見出し画像

俳句の鑑賞⑳


初夏の木々それぞれの名の眩し

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.38

季語:初夏(初夏・時候)

植物園などでは、植わっている植物にネームプレートがついています。
この花は、そうだ、こういう名前だった。この木こそが、〇〇の木か。と驚きやら、納得やら。

訪れたのは、初夏。木々そのものが爽やかな陽射しを浴びて、最高に美しい時期であります。ああ、この木がこの名前か、と知った喜びと相まって、木も木の名前もどちらも眩しい。なんて素敵なのでしょう。拝見する度に、心がわくわくする御句であります。

そして、津川顧問の
若竹や和菓子のひとつひとつに名
の御句をも思い出すことができます。


蟻ひとつ昼餉のあとの手に這はす

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.39

季語:蟻(三夏・動物)

作者は蟻がお好きなのかもしれません。
指先の蟻大空を感じゐる の御句で味わった蟻との楽しいひととき。今度は、昼餉のあとに蟻と戯れます。

蟻の動きに合わせて手をひっくり返します。掌を、そして手の甲を這う黒い蟻。私も幼い頃、似たような一人遊びをしていたことを思い出しました。
蟻への愛、いいなあと思います。


春寒し順番を待つパイプ椅子

津川絵理子句集「夜の水平線」P.44

季語:春寒し(初春・時候)

小学校の体育館で行われる、卒業式の景が目の前に浮かびました。
卒業生が名前を呼ばれると、規律して、元気に「はい」と答えます。自分の番が来るのが、待ち遠しいような、そうでないような。
自分の前列のパイプ椅子を見つめながら、自分の番が回って来るのを待つ。
私も、初々しい心持になります。


墨当てて硯やはらか百千鳥

津川絵理子句集「夜の水平線」P.45

季語:百千鳥(三春・動物)

磨る墨は、種類・銘柄によってその硬度は違います。硯に水を少し入れ、墨で水をのばしながら、硯に墨を押し付けて上下に動かします。
実際は、墨そのものが削れるわけですが、それを作者は、硯がやはらか、と表現。ああ、そうか、そういう感じ方も確かにある!と若干の驚き。

また、その、やはらか、と感じることには、墨の違い以外に、墨を磨る人の、その時の心持も反映されると思います。

外では百千鳥の鳴き声が盛ん。きっと作者の心も穏やかだったに違いありません。


     ・・・・・


「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
👇

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。