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海月みたいだ [小説]

⿻ 海月みたいだ

𓈒𓂂𓂃◌𓈒𓐍𓈒𓂂𓇬◌

「かいげつ?」

海月と書いてくらげと読むらしいと新発見があったのはいつも通り隣に君がいた時だった
僕の乏しい脳みそは君といると
色んなことが知れるけど
当の本人のことはまだひと握りにも
満たない気がしている蒸し暑い日
「海にたゆたう姿が月に見えなくもないでしょう」
たゆたう とは。
きっと由来はそんなところでしょうね
と涼し気な顔で本のページをめくる
君といる時の紙と紙が擦れるこのかわいた音
僕は結構好きだった
「海に揺らめいてる姿が ね」
たゆたう に疑問を持った僕の顔があまりに
滑稽だったのだろう  きっちり僕にわかるように
説明してくれるところもさすがだ
「なんだか君みたい」
白い肌も細くて長い髪も少しなぞめいた
艶美な雰囲気も
「…そうかもね」
あの哀愁混じりの君の横顔
視線の先は本に伏せたようで心做しか何処か違う
遠い場所にあったように感じて違和感を覚えた

𓈒𓂂𓂃◌𓈒𓐍𓈒𓂂𓇬◌

午前3時
輪郭もはっきりしない僕の寝ぼけ眼には
スマホの明かりは強敵で。
つい2週間程前の出来事を夢に見ては
頬を乾かし目を覚ます日々

君の1番近くにいたはずの僕は
君の葬式に行かなかった

クラゲには脳が無いため神経、つまり感情も無く
ほとんどのものは死ぬととけて跡形もなく消える

何かのテレビで得た知識は僕には酷く冷たく
鮮明に聞こえた
気づいたらいなくなってたなんてこと
そう珍しいことではないらしい
あの時の違和感を あぁだからか と
君はもうあの時には決めていたのか
色んなことを知ってる君だからこの事も
既知の情報だったろう
不甲斐なさとかやるせなさとか
そんなのもう考えられなくて
だけど君のことだ
僕が海月を見かける度
君を思い出すこともお見通しだろう
おかげでこの先水族館なんて場所
行けたものでは無い
またあの端麗な顔立ちを少しだけ崩して
微笑むんだろうな
君は本当にいなくなってしまったのか

君は本当に

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