かくれんぼ
じゃんけんでヒロが鬼に決まり、俺は廊下へ飛び出した。
かくれんぼなんて久しぶりだ。小4になってから、サッカーチームに入った。毎日休み時間も放課後もサッカーしかしていなかった。
どこに隠れようか悩んでいると、職員室の前に辿り着いた。さすがに職員室に隠れることはできない・・・と思った矢先、その隣の部屋が目に入った。
校長室だ。
俺はピンときて、周囲に誰もいないことを確認し、校長室のドアをゆっくりと開けた。
幸い校長は不在のようだ。部屋にはテレビがあり、ニュース番組が流れている。校長は仕事中にテレビが観られるのか・・・と感動していると、隣の職員室から校長と教頭の話し声が聞こえる。
うちの校長は生徒から評判がいい。堅苦しくなく、白髪混じりのおじさんだが俺たちのサッカーにも混ざってくるぐらいだ。朝会での校長の話も、子供心をくすぐる怖い話なんかが多くて楽しい。
そんな校長の声を聞きながら、俺は校長室のロッカーに入った。
校長のジャケットが掛けてあるロッカーで、ばあちゃんの家みたいな匂いがした。
もう3分経った頃だろう。ヒロはきっと校舎内を駆け回って俺たちを探している。
俺はロッカーの中で一人、得意げな気分に浸っていた。校長室に入るなんて勇気がいるし、誰も思いつかないだろう。このままずっと見つからないんじゃないか、そしたら騒ぎになるな・・・なんて考えてニヤニヤしていた。
その時、校長室のテレビから速報を告げるベルの音が鳴った。
「ここで速報です。Y市の小学3年生の男児が遺体で見つかりました。被害者の男児は先週金曜から姿が見えなくなっており、警察の捜索が行われていましたが、先ほどY市内の山中で遺体で見つかったとのことです」
Y市の山中・・・ここからそう遠くない場所だ。このところ、こういった事件が多くてうちの親も心配していた。「ひとりになっちゃダメよ」と、毎朝家を出るたびに言われてうんざりする。
校長室と職員室をつなぐドアが開く音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。校長だ。ニュースを確認して、フゥとため息をつく。
やけに軽いため息だった。
「まぁた見つかっちゃったか・・・あそこの山はダメだなやっぱり・・・」
俺は耳を疑った。と同時に、校長室の入り口のドアがノックされた。
「絶対いないって!校長室だよ?」
「うるせーな、聞いてみなきゃわかんねーだろ」
「ほんとに入るの?」
「聞くだけ聞いてみようぜ」
ヒロ達の声だ。校長がドアを開けた。
「あ、校長こんにちは! すみません、イッチー来てませんか?」
「あぁ、こんにちは。イッチー? あぁ、サッカーの。彼なら見てないよ」
「そうですか・・・実は校舎内でかくれんぼしてて。あいつだけ見つからないんですよ」
「そうかぁ。校内放送で呼んでみたらいいんじゃない?」
ヒロ達に笑いが起こり、一行は部屋を後にした。
俺だけがロッカーの中で笑えずに固まっている。
身動きひとつ取れない。
ヒロ達のいなくなった部屋で校長はつぶやく。
「この部屋にもし・・・だとすれば今の独り言・・・」
俺は身動きが取れない。
校長は部屋をうろうろ歩き回って、ガサゴソと探しものをしているようだ。
やがてロッカーの前で立ち止まり、ゆっくりと開けた。
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