覆面短歌倶楽部 其の十六〜二十(感想)

◆其の十六

お03
お花見の人に混じって見上げれば私も人に見えるだろうか/真島朱火

け01
「芸術家になったらいいよ」と静かなる声で君はまたわたしを許す/木村ハル

君は恋人なのかなぁ。最初は親かと思ったけど、親を君とは言わないかな、と。今まで何度も許されてきたのかな。
静かな声で言われる〈いいよ〉は少し怖い。

つ01
次はいつ会えるだろうか旧友を見送る駅はまだ凪いでいる/西鎮

初読で、西鎮さんがうたの日に出詠されていた歌が思い出されて(西鎮さんじゃん……、好きだ……)と思いながら、でも違う方の歌かも、分からん……となっていたら、ちゃんと西鎮さんでした。どっちも好き。
ちなみに、うたの日の歌は下記のとおり。

今度いつあへるか、なんて尽きかけた卯月のかかとを踏むやうに言ふ/西鎮

2022/4/28うたの日「卯月」

ひ02
人には人の乳酸菌 私にも優しい夜が確かにあって/木村ハル

ひ03
ひとひらの手は投げ出され圏外へ 北北東のはるかなる足/邵コ繧画抄邵コ荳岩命

〈ひとひらの手〉〈ひとひらの手〉ってなんだ。「ひとひら」と検索したら「一片/一枚」と出てきたので、片手? ベッドにバーンと身を投げて、仰向けに大の字に寝転んだところをイメージした。

わ01
我々がかかと落としを想うときだいたい脳裏にあるのは素足/他人の見た夢の話

確かに〜。かかと落としを短歌にしようってのがまず面白いんだけど、何か印象的なかかと落としエピソードがあったのかなと想像すると、もっと味わいがある。

◆其の十七

あ03
iPhoneのおすすめに出てくる君の今より少し幼いひたい/しすい

iPhoneってそんなおすすめ機能があるんですか?(Androidユーザー←)
かわいい歌だなと。今の君は主体にとってとても身近な存在で、だけど少し幼い君のことは知らない。出会う前の君のひたいに、当時の君を知っている人への微かな嫉妬心みたいなものを感じた。

あ04
足並みを揃えてかわいくなれないね わたしはきみから奪ってばかりで/邵コ繧画抄邵コ荳岩命

〈足並みを揃えてかわいく〉なるってなんだろうって、ちょっと難しかった。
結句は「奪ってばかり」で綺麗な定形にできるけど、〈奪ってばかりで〉にすることで余韻があるし、揃わない感じも上句と合っていると思った。

う01
失えばイメージになる きみはいまアンダルシアのひまわりのなか/長井めも

アンダルシアのひまわりって有名なんだなぁ。
どこまでも続くひまわりを見ていると「実体」というよりも「イメージ」という感じがした。
三句から結句まで平仮名にひらかれているのが、いままさにイメージになっていく最中のように感じられる。

お01
おいそれと貰い受けては戸惑って箱にしまった人生がある/もくめ

す02
住む人の居ない家には蔦が這う心もいつか覆われそうで/河岸景都

て01
てか最後なんて言ったの? 芝刈った直後の匂い好きだったりする/他人が見た夢の話

すごく好きな歌。草刈り(芝刈り)のムッとする青臭い匂いが好きだ。
芝刈った〈直後〉なんだな。「芝刈ったあとの匂いが好きだったりする」でも意味は通るし、自分ならそうしそうだけど、〈直後〉なのがいいなぁと思った。
最後の聞き取れなかった言葉の余韻と、芝刈りのあとの匂いの余韻は似ていると思う。

と01
同期って子犬みたいに近づいてきて笑うからずるいねほんと/あーばんぶるーす

二句の〈子犬みたいに〜〉から結句までずっと愛おしくていいなと思う。
〈同期〉は「恋人」や「後輩」など他でも替えがきくし、〈同期〉よりも「恋人」や「後輩」のほうが子犬感は合う気がするんだけど、あえて〈同期〉なのがいいなと思う。
同期ってやっぱりどこが自分と比べてしまうところがあって、負の感情を抱くこともある。
そんな同期の子犬みたいな人懐っこさに、主体は劣等感や羨ましさがあるけど、愛おしくも思っている。
「恋人」や「後輩」を安易に持ってくるんじゃなく〈同期〉としたことに、実景だったりするのかなとも思った。

ま02
またひとつ失くして生きる両親が悲しまぬよう上手く笑った/のぶつばき

両親が失くしたものはなんだろう。最初は父母どちらかに先立たれて……みたいな感じかと思ったけど、それなら両親とは言わないかな。
結句が切なくて、でも好き。

ま03
間違いはもう起こらないはずだった明滅をする君のいた街/塩本抄

や01
約束は君が覚えていればいい僕は涙を忘れないから/新出既出20

好きだな。こういう歌、好きなんだなぁーー

◆其の十八

こ01
胡麻だれとポン酢を混ぜるきょうだいと反りの合わない日が続いても/梅鶏

し01
知っているようで知らないジャケットのこんなところにポケットがある/真島朱火

は03
速く飛ぶために翼はたたまれる 同じだよ あなたは目を閉じる/早月くら

◆其の十九

さ01
三時間電車に乗って帰りつく地元の町のやや白昼夢/早月くら

な03
夏服は光のような青色であいつもきっと誰かの空だ/梅鶏

ゆ01
雪の日の雲に埋もれた陽の色をせいろの中で思い出す日々/邵コ繧画抄邵コ荳岩命

ら02
欄干を思い思いに鳴らしつつ夕陽に染まりつつ渡る橋/早月くら

ろ01
論破なんかするもんじゃないどこまでも追尾してくるタイプの月だ/他人が見た夢の話

◆其の二十

き03
逆マリー・アントワネットがやってきて私の全てをパンにしていく/鳥さんの瞼

け01
鶏頭の赤は今でもあざやかに どっちの家の子になりたいの/ナカムラロボ

し01
じいちゃんの老眼鏡をかけてみる じいちゃん世界は今日もきれいだ/オクノ

し03
自転車のペダルを逆回転させて取り戻したくなる流れ星/梅鶏

と01
時すでに回らないお寿司 ギャル曽根がギャルだった頃を思い出せない/他人が見た夢の話

な01
泣くところ見せないくせにぽろぽろと君から月のかけらは剥がれ/一色凛夏

に01
二百年車の来ない道をゆく通行止めは解除されてる/畑 依裕

ふ01
フライパンでダブルソフトを焼く朝をコピペしている目が覚めるまで/鈴木ベルキ

ふ02
ふれたいと思う あわいに横たわる距離が光年ならひかるだけ/早月くら

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