾生え脚生え龜てふ字

津川絵理子句集「夜の水平線」P.123

季語:小春日(初冬・時候)

「龜」という漢字、象形文字の代表のようであり、まさに「尾」と「脚」が見えます。そのことが、そのまま、詠まれてはいるのですが、季語「小春日」の力で、まるで生きている龜そのものが、気持ちよさそうに日向ぼこをしている景が目の前に現れます。
恐らく作者は、そんな龜を見て、この句を思いついたのではないでしょうか。

少しの滑稽味がまた、春に似た温もりをも、読み手に与えるようにも思います。


寝ころんで選ぶ枕や初霰

津川絵理子句集「夜の水平線」P.124

季語:初霰(新年・天文)

良い睡眠には、自分に合った枕が大切、と思う方も多いことでしょう。初見、上五、中七の措辞から、街中の寝具店で枕を選んでいるのかな、と思えば、季語はなんと「初霞」。
突然、山里の景と、そこにある宿の景が浮かびました。

家族と、或いは、気心の知れた友人と、初旅を楽しんでいるのでしょう。旅館に引かれた布団の上で、自分はどの枕にしようかな、と寝ころび合って選んでいる楽しげな様子が見えてまいります。


     ・・・・・

「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
👇

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。