覆面短歌倶楽部 其の六~其の十(感想)

覆面短歌倶楽部(@fukumen_tanka)其の六から其の十までの好きな短歌と感想をまとめました。
覆面剥ぎも済んでいる分なので、作者さまも明記しています。敬称略で失礼いたします。

◆其の六

あ01
「曖昧」の漢字の中に愛があることを見つけたきみは優しい/渦


「曖昧」の中に愛があることは割りとみんな気づいてると思うんですけど、きみのことだから、それさえも優しいからだって思うんだ。

い03
依存するものが変はつてしまふからあなたは虹の色を増やした/朧


なるほど。虹の色はあなたが今まで依存してきたものの色だったのか。私の色もあったらいいのに。

い04
一寸の虫にも心ヒトよりも比率で言えば大きい心/浅葱ムスカリ


確かに。比率で言えば大きいだろう。簡単には殺生できなくなってしまう。

こ06
こころにもカバーをつけて汚れたら外して洗ってあげられたらな/さめない


切実にそうであって欲しかった。でも、こころは内側から汚れていきそうだ。

こ09
この夏を逃さないようポケットにしまおうとして空を切った手/波よこに


私が夏をポケットにしまうなら貝殻かな。夏空もしまいたいね。結句が好きです。

し02
渋沢に合わせる顔がないくらい街に蔓延るカード決済/音忘信


全くその通りです。

し06
触覚をくるくるさせる瞬間に思い出せそうすべての恋を/さめない


不思議だ。走馬灯みたいな感じ?

た01
だいじって言われたくって「だいじって言われたい」っていう顔をする/カラスノ


いじらしくて可愛い。そういう顔をしたい。

た07
たぶんこれ夢か何かだ微笑んでいる君、雷雨、ぬるいアクエリ/一色凜


雷雨とぬるいアクエリの結びつきがアンバランスで面白くて、だからこそ夢か何かなんだろう。微笑んでいる君も夢なのが、少し切ない。

ち01
父よりも老いた硬貨に触れているこっくりさんはおいくつですか/結川澄衣


こっくりさんの年齢を気にしたことがなくて、それを質問してしまうのも面白い。硬貨との結びつきも上手だと思う。

て02
天才と呼ばれておけばその奥のものは隠せる たとえば、心/浅葱ムスカリ


「天才」とかそういう記号って便利で残酷だ。

と02
透明になりたい君のやわらかな体が拒む白いブラウス/吹屋万由子


爽やかでいいです。

り01
両の手に残ったものがきみならばそんな仮定で爪を染めゆく/利田 文


難しいなあ。難しくて心惹かれました。他のかたの解釈を知りたいです。

れ01
礼儀にも二種類あって片方にジコボウエイとふりがなを振る/あるこじ


自己防衛のための礼儀というのは共感しました。

◆其の七

う01
動かない時計を合わすためだけに今何時?って尋ねるヨハネ/宇祖田都子


ヨハネが誰か知らなかった(教養がない)けどいいなと思った。「今何時?」って誰でも一度は尋ねたことがあると思う。ずれた時計じゃなくて、動かない時計を合わせるためなのが、とても気になった。

う03
奪ったり奪われたりをくり返し「かして」と「どうぞ」を覚えゆく子は/三浦なつ


玩具や遊具、小さい頃の物の貸し借りの始まりは、確かに奪い合いだったかもしれない。上の句だけ見ると少し不穏だけど、子どもの成長が見える優しい歌だと思う。

お01 
オーブンのそばに腰掛けぷつぷつと膨らむ愛を見届けている/眠


眠れなくて夜な夜なお菓子を作り始めたのかな。ぷつぷつと膨らむ愛、わかる気がする。ぷつぷつと気泡を作りながら膨らんで、でも気泡は最後割れちゃう、愛。

け03
現実を飛び出すちから日に焼けた看板のように薄らいでいた/はばとび


現実を飛び出してどこにいくのだろうか。日に焼けた看板にもピカピカだった頃がある。現実を飛び出して、ピカピカだった幼い頃、または若い頃に戻るちからが薄らいでゆく。

さ02
爽やかなのろけばなしを聞くときの心のうちに死なす蜉蝣/のつちえこ


とても共感した。のろけ話を聞くのは好きなほうだけど、たまにとてつもなく聞いてて死にたくなるときがあったりする(具体的には思い出せない)
蜉蝣ってどんな生物…? と検索したら幼虫が結構気持ち悪かったです(個人の感想です)
成虫は色素が薄くて綺麗で、弱々しくて短命らしい。爽やかなのろけ話だけで死んじゃうんだったら、かなりの確率で死なせてしまいそうだ。

し04
深海のもっと深くに沈めたいほどの恋だと気づいてますか/八重森さくら。


かなり好きなタイプの歌です。「深海のもっと深くに沈めたいほどの恋」ってどんなだ。単純に心のうちに秘めている恋心なのかと思いつつ、本当は隠す気なんてないようにも思われる。「気づいてますか」が第三者なのか、自分自身への問いかけなのか、と考えても面白い。

