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石原八束句集「白夜の旅人」を読む。

石原八束いしはらやつか句集「白夜の旅人」から、四十五句選。


霜柱はがねのこゑをはなちけり

木守柿きもりがきの朱を散らしゐる虎鶫とらつぐみ

冴え澄みて銀河しづかにけむらへり

切干の簀子すのこの端の唐辛子

孤島なる玉石ポット甌穴ホールの空に鷹

誰やらの死をたとふれば桔梗かな

不機嫌な木枯となる月に猫

安らぎは十字架クルスにあり雪ふれり

流氷や天上桟敷に雲の裸婦

流氷や紅き七つの実はまなす

流氷の鼓動無尽にオホーツク

白鳥の湖に馬橇の鈴ひびき

白鳥の黒瞳小さし争へり

赤き餌につくわかさぎを釣りにけり

牛飼ひの部屋に花ある流氷期

遠音別岳をんねべつ羅臼岳らうすそそりて流氷来

流氷の黄となる没日能取岬のとろさき

大いなるしづけさひいて流氷凪ぐ

渦巻いて氷湖をわたる粉吹雪

むらさきに白夜の孤島火を焚けり

火を焚いて白夜の神を湖に呼ぶ

呪文師の笛は白夜の河に消ゆ

パンセ売る朝市広場の船溜り

午后九時の西日の海の小白鳥

岩盤に羊貼りつく氷河光

サングラスかけて峡湾フィヨルド船白し

氷河ある谷もへだててチューリップ

ムンクは森に妖精ニンフは海に白夜来る

ムンクの乗りし馬橇白夜の骨となる

花嫁がムンクの森を駆く白夜

白夜なる鳩の水笛吹くムンク

茜さすムンクの町の白夜光

牧羊の鈴の鳴りゐる白夜かな

瀧はげし月光のいろ増す白夜

天を墜つごとく白夜の蝶おちぬ

唇に白夜の蝶のきてゐたり

帆船にムンクのかほのある白夜

うすものやうつむきぐせも身に添ひし

杉は天に瀧は坩堝るつぼへ突き刺さる

破顔してあと声たたぬ笑初め

烟るあり烟らぬもあり瀧のほこ

神の言葉隠り寒林青くなる

傷口に粉雪積もれば血を噴かむ

雪に濡れ仮面剥がれてしまひけり

角川書店「石原八束・白夜の旅人」より抜粋



古書で運よく手に入れることができました。


     ・・・・・

高校の同級生である俳人の仙田洋子氏が、学生時代、最初に師として仰いだのが石原八束先生
以前「流氷と白夜の句が載っているから」ということで、仙田氏におすすめをいただいた本書ですが、(私が旅先での句、特に海外詠をひとつの目標としていること、をご存知であり、背中を押してもくださっているため)

・流氷は、北海道網走からウトロにかけてのオホーツク
・白夜は、フィンランド・スエーデン・ノルウエーの北欧三国を中心

に詠まれた句のようです。

流氷も白夜も、ともに実体験をともなわずしては、なかなか句意を読み取りにくい素材と思います。
そのことを、今回、この句集を読むことで、ますます実感いたしました。


流氷や紅き七つの実はまなす

角川書店「石原八束・白夜の旅人」P.49

流氷、実はまなす、季語重なりの句でありますが、流氷の季節になっても、紅色のはまなすの実は確かにオホーツク沿岸に残っているので、この句の景は、私のなかで見事に再現されました。

流氷の鼓動無尽にオホーツク
遠音別岳をんねべつ羅臼岳らうすそそりて流氷来
流氷の黄となる没日能取岬のとろさき

角川書店「石原八束・白夜の旅人」P.51、P.64、P.67

こちらも、まさに網走、から、ウトロにかけての景ですが、恐らく、実際にその景を見たことがないと、ダイナミックさが伝わりにくいかなあ、とも思います。
(遠音別岳、羅臼岳は確かにそそり立って見えるし、能取岬からはオホーツク海が見事に見渡せます)

白夜の句については尚更であり(白夜は季語でありますが、実際に日本で見ることはできず、なかなか詠みずらい季語です)、今回は主に「ムンク」の句を中心に選んだわけですが、ムンク(ノルウエー出身)ほどに有名であるとある程度想像もできますが、それ以外の固有名詞などは、調べたことで景はわかりつつ、理解には至らずでした。
(私は、北欧、及び、北極圏の国々の、夜が長い季節は体験しましたが、白夜はまだ未経験)


旅の句、とくに海外詠は、これまでも失敗の連続な私でありますが、今後も挑戦は続けていきたいと思います。

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