マガジンのカバー画像

夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

121
2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
運営しているクリエイター

#恋愛

【小説】今だけのシャッターチャンス(#夏ピリカ応募)

「ガソリン入れといてって言ったじゃん」  後部座席の倫太郎とルームミラー越しに目が合ったので、思わず言ってしまった。  黙っておこうと思ってたのに。  彼は悪びれず言う。 「すっかり忘れてたよ。ごめん」  1ヶ月ぶりのデート。  久しぶりの遠出は、私の運転。  倫太郎も免許を持っているが、通勤以外では運転しない。疲れているから休ませてくれと、後部座席で寝ていることもある。  同棲を始め、今後のためにと思い切って買った車なのに、最近はずっとこんな感じだ。  今日もそうだった

ドライブ。(#夏ピリカ応募)

Googleマップを携帯で見ながら運転するなんて無理だし。 方向音痴だと言うと、そんなのGoogle見ればいいでしょと言われたけど無理。 こっちの画面を見て前方も見て運転するなんて神業。そう言うと隣で呆れて笑っていた。 それでもわたしはこの車を走らせたかった。 大きめのゴツい外車。慣れない仕様は教えられて叩き込んだ。 わたしの掌には太すぎるハンドルをしっかり握って自分を取り戻す。 自分で指示を出し、進むことができる。 それが必要だった。 どこか行きたい。 そう言うと、湖はど

鏡の中のバディ【夏ピリカグランプリ】

 「あー、もっと可愛くなりたいよー。どうすりゃいいのかな」  ひなたは手鏡を片手にソファにごろんと転がった。お風呂上がりのスキンケアもそこそこに、ひなたは鏡の中の自分の顔を見ながら独り言を言った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。  「お前、何言ってんの?自分で自分を可愛いって思わないでどーすんの?」  ひなたは飛び上がって周りを見渡した。だけど、当然ここには自分一人しかいない。怯えるひなたにはお構いなしに、また声が聞こえた。  「ひなた、ここだよ。鏡の中だよ

【小説】うみをうつす

「ウユニ塩湖に行きたいの」 アイスカフェオレの氷を無意味にかき回しながら、ようやくその一言を口にした。案の定、目の前の彼はきょとんとしている。 「ウユニ塩湖って、あの、日本の裏側にある水たまりのこと?」 「水たまりってなによ。あそこすごいんだから。行ったら絶対感動するんだから」 反応を予想はできていたものの、思わずむきになってインスタの検索画面を見せつける。彼はしばし画面を眺め、ふ、と曖昧な笑顔を漏らした。 「あ、今『また“映え”かよ』って思ったでしょ」 「んー、まあ