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俳句の鑑賞㉚


歯に当てて眩しき果実五月の空

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.57

季語:五月(初夏・時候)

歯に当てて眩しき、とある果実は、林檎ではないかと想像いたしました。
丸ごとの林檎を口に運び、まさに齧ったとき、歯にあたった果肉の硬さ、香りとジューシーさに驚きます。恐らく、目に入った林檎そのものにも、五月の明るい空の陽射しが当たって、色鮮やかであるのでしょう。
五月ならではの爽やかさ、であります。

最近、私は、鷲谷七菜子先生の「銃身」を読み進めています。

巴書林句集文庫


これまで読んだ他の俳人の作品と比べて、私には難かしく、学びでもあるのが、上五、下五の字余りがよく見られることです。

主宰のこの御句も、五月の空、という六音。音読で、中七の「果実」で一呼吸を置き、ゆったりと、五月の空。何度かその音読を繰り返すことで、また新しい句の世界が私にも見えてまいりました。


友すでに若き父たり立葵

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.58

季語:立葵(仲夏・植物)

恐らく同級生の友なのでしょう。その友が、若くして既に父だという驚き。
季語は、立葵。
空に向かってぐんぐんと伸び、大人の身長を越す高さにまで育ち、真っすぐな茎に大輪の花を次々と咲かせる花です。
本当にぴったりな植物です。


冬の雲疾し一本の電話のあと

津川絵理子句集「夜の水平線」P.72

季語:冬の雲(三冬・天文)

冬の雲が空を急いで流れています。その後に、青空が広がりそうな様子ではありません。
そんな空を見上げたのは、一本の電話での会話のあと、とのこと。どのような内容だったのだろうか、とつい想像が巡ります。
大事に至らずだと良いのですが。


ひと言に血のめぐりだす竜の玉

津川絵理子句集「夜の水平線」P.73

季語:竜の玉(三冬・植物)

そして、こちらは、上五の「ひと言」がとても気になります。
自分が発した言葉なのか、人の言葉なのか、いずれにせよ血がめぐりだすほどの言葉。取り合わせの季語は、竜の玉、というところから、ふと涙の雫を思いました。

竜の玉

色の少ない冬の景色にあって、しっかりとした緑の竜の髭のなかに色づく竜の玉。心の乱れを優しく治めてくれるのかもしれません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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