覆面短歌倶楽部 其の十一〜十五(感想)

覆面短歌倶楽部(@fukumen_tanka)其の十一〜十五の好きな短歌と感想をまとめました。
覆面剥ぎが済んでいる分は、作者さまも明記しています。敬称略で失礼いたします。

◆其の十一

い01
生きるとは痛みをあえて選ぶこと いつかのために抜く親知らず/早月くら

痛みを選ばずに生きていきたいよ。親知らずを抜くことは、現時点では味わう必要のなかった痛みを選ぶことになるけど、いつか痛い思いをするのを避けるためであって……、好きです。

い04
いつまでも名前の由来を聞きそびれ今日もあなたと角ハイボール/畑 依裕

名前の由来ってそこまで聞きづらいものじゃないと思うんですけど、あえて聞きそびれてる? 名前の由来を知らない間は、あなたとだらだら角ハイボールを飲んでいられる。

い07
今どきの信号は点が集まってひとつのひかりを作り出すから/長井めも

LEDの信号を〈今どきの信号〉というのが面白い。点が集まって一つの光を作り出しているのは、それはそう。だから何って言わないのが好き。

か02
川沿いをゆく自転車のふくらんだシャツは夜風の容器となって/早月くら

自転車でシャツが膨らむ歌はたくさんあるけど、夜風の容器っていうのがいいと思いました。

き02
きみのもつ浸透圧はきみのもの なにを干からびさせてもいいよ/枡枯井戸

物理化学わからないので浸透圧の意味調べました。濃度の異なる液体が半透膜を介して隣り合ったときに、濃度を一定に保とうとして水分が移動すること、だそうで。
〈きみのもつ浸透圧〉なので、きみの中にある濃度の異なる液体、ここでは感情とか、きみが大切にしているものなのかと思う。
〈なにを干からびさせてもいいよ〉という下の句はきみに自由を委ねているようにも読めるけど、上の句では浸透圧の話をしてるので濃度を一定に保とうとした上で干からびるのだとしたら、きみの自由にはならない気がした。
解釈が難しかったけど、好きな歌です。

く01
口当たりいいものばっか欲しがって何が悪いのとか思うわけ/街田青々


何も悪くない! そのままでいてほしい。

こ05
壊れずに生きる浮世の風車 咲けクレマチス胸を開いて/grp

クレマチスの花言葉は、精神の美。カザグルマという品種もあるんですね、勉強になります。
上向きで大きく開いた花は、〈胸を開いて〉という表現にも納得しました。強かさがあって好きです。

さ02
先取りをすれば季節は加速してファッションだってバレてんのかな/海月莉緒

ファッションの先取り。私はあまり先取りしないのでよくわからないんですけど、上の句が好きでした。

し03
締め切りはみんなの敵だ締め切りが得意だなんて そんなわけない/のぶつばき

めちゃくちゃ笑ってしまった。めちゃくちゃ好き。〈そんなわけない〉がめちゃくちゃいい。

し05
常温の水で潤う喉だから棘を持たない言葉が育つ/楢原もか


確かに、常温の水を飲む人の言葉は棘がなさそうだし、むしろ輪郭もない透明な言葉でありそう。

た01
大丈夫。それ専用の感情を用意していたから平気です。/もんそん

大丈夫でも平気でもないけど、そうして乗り切るしかないし、主体はそうやって乗り切ってきた。

た03
代用品ばっかりでやる卓球があんな撮れ高満載なんて/糸間ケント

いいですね。その卓球、参加したい。
球はスーパーボールで、ラケットはノートとか。
そういうちゃんとしてないのが、めちゃくちゃで一番楽しかったりする。

て01
#丁寧にできない暮らし 折りたたみベッドを折りたたまない日々/ワトゾウ

私のことですか? というくらい私なのですが。
折りたたみベッドを折りたたまずに暮らしています。引っ越しのときだけ、たたんだ。

な04
何もかも壊そうとして壊すことさえもできない自分に気付く/あるこじ

できない、ということが主体にとって呪いになってるんだな。できないことばっかりで上手くいかないことばかり、そんな日々を壊すこともできない無力さ。背中をさすってあげたい。

ぬ01
ぬるくなった牛乳を吐き出されるシンクも僕も海につながる/西鎮

ぬるくなった牛乳って美味しくないよね。私は冷たい牛乳しか飲めません。

は02
箱ティッシュの最後をいつも引かされる気がする今日もティッシュを替える/真島朱火


日常感がいい。主体のもやもやには悪いと思いつつもクスッと笑ってしまう。
主体は〈気がする〉と思うだけで、黙って素直に箱ティッシュを替えるところが愛しい。

ほ02
本当に爆破されればいいのにな僕の正義が証明される/波よこに


不穏なんですけど、主体は自分の正義の主張はしていないのではないかと思う。心の中で思っているだけ。

ま02
またおなじ話してるよ「そうだった?」変わらない部分も好きですよ/はすおみ


愛すべき耳タコ。好きなものの話とかって何回でも語りたくなるもの。好きな人の好きな話は何回でも聞きたい。
耳タコに関しては、愚痴やらもあると思うんですけど、ここでは楽しい話の気がしました。

