マガジンのカバー画像

春ピリカグランプリ

133
2023年・春ピリカグランプリ、記事収納マガジンです。
運営しているクリエイター

#掌編小説

掌篇小説『愛の造型(モデリング)』

マンションで昨夕、ガスか薬品か知れぬ煙と臭いが充満し、非常ベルが鳴り住民が避難する騒ぎとなった。 年寄りたちがエレベーターを占拠していたから、私は部屋に夫はいないに決っているがいちおう確かめたのち独り、ハンカチで鼻をおさえ階段をおりた。甘すぎる菓子にも錆びた鉄にも、ガソリンに薄荷をまぜたようにも感じる、ひんやり白い空気の渦を。 道中、みじかい髪の女性が担架ではこばれゆくのを視た。その辺りで臭いが濃密だったので、発生現場の住人と思った。私と似た年頃か、蒼い顔をして眼をふせ。

「『指の綾子』考」ピリカグランプリ個人賞受賞につき「指の綾子」原文公開など

参加させていただいたnote内掌編小説コンテスト「2023春ピリカグランプリ」にて、拙作「『指の綾子』考」が個人賞をいただきました。 作品はこちら。 受賞発表記事及び講評はこちら。 2021年冬のピリカグランプリに初参加したきっかけは、武川蔓緒さんからのお誘いでした。今回武川さんと並んで受賞出来たことも大きな喜びです。 そもそも武川蔓緒さんとの繋がりは、かつて開催されていた「きらら携帯メール小説」という賞の常連だったことからです。2004年~2009年にわたって続いた

【掌編小説】夢のサーカス#春のゆびまつり2023

(読了目安3分/約2,400字+α)  お皿が割れる音がした。わたしは思わず肩をすくめる。  お皿が割れる音よりもずっと大きな、ママの甲高い声。それを覆い潰すようなパパの低くて怖い声。  両手の手のひらで耳を抑え、ベッドに座り、目をつむった。閉じたまぶたに、一階のダイニングでパパとママがけんかしている様子が浮かぶ。  ママとの夕食の時に使っていた、わたしのお気に入りのハート形のお皿。ママがパパに向かって、あの皿を投げつける光景が思い浮かぶ。酔っぱらって帰ってきたパパが

【掌編小説】コンビニの夜#春のゆびまつり2023

※自然災害がモチーフとなっております。苦手な人はご注意ください。 (読了目安4分/約3,100字+α)  どうしてこんなことになったのだろう。私が何をしたの。  唯一動かせる左腕で、泥まみれの髪の毛を顔から剥がした。口元に空間を確保したため、首をねじれば何とか呼吸ができる。だが、右腕はおろか体も両足も完全に土砂に埋もれている。ケガをしているかどうかはもう分からない、冷たすぎて右腕以外の感覚が無い。  この街へ転勤になり、今のアパートに決めた理由は、このコンビニが決め手

【掌編小説】ある朝突然、世界は終わる#春のゆびまつり2023

(読了目安3分/約1,650字+α)  私は夢を見ていた。  よく晴れた夏の海、いかだ型の浮き輪の上で大の字になっている。いかだが波に乗り、沖から遠く流されていくのはわかっていた。日の光は燦々と降り注ぎ肌を焼く。仰向けに寝転がる私の背中はじっとりと汗をかく。  このまま流されればどこへたどり着くのだろうと思いながら、涼を得ようと海面へ指先を伸ばし、そこで目が覚めた。  体は汗をかき布団までジメジメして若干生臭い。タイマー設定していたエアコンも動いていない。手元にあった

【掌編小説】家出#春のゆびまつり2023

(読了目安2分/約1,400字+α) 「旅に出ます。探さないでください。 小指」  朝起きると、机の上に一行の書置きがあった。両手を表、裏と見つめ曲げ伸ばししてみる。  有る。十本。  はっと気づき、屈むと右足の小指が無くなっていた。左足と比べると、ちょうど小指の根本から無くなっている。もともと無かったかのように皮膚はつながっており、痛くもかゆくもない。私はそっと皮膚を撫で、後悔する。  昨夜スマホを見ながらトイレに行こうとしたとき、扉に小指をぶつけた。死ぬほど痛か

【6/3まで開催】ヒヨコ 春のゆびまつり2023

 ご存知の方が大半かと思いますが、ピリカ様の「春ピリカグランプリ2023」が開催中です。 (5/10の夜、盛り上がる中、応募が締め切られました。たった5日間で111本の指のお話が集まったそうです。)  800字~1200字の「ゆび」に関する物語が募集されています。  5/5~5/10の期間にエントリーをするのですが、軽く100件を超える応募が殺到するnote街の一大祭りです。  いつもゴリゴリにお話を書いている方々から、今までお話を書いたことが無かった人まで、ここで真価を