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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#指輪

桜桃 / 春ピリカ応募

桜餅の香りがして顔を上げた。バカみたいに青い空に葉桜が気持ちよさそうに揺れている。 桜餅の香りは花じゃなくて葉なんだ。なんて考えながら氷の溶けたカフェオレを一口飲むとまた携帯の画面に目を落とした。 白いドレスは削除。 お色直しの桜色のドレスも削除。やっぱり私は白無垢が着たかった。彼の羽織袴姿は凛々しくて惚れ直してたと思う。まぁタキシードも悪くないけど。 結婚式の写真の次はハワイになっちゃった新婚旅行。日焼けしすぎた彼の笑顔を眺めていたら、少し息を切らせて彼がやって来た。 「ご

超短編小説:指輪論

「なんでもない日に指輪をプレゼントしてくるような男なんてロクなやつじゃないんだから。やめときな」  私はずっとそう断言してきたし、そうすることで何人もの女友達を救ってきた。  だってそうでしょう。  そもそも、アクセサリーというものはかなりのセンスを要する。そのなかでもサイズ、デザイン共に難易度の高い指輪をチョイスするなんて。かれこれ20年自分の指と過ごしている私でさえ、どんな指輪が合うのかわかりかねているのに、数ヶ月の付き合いで本当に似合うものなんて見つけられるわけがない

指輪なら、はなまる指輪専門店へ

 ポストの中身を整理していると、春色の葉書が目に入った。埃を被った小箱に目を遣る。あの指輪を蘇らせられるのだろうか。  カランカラン。重い扉を引くと、古風な喫茶店風の店内で、にこにこ顔の若い女性と初老の男性が迎えた。 「いらっしゃいませ」 「この葉書を読んで来たんですが」 「ありがとうございます。こちらにおかけください」  椅子に腰かけ、鞄から指輪を取り出す。 「この指輪を直していただけないでしょうか?」 「承知しました」  男性が笑みを湛えたまま、二つ返事で承諾する。 「