ま03
またねともさようならとも言わないでそれでは!と手をかかげて遠く/的野町子

「それでは!」と手をかかげて颯爽と去りゆく人の姿が目に浮かびました。
主体は見送る側だと思うのですけど、去っていく人に憧れの念を持っていそう。まだその人の背中は遠くにあるような。

や03
やわらかなことばで話す ゆびさきで砂をなぞったような結界/桐島あお

サンドアートを思い浮かべた。砂をなぞる繊細なゆびさきは美しい。
個人的には、サンドアートの最中はあまり言葉を発さない静かなイメージがあるんですけど、それに言葉をあてるとしたらやわらかいだろうと思わせる。

◆其の十二

せ01
生活のレベルを下げるヤクルトをピルクルにするデートはやめる/枡枯井戸


他のお金を使いたいものがあるなら、ヤクルトをピルクルにしても構わないと思う。私の職場にはミュージカルに通うために昼食をお米とふりかけだけでしのいでいる人もいるけど、彼は自分の生活のレベルが下がっているとは思っていないだろう。
自分自身で生活のレベルが下がっていると感じてしまうのなら、そんなデートはやめるべきなのかもしれない。でも、主体は本当にはやめる気がなさそうな、自虐っぽさを感じる。

て01
低気圧「撫でて」一言言う君はまるで手負いの厳かな虎/鶴見

下の句がすごく好きです。〈手負いの厳かな虎〉比喩が格好良すぎる…
「撫でて」と甘えても、気高さをなくさない君が比喩に表れている。
個人的には、初句は〈低気圧〉以外の要素でもいいんじゃないかなと思ったけど、低気圧による不調で何もやる気の起きない気だるさが、ネコ科の虎と合っているとも思った(低気圧=気だるい=わがまま=ネコ科≒虎、と連想してしまったのは私の偏見がある気がするので、気分を害されたらごめんなさい)

と01
独特な模様のタクシーだったけどちゃんとロービームにしてくれた/丁香花 古


ライトをロービームにしてくれたり、道を譲ってくれたり、会釈があったりするだけで、見知らぬ運転手を好きになってしまう。
独特な模様のタクシーへ主体が抱いた少しマイナスな印象とマナーのギャップが面白い。
ちなみに私は、いつもハイビームを「ハイライト」と言い間違えて、友達に笑われます。

は01
歯車が合わなくなったオルゴール「I love you」をただループする/秋吉諄


伝えたいこととオルゴールというモチーフがとても合っていると思った。「I love you」を歌う歌は世の中にたくさんあるけれど、ここではどんな歌だろうか。
ループする「I love you」もスムーズには奏でられずに、途切れ途切れの「I love you」なんじゃないかな。

ま02
まぶしいかそうだろうもうあなたにはまぶたもないし手のひらもない/畑 依裕


この歌では、まぶたも手のひらも、光を遮るものとして捉えられている。物理的な意味だととても不穏なので比喩だろうけど、だとしても穏やかではない。
強制的に光を当てられているのに、平仮名に開かれているからか暴力的ではなくて、とても静かで凪いでいて、美しい歌だと思う。

◆其の十三

あ06
後ですると決めてたことが山盛りになって潰れてしまった未来/アオ


分かりすぎて痛すぎる。戒め短歌。

い04
いつまでも形は見えない(愛なんて)目を瞑っても(すごく眩しい)/令東


(愛なんて)(すごく眩しい)がとてもいい。〈なんて〉がとてもいい。
愛はすごく眩しいから、愛がはなっている光で輪郭がぼやけて、いつまでも形が見えないのかなと思った。

か03
からあげが冷やし中かにしずんでくぼくは初めてうちゅうを知った/波よこに

〈冷・中・初・知〉はすべて小学4年生までに習う漢字。〈宇宙〉は小学6年生で習うから、主体は小学4年生か5年生だろう。
誰かとごはんを食べていて、からあげをもらったのかな。取り皿がなくて、冷やし中華の上に乗せたら少しずつ沈んでいってしまう。その様子を静かに眺めていて、宇宙を発想するのが「いかにも」という感じで面白い。
冷やし中華と宇宙の「ちゅう」の音も面白い。
冷やし中華という果てのある宇宙にからあげという惑星が沈んでいく。

け02
月食を スマホで撮る人 見る度に 加速していく 僕の自転車/なないろ


この前、月食でしたね。私は見逃しました。
普段は月なんか見向きもしないくせに、月食とか珍しいときばっかり、はしゃいでスマホを向ける人たち。
主体は毎夜、自転車を漕ぎながら月を眺めているのかもしれない。