せ01
背表紙で一枚の絵になってると気付く眼科の待合室で/一色凜


表紙から裏表紙までが一枚の絵になっている本は珍しくないと思うけど、その気づきが淡々と語られていていいと思った。

そ01
(そしてまた許すと決めたわたしから口を開いてしまう)「死ぬなら、/君村類


好きです。初句がとても好きですね。背景がある感じがとても好きです。しかも、たぶん喧嘩か何かでしばらく口を利いていない状態で、最初の言葉が「死ぬなら、なのが突拍子なくて好きです。

た05
誰だかの忘れていった雨傘をひらいたような夕まぐれ来る/西鎮


忘れられて取り残された雨傘のさみしさを含んだような静かで綺麗な夕まぐれなのだと思う。薄紫みたいな色だといいな。

は04
花束をくださいせめて枯れてゆく姿の見える愛をください/桝枯井戸


枯れてゆく姿の見える愛はもらったその瞬間が一番美しいのだろうな。「せめて」がとても印象的なんですよね。愛が長続きしないことを受け入れているようで、永遠の愛を求めているような。

ほ02
仄青いビー玉越しに見た君の笑った顔が海に似ていた/れいとうビーム


七月って感じだ。笑顔はよく花に例えられるけど、海は珍しい気がする。でもたぶん、波打ち際の透き通ってたまに白波がたつ部分の海を言ってる。

も02
もうちょっと気楽にやれば良いのにと三歳下の上司が笑う/青瀬


真っ直ぐ帰ってお酒を飲みたくなるような歌だ。最近はハイボールが好きです。全部の言葉選びが上手だと思います。

よ01
余所行きの声で電話をしてるとき誰にも顔を見られたくない/街田青々


私は仕事の電話をしてるときの顔を家族に見られたくないです。

◆其の八

あ05
あの頃は空が無かった 君と生き君と別れたあの町に立つ/okuno


君と生きていたときは君ばかり見ていて、君と別れたときは地面ばかり見ていて、空を見ることがなかったのかなと思った。今は空を見ることができるようになって、あの町に立っている。

い02
いつかまた帰ってくるかもしれんから胸の隙間は隙間にしとく/佐々岡矩実


方言いいですね。胸の隙間は切なかったり重くなりがちだけど、からっとしていて素敵。

う04
海に雨 だまっていてもかなしみはかなしみのままわたしをかばう/白野


海はもともと水なので雨が降ってもわからない。雨もないものみたいに受け入れる海は、かなしみも誤魔化したりせずに飲み込んでくれそうだ。

き03
ぎちぎちに紙ナプキンが詰まってて最初に取り出すときに破れる/あるこじ


心は表面張力のほうが例えやすいと思う。少しずつ溜まっていって耐えきれなくなって、たった一滴が決定打になって溢れる。
だから、ぎちぎちのところから抜いていく発想は新鮮だったし、そこで最初に破けちゃうのもなるほどと思った。
ただ単に、紙ナプキンを詠んだだけならそれもいいと思う。

こ01
高校の卒アルでただ穏やかに微笑んでいる旧姓の君/七五三掛七五三


いいな。好きです。旧姓の君…

し05
十年も経てば忘れるはずなのにあの歌をまだ唄うのですか/畑 依裕


未練系好きなんです…

し07
昇華という言葉が好きだ叶わない願いばかりを短冊に書く/楢原もか


願いというか祈りって感じだ。叶わない願いなんだけれど、カラフルな短冊から前向きさも感じられる。

し10
真剣に変なこと言う友達の真剣なとこ以外も好きだ/街田青々


こういうの大好きだ!! 叫びたい!!
「真剣に変なこと言う友達」ってその紹介だけで魅力的なのだけど、そういうわかりやすい魅力だけじゃなくてそれ以外も好きだってストレートな言いきりが強い。友達なのもいい。

ち01
帳尻を合わせるようにずっと雨 ずぶ濡れた鳥を探して歩く/和三盆


それまでずっと晴れてたのかな。

へ02
ベランダでビール片手に見下ろした街はやさしい夕焼けいろだ/塩本。2381


等身大で素敵だ。

◆其の九

あ02
あじさいの花の白さが濃くなってそうか勇気はそういうことか/小倉るい

白いあじさい好き。白さって強さだと思うんですけど、他の色とは混ざりやすいと思っていて、「白さが濃くなる=勇気」なのはよくわかる気がした。

あ04 
新しいレシピを試みる度に頭に浮かぶ人がいること/赤井枝乃


レシピを教えてあげたい人や、料理を食べてくれる人。頭に浮かぶ人が誰なのか読み手に委ねられていていいと思う。
私は母の顔が浮かぶ。今まで私に料理を教えてくれた人であり、最近は私が他の人から教わったレシピを母に教えてあげたりもする。
食べることは生きることなので、そのときに頭に浮かぶ人がいることは幸せだ。

