マガジンのカバー画像

夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

121
2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
運営しているクリエイター

#手鏡

嘘つき鏡【#夏ピリカグランプリ】

蝉しぐれが焼けた肌にジリジリと突き刺さるような夏の日。 お盆を控えた私達はお墓参りのついでに、家主を失った田舎の祖母の家まで来ていた。 半年前、祖母が亡くなった。 祖母の葬儀の後、祖母が一人暮らしていた家を誰が処分するのかということを、親族間で揉めに揉め、半年間放置されていたのだが、とうとううちが引き取ることになり、現在に至る。 家主がいなくなった家は老朽化が早まると聞いていたが、かなりの荒れ果てようで、滴る汗を拭いながら、祖母の遺品や形見分けだけをおこなう。 特殊清

麦わら帽子の少女と出会った日 (夏ピリカ応募作品)本文1,182文字

力強い生命力を放つ青々と伸びた草原で、白いワンピースが汚れる事も気にせず、黄色い蝶を追い駆け回る少女の姿は、僕に眩しい程の未来を感じさせた。 目的もなく車を走らせてきた僕は、車を降りてその光景を眺めていた。 すると、少女が被っていた麦わら帽子が風に飛ばされ、空に舞い上がった。 少女は黒い髪を靡かせながら、空を見上げて走った。 やがて麦わら帽子は草の上に落ち、尚も風に弄ばれて僕の目の前に転がってきた。 僕はその麦わら帽子がまた飛ばされる前に捕まえた。 「よかったー。ありがと

鏡の中のバディ【夏ピリカグランプリ】

 「あー、もっと可愛くなりたいよー。どうすりゃいいのかな」  ひなたは手鏡を片手にソファにごろんと転がった。お風呂上がりのスキンケアもそこそこに、ひなたは鏡の中の自分の顔を見ながら独り言を言った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。  「お前、何言ってんの?自分で自分を可愛いって思わないでどーすんの?」  ひなたは飛び上がって周りを見渡した。だけど、当然ここには自分一人しかいない。怯えるひなたにはお構いなしに、また声が聞こえた。  「ひなた、ここだよ。鏡の中だよ

愛しのマリー 〜【夏ピリカ応募】ショートショート〜

蚤の市で目に留まったのは、少し燻んだ銀の手鏡だった。  銀食器の横に並べられたそれは、20cm位の縦長で周りと柄が、全部手彫りで細かく豊かな自然が溢れていた。 あまりに見事な装飾に見惚れていると 「フランスの1700年代位かね、ここまで豪華なものはなかなかないよ。」 店主の年配の男性が、直々に現地の市場で見つけたと言う。 持ってみると、しっくり馴染む。 なぜか、手にピッタリと吸いついて使いやすそう。 ちょっとお高めだったが、連れて帰らなければいけない気がして購入した。