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俳句の鑑賞《60》


鶺鴒がとぶぱつと白ぱつと白

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.128

季語:鶺鴒(三秋・動物)

鶺鴒というと長い尾を上下に動かし、忙しなく歩きまわる印象を強く持っていた私ですが、その飛び方も印象的だということを、この句に出会って調べてみたことで知りました。

実は初見時、二羽の白鶺鴒が右に左に、黒羽根の下の白い羽根を開いて「ぱつと」飛んだのか、と思ったのですが、スローモーションで撮影された動画を観て、いや違う、一羽の白鶺鴒が、波のように独特な飛び方で飛ぶ様子なのだ、とわかりました。
まさに「ぱつと白」「ぱつと白」、羽根を開いたり閉じたりして飛ぶのです。
非常に素直な写生句でありつつ、一度読んだ読み手の記憶にしっかりと刻まれる句と思います。

目にも、音にも切れがあり、清々しい。「遅日の岸」の代表句の一つであること、間違いなしであります。


走り根に遠く幹あり秋の暮

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.129

季語:秋の暮(三秋・時候)

「秋の暮」という季語、秋の夕暮れ、の意とともに、秋の末、の意ももち、とても寂しげな風情があります。

そのような「秋の暮」に作者は、足元の走り根に気づきます。恐らく、沈みかかった日の光が走り根を静かに浮かびあがらせたのでしょう。
その根を目で追えば、一本の大木に行き当たります。おおかた紅葉もすみ、葉の数も少なくなりつつある木。

ですが、その大木がしっかりと大地に根を下ろし、遠くまで根を伸ばしている景は、読み手に安堵も与えてくれるように、私は思います。
木は、これからやってくる冬をしっかりと乗り越え、再び春に芽吹くことでしょう。


杉山へ竹ひろがりぬ夏の雲

津川絵理子句集「夜の水平線」P.143

季語:夏の雲(三夏・天文)

初見、非常に日本らしい景と思いました。
竹の勢いは強く、わさわさと広がります。杉山の杉も負けてしまいそう。そのような山(それほど高くはない)の上を見上げれば、夏の雲が高くそびえています。

生命に満ち溢れた、力強い句であります。


占ひのはじまる机夏の雨

津川絵理子句集「夜の水平線」P.144

季語:夏の雨(三夏・天文)

「占ひのはじまる机」の措辞に、どきりとした私がいます。
占いって、自分が弱っているときに頼ったりするような気がするので。
これから何やらを占ってもらおうとする、その始まりの机。何とも心許ない雰囲気であります。

曖昧な印象の「夏の雨」の季語の力かもしれません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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