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俳句の鑑賞㉘


兎撃つとき青空に罅走る

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.52

季語:兎(三冬・動物)または、兎狩(三冬・生活)

初見で、銃の音、兎の動きが止まる様子、がまざまざと脳内再生され、思わず目を瞑ってしまう、そんな心の衝撃で、私の脳内の青空にも罅が入りました。その罅からは、悲しみの泪が滲みてきそうにも。

狐や鹿や猪などではなく、何故兎なのか、罅が入るのが何故空なのか、と不思議に思う場合もあるかもしれません。
ですが、そのまんま、兎と青空に入る罅、が良いのだなあと思います。


踏切の音に火のつく枯野かな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.53

季語:枯野(三冬・地理)

そして、こちらは、踏切の音に火がつくというのです。それは枯野だからこそ。
青々した草原では、踏切の音に火はつきません。

一句目の、青空に罅が走る。
二句目の、踏切の音に火がつく。
どちらも、それぞれの季語だからこそであり、このように詠むことができる感性にとても惹かれます。


クレマチス月の表面よく乾き

津川絵理子句集「夜の水平線」P.65

季語:クレマチス(初夏・植物)

月の表面がよく乾いている、という措辞に驚きました。夏であっても、月光は鋭く、美しいに違いありません。
そんななか、夜でも花びらを閉じることなく咲き続けるクレマチスの、あの大きな花びらは、昼間とは違った趣きで、いくつもが咲き誇っていることでしょう。


レコードを選る涼しさの指二本

津川絵理子句集「夜の水平線」P.66

季語:涼し(三夏・時候)

レコード、選る、涼しさの、指、二本、と上五から下五へ徐々に視点がクローズアップされ、最後の二本、でもう一回、上五のレコードが見えるように思います。

大学時代、目白にあったレコードショップをふと思い出しました。あの頃はまだCDの時代ではなかったので、まさに指二本でLPを選んでいました。懐かしいです。



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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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