『指、あるいは、ある家族の思い出』 # 春ピリカ応募
指である。
紛れもなく指である。
出窓のところに、ポツンと心許なさそうに。
それは、あると言うよりも、そこにいるという表現の方が当てはまるような気がした。
カーテンの隙間からの月明かりを避けるようにして、そこにいる、それは、紛れもなく指だ。
指とわかれば、次はどの指かが知りたくなる。
ベッドの上から、じっと目を凝らす。
どうやら親指でないことは、形状から明らかだ。
そして、小指でもない。
ゆっくり立ち上がって、静かに近づいてみる。
気づかれると逃げてしまいそうだ。
息を殺して