い02
いちねんが四つの季節のおわりってことを忘れてみたくなる 肌/うえだ

むしろ、一年が四季の終わりって考えたことがなかったので、面白かった。四季は巡るから繋がっている印象だったので。
ただ、春夏秋冬の単体としては「あー、もう夏が終わっちゃう」とかよく言うから、一年が四季の終わりっていうのも正しいんだよね。
最後の〈肌〉がとても印象的で、やっぱり一年の最後の季節といったら冬だから、乾燥してるのかな、とか。〈おわりってことを忘れてみたくなる 肌〉だから、丁寧に保湿されていて滑らかな肌なのかな、とか。

い03
一線を越えてしまった翌朝に飲むコーヒーが刺すほど苦い/まさけ


後悔がよくあらわれている。なかったことにしてしまいたいのに、コーヒーは刺すほど苦くて、その痛覚が、一線を越えてしまったことを消し去れない事実としてそこに残している感じがする。

い04
いつだってきみは弱者であるために人がいる時にしか泣かない/あるこじ

本当はきみは弱者ではない。自分の涙に価値があるとわかっていて、したたかな人だと思う。
主体はそれをわかった上できみのそばにいるのかもしれないし、きみを揶揄しているようにも読める。

か03
川べりに水のゆらぎが反射してぼくの歩幅とともに進んだ/花瀬果林


目に映るものを素直に歌にした感じ。その中でも、散歩中なのか、通学通勤途中なのか、ひとりなのか、誰かと一緒なのか、背景を考えるのも楽しい。

く01
区切られた人生だけを共にしてサブスクリプションめいた関係/河岸景都

〈区切られた人生〉って、〈サブスクリプションめいた関係〉って、なんだ〜〜。
サブスクって一定期間利用できるサービスなので、区切られた人生って言い得て妙ですね。
ドライですね。こういう歌も好き。いっすね。

く03
くり抜いた部分全部がきみなのに残り全部もきみかもしれない/街田青々

結局全部きみなんですね。たぶん、確実に残り全部もきみなんだと思うんですけど、〈かもしれない〉って言っちゃうところが可愛い。

さ01
五月雨は優しく降るな良い人を嫌うみたいにつらくなるから/枡枯井戸

上の句の例えが秀逸です。

て01
できるだけきつく束ねて、そうすれば蝶が少しはしゃんとするから/観月サナ


蝶々結びかな。ゆるいとすぐ解けちゃうし、形も整わないもんね。
〈蝶が少しはしゃんとする〉という表現が面白い。

ひ01
昼と夜 全部同じで境目にどのミシン目を選ぶのかだけ/波よこに

最初はミシン目の形(波線とか)に色んな種類があるのかと思ったけど、どの部分で切り取るか、という意味か。昼夜の比率を自分で選ぶ、だから〈全部同じ〉なのか。めっちゃ面白い。

ま02
また床に見知らぬネジが落ちていて僕はもうすぐバラバラになる/T・G・ヤンデルセン

なんとなくわかる気がする。少しずつ失くなったかどうかわからないものから抜け落ちていって、そのうちバラバラになっちゃうんじゃないかっていう不安みたいな。

◆其の十

テーマ詠【色】

す02
スキャンでは出ない色味もあるわけだ わたしはわたしあなたはあなた/波よこに

スキャンすると微妙に色変わっちゃうのわかる…!

す03
すくえない心のような色だった選べない色水はとうめい/ゆや ゆき

〈すくえない〉は救えないでも、掬えないでもあるのだと思う。どっちも、選べなくて、とうめいで、というのが合っていると思った。

た01
大切にされたい日には文鳥のくちばし色の口紅を塗る/森都めめ


主体は、文鳥を大切にしているし、主体が大切にされたいその人も文鳥を大切にしてくれる人なんだろうね。素敵。
文鳥のくちばしの色もうす桃色のグラデーションで可愛かった。

ひ01
向日葵が極彩色だ 少年よ いつか描けなくなる色がある/音忘信

下の句が意味深。極彩色は濃くて派手でけばけばしい色どり。少年だからこそ躊躇いなく使える色なのかもしれない。

ゆ01
夕焼けは青いと言ったきみが今見つめる空の色を知りたい/早月くら


こういう「君にはどう見えてる?」みたいな歌に弱い。上の句の青い夕焼けもインパクトがあって好き。

自由詠

お02
音のない優しい雨を手に受ける 君の声なら聞き分けられた/詩季

上の句と下の句の取り合わせが素敵。

き03
緊張の糸を三つ編みしてゐたら精神的にパーマになった/朧


発想がすごい! 緊張の糸の三つ編みも、精神的にパーマも、面白すぎる。
緊張を紛らわせたくて手先を動かしたい、でも、緊張でぐるぐるして絡まって、パーマになっちゃった、みたいな、すごく想像できて面白かった。

せ01
線香の煙は上へ向かってるみんな地獄は嫌いだものね/結川澄衣

極楽は上、地獄は下にある世界線。少し皮肉っぽくて面白い。線香の煙が下に落ちていくのは想像したことないけど、少し見てみたいかも。まず、地獄に行く人は線香もあげてもらえなさそうだけど。

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