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俳句の鑑賞㉒


春の蠅吊り広告にぶつかりぬ

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.42

季語:春の蠅(三夏・動物)

成虫のまま冬を越した蠅。徐々に暖かくなり行動を開始するものの、まだ弱弱しい。
そんな蠅が電車に迷い込みました。乗客の衣服にでも止まって(休んで)いて、一緒に乗車してしまったに違いありません。
力無げに車内を飛び回る蠅は、なんと吊り広告にぶつかってしまったというのです。

ふらふらの春の蠅の様子も滑稽でありますが、蠅の動きを目で追っていたに違いない作者を想像すると、また別の可笑しみが出て参ります。なんとも、春、であります。
そして、広告にぶつかった蠅が、なんとか態勢を整えて再び飛べたことを、つい願ってしまう私がいます。

主宰は句会で、可笑しみのある句を時々おとりになりますが、その原点のような御句と思いました。


畳屋を出ていく畳春の風

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.42

季語:春の風(三春・天文)

畳替えの畳が、引き戸を開け放たれた畳屋から出ていく景、そこに吹く春の風。
新しい畳の色、そして匂い、が一気に目の前に。
職人さんの丁寧な仕事の様子も、新しい畳が入れられる部屋、までもが見えて参ります。

新しい、って春です!


呼鈴を押す夏帽子二つ折

津川絵理子句集「夜の水平線」P.48

季語:夏帽子(三夏・生活)

友人の家を訪ねているのでしょうか、それともお稽古でしょうか。
呼鈴を押す前に被っていた夏帽子を、さっと二つ折りにして小脇に抱える姿が見えます。

それほど改まった感じはなく、気心の知れた間柄が浮かびます。
恐らく、お宅までの暑い道のりを少しの心の高揚をもって歩いて来たに違いありません。
本当に何気ない日常の一コマを、さりげなく丁寧に。


マンションの木々みな若し愛鳥日

津川絵理子句集「夜の水平線」P.48

季語:愛鳥日(初夏・生活)

最近のマンションは、定められた緑化義務によって植栽が美しいところが多くあります。
木々みな若し、の措辞から、恐らくまだ新しいであろうマンションが想像できます。
愛鳥日をきちんと意識している作者には、そこの若々しい、まだそれほどには葉が繁茂していない木の梢にやってくる鳥たちを愛でているに違いありません。

爽やかな初夏の光景、陽射しです。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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