覆面短歌倶楽部 其の壱~其の伍(感想)

はじめに

今まで、覆面短歌倶楽部(@fukumen_tanka)の好きな短歌をTwitterで引いたり、感想を呟いたりしていたものをまとめてみました。
覆面剥ぎも済んでいる分なので、作者さまも明記しています。敬称略で失礼いたします。

◆其の壱

い03
色々も混ぜれば黒になるんだと火曜5限で学んだはずが/okuno


美術の授業かな? 「学んだはずが」どうしたのか、想像力を掻き立てられる。ぐちゃぐちゃに混ぜたのに虹色になっちゃった! のなら可愛い。「黒」が入っているとダークな方向にも捉えることができる。

か01
カーテンのレールに掛かる洗濯の乾く速度で愛を育む/梅鶏


カーテンレールに洗濯物干すのは一人暮らしあるある。これ、めちゃくちゃ生活じゃないですか、そういう中で愛を育みたい。雨の日の部屋干しだと思う。雨の優しい雰囲気も素敵だし、気をつけないとじめっとしてしまうのも愛って感じで好きです。

か11
簡単に失うことに慣れてもうピアスホールが塞がっている/真島朱火


ピアスホールが塞がるってよく聞くけど、そんな簡単に塞がってしまうものなんですか?(純粋な疑問)お気に入りのピアスを失くして塞がったピアスホールみたいに、誰かと別れて空いた心の穴も割とすぐ塞がるのかな。塞がってないんだろうなあ。

き01
キスミントすっと頭を突き抜けて忘れられないものなどないよ/街田青々


「キスミントすっと」の響きが気持ちよくて、上の句の流れが綺麗。下の句もとても好きです。「何もかもいつかは忘れるよ」じゃなくて、「忘れられないものなどないよ」という言い方に優しさがあると思う。

こ09
「この先は光が消えてしまうけど涙がなにか役に立つはず」/はすおみ


こんなの、お守りじゃないですか。涙がお守りってなんだかすごくかっこいい。つらいときは思いきり泣くとすっきりするし、涙は気持ちの整理をするには役に立つものだと思う。泣くのは我慢するのが一番駄目。不完全燃焼だよ。

し04
しっかりと返事は貰っておくべきだ恋めいている夢から醒めて/滝藤青瀬


友達以上恋人未満のぬるま湯でちゃぷちゃぷしてる人には刺さる歌だと思う。刺さりました。好きです。

す02
すこしだけ苦味を持ったチョコのよう君に釣り合う人だね彼は/ごまだれぽんず


皮肉というか、言い方に少しトゲがある気がする。けど、甘いだけじゃなくて、深みのある人ということなのかもしれない。

せ05
絶妙なアンバランスで奪ってよ こころ こころはここにあります/街田青々


下の句がめちゃめちゃ好きです。「こ」の連呼が可愛いくて心地いい。上の句も青春の無敵感があって眩しい。

た07
誰にでも帰るところがあるんでしょ?私は二十五頁がいい/もくめ


主体にとって帰るところは場所ではなくて、本の中。空間ではなくて、心の拠り所なんだと思う。感情を入れずに淡々と言っているのがいい。自分のお気に入りの本の二十五頁を読み返したくなる。

◆其の弐

あ04
逢えずとも心は触れる 年賀状のやわらかい文字をなぞる元旦/あかべこかなは


お正月らしい歌でいいですね。なかなか人と会えない時世ですし、手書きの年賀状はやっぱり嬉しい。

あ07
アクリルのひとみですべて見透かして俺を誰より知っていく笑み/のぶつばき

アクリルのひとみってなんだろう。アクリル板? アクリル絵の具? どちらでもすべてを見透かすような綺麗なひとみなんだと思う。私なら一人称を「僕」にしてしまうと思うんですけど「俺」なのがいいです。

あ08
鮮やかなあくびをこぼす朝顔はつむる瞼にぬくもりを抱く/魚返みりん


笑顔を花に例えることはよくあるけど、朝顔は目をつむってあくびしてる感じが確かにわかる。素敵です。

え01
エレベーター乗らない振りをする人は多分座席も上手に譲る/あるこじ


所見で、エレベーターに乗らないふりをする(のが上手な)人はたぶん座席も上手に譲るだろうと思いました。でも、よく考えるとどうだろう。
私もエレベーターを先に待っている人がいたり、先に乗ってる人がいると乗らないふりしてしまうときがあります。それは知らない人と密室で過ごす気まずさを避けたいからです。
そういう人がバスや電車で座席をスマートに譲れるのかは少し疑問です。私自身、上手に譲れないんだもの。
これが、相手を気遣ってエレベーターに乗らないふりをする人ならば、気遣いの人だから座席を上手に譲るのも納得できて、たぶんこの短歌はそういう人の歌なんですね。すごく憧れます。