し03
白っぽい犬を頭の中にある庭で走らせている雪の日/梅鶏


雪やこんこ。まっさらな雪が積もったら、白っぽい犬を駆け回らせたい。
白い犬じゃなくて、〈白っぽい犬〉なのが、ふわっとしてて、雪のイメージとも合う。

そ02
それはもう君が持ってて私には必要のない原石だから/一色凛夏


なんでかわかんないけど、もののけ姫でアシタカがカヤからもらった小刀をサンあげちゃったのを思い出した。
必要ないわけじゃないけど、お守りとして託したい…みたいな…。ちょっと違うかもだけど。

と03
ドライヤーのコードをていねいにほどく 日々の余裕を確かめながら/早月くら


いいな。生活感があって。
私はドライヤーのコードが絡まって結ばってても、頭に届いたらそのまま使います(危ないからマネしないでね)

◆其の十四

こ04
「この花は」「この鼻歌は」何なのかをGoogleは直ぐ教えてくれる/梅鶏

Googleが教えてくれた「ユキヤナギ」

す01
少しずつzoomを通じ君を知る次はマスクをして話したい/金森人浩

次はマスクをして、直接会って話したい。会いたい。

た01
正しいと思わないけど正しいと思わせるため正しいと言う/金森人浩

文章としてはくどいんだけど、こういう言葉を重ねる表現が私は好きなんだなってわかった。

な03
なぜもっと信じてやれなかったのか明るく話すあいつの嘘を/鈴木ベルキ

嘘だとわかっていて聞く明るい嘘は虚しく見えると思う。主体は信じてやれなかったことを後悔している。あいつの明るい嘘の裏にはどんな本当が隠されていたんだろう。

わ02
「わかりみが深い」と言われ分かられてしまった自分が不甲斐なかった/他人が見た夢の話

「わかりみが深い」までは言わないけれど、私も「わかる」はよく使う言葉だ。
私は『分かられたいタイプ』なので主体とは異なるのだけど、「不甲斐ない」とまで言ってしまうんだなぁって、新しい感性と出会った気持ちで印象的だった。

◆其の十五

あ01
仰ぎみる 高層ビルに住むひとはこわくないのかなあ、おちるの/早月くら

い01
生きてゆく時間の違う友あてにただ一枚の葉書を送る/塩本抄

〈生きてゆく時間の違う〉の意味を図りかねてる。
私にはもう結婚して子供のいる同級生や結婚を控えてる友達がいて、そういう子たちとは時間の流れが違うと思うことがある。
はたまた、時差のある海外に住む友なのか、とか。
〈ただ一枚の葉書〉にびっしり文章がしたためてあるのか、ポストカードのようなものなのか、想像が膨らむ。
ポストカードで想定するなら、海外の友達のほうが合うのかな。

い02
痛くてもちゃんと分かるぞ出る杭を打った貴方の弱い心が/のぶつばき

え01
エレベーターホールに満ちたしずけさを撫ぜる手つきでボタンを押した/早月くら

か01
瘡蓋になりかけている体液の結晶めいた欠片の脆さ/西鎮

か04
〈空上げ〉と古書に見つけた 鶏は昔お空を飛べたのだろか/ヒプノ寿司マイク

き02
君はいま覆面短歌倶楽部其の十五を読んでいるんだろうな/袴田侑李

うん。

す01
ずいぶんと冷たい水の出る土地の君の歩いた通学路、凪ぐ/鈴木ベルキ

恋人を家族に会わせるために一緒に地元へ帰ったとき、異郷の恋人と自分のかつての通学路を一緒に歩いて、不思議だけどとても幸せな気持ちだった、という友達の話を思い出した。
〈ずいぶんと冷たい水の出る〉君の故郷は、主体より北の土地か山間部なのか、どちらにしても水と空気が綺麗なところなのではないだろうか。

た02
食べたから体重増えた食べたから命の重さぶんだけ増えた/のぶつばき


初句二句までは面白短歌かなと思ったけど、下の句で〈命の重さ〉が出てきてぐっと深くなる。
リフレインも好き。

ち02
茶畑に行く農道ですれ違うトラック、トラック、E.YAZAWAのワゴン/まさけ

ち03
チョコプラをあまりにテレビで見かけるからちょっと嫌いになっちゃった だの/他人が見た夢の話

わかる。私の場合、チョコプラではないけど、好きだった俳優さんとか、駆け出しの頃はすごく好きで応援してたのに、テレビでしょっちゅう見かけるようになると熱が冷めちゃったりとか。あの現象は何なのだろうか。
この歌は主体が自分の気持ちを歌っているものと読んだ。最後の〈だの〉が自嘲っぽくて良い。

つ01
つげ櫛にとまる小蝿の青々と輝く眼我を恐れじ/袴田侑李

かっこいい。こういう歌を詠めるようになりたい。

ま02
まずしいとまぶしいは似て生命はよごれればよごれただけひかる/ほのふわり

も01
持ち寄った嘘を固めて積み上げたぜんぜん理想じゃない理想郷/ほのふわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?