お01
音を立て賽銭箱に投げ入れたコインに託すささやかな夢/春ひより


お正月らしい歌でいいですね(二回目)下の句が好きです。ただ、なぜ「コイン」にしたのだろうとささやかな疑問が。お賽銭と来れば、単純に「小銭」を結びつけてしまいます。

こ12
ころがってきたものをひろうすいませんこれはあなたのぷらいどですか/CHONO

ひらがながとてもいいです。下の句が好きです。ぷらいどがころがってきたんかな。場所はどこなんだろう、私はなんでだか電車の中をイメージしました。

さ05
三回も僕を殺してみた紙を保険の人が渡してくれた/金森人浩


とても好きです!! 面白い。そうなんですよね、穏やかな顔した保険屋さんに何回も殺されたり、怪我や病気にさせられたり。下の句「渡してくれた」がいいなと思いました。

し06
正面で見ると可愛くないきみの犬も前から撫でる やさしく/長井めも


正面から見ると可愛くない犬って、そんな犬いる?? そんな犬もちゃんと顔を見て、前から撫でるところに愛があるなって思いました。犬への愛もあるけど、きみに対しての割合の方が多そう。

す02
スネ夫ならドラえもんなどいなくてもジェットパックで空を飛びそう/5.74ft


ドラえもん短歌。これはわかる以外の何者でもないです。スネ夫が前髪をなびかせてジェットパックで飛んでるところを想像したらめちゃくちゃ面白い。

せ03
せかいいちやさしいしおりになりました渡しそこねた絆創膏は/狐塚綾音


好きです。渡しそこねた絆創膏に色々と詰まってますよね、主体の気持ち。これは間違いなくせかいいちやさしい。

せ04
[設定]で左記のチェックを外します。
□私は価値のない人間だ/もくめ


システムがバグったときの対処方法のマニュアルみたいな、事務的な感じが好きです。自己否定的な言葉のチェックを外す前向きな感じと、今まではそれにチェックがついてたんだな…、っていう。

そ04
その髪へ指をふれれば右脳、いや、情動へきみが流れ込んでく/西鎮


「○○、いや、△△」みたいな言い直す系(?)その瞬間を表現しようとしているリアルタイム感(?)に惹かれます。右脳も直感的ですが、「情動」とは一時的で急激な感情の動き、ですって。情動に流れ込むんだ、すごい。

た03
太陽はぼくらの今日が最後だと知っててわざとはやく沈んだ/陽辻 寿


お別れの日でしょうか。主体はもう少し一緒にいたかったのかな。そんなときほど時間ははやく過ぎますね。それを日没で表現しているのが好きです。今までは日が沈んだあとも一緒にいられたのかな。

ね01
眠れない夜を何度も励ましてくれた動画が削除されてる/真島朱火


動画サイトやSNSは永遠ではなくて、いつでも削除される可能性がある、細い線一本で繋がってる不安定さというか。でも確かにそれに支えられていたっていう。ぽっかり穴の空くような寂しさがある。

は12
花束と会話しているひとがいて顔が近いと言われませんか/岩倉曰


花束に話しかける人はいそう。その際に花束に顔を近づけるのも想像できる。主体は花束と会話している人を見かけたのか、それとも主体が花束なのか。下の句から、花束と会話している人は普段から人に対しても顔が近いのかなと思いました。好きです。

ひ05
密やかに生きていってはだめですかそうですかなら道連れですね/香田花鳴


え、どういうこと、どういう状況。密やかに生きていくのはだめって言われたんですね? 「道連れ」って穏やかでないですね。めちゃめちゃ惹かれます…!

ふ01
風船が手をすり抜けてゆくときの感覚 あなたの名を呼ぶ度に/さめない


あなたは飄々とした感じの人なのかな。名前を呼ぶ度に手をすり抜けてゆく感覚というと、少し切ない感じがします。静かで綺麗な歌です。

ふ06
ブレザーの襟ただされて全身の静脈弁がすこしふるえる/からすまぁ


ブレザーの襟をただしてくれる人。親、先生、友達、恋人。下の句が好きです。静脈だから、ただしてくれた人を各器官で感じて心臓へ戻っていく血液。逆流するほどではなく弁がすこしふるえるくらいなのが絶妙だと思う。

め01
目尻にはあなたと暮らす日々の跡老いるってこわいだけじゃないのね/黒兎


好きです。こういうふうに年を重ねたい。目尻の皺って言わないところがいいなって思いました。あなたと暮らす日々の跡って言ってみたいぜ。

も03
もしかして指名手配の方ですか、なんて訊けずにお釣りを渡す/まきぞの


面白い。指名手配犯が目の前にいるかもしれないのに冷静。しかし、こんなことが絶対に起こらないとも言い切れないわけで、少しはっとさせられる。私も主体と同じことします、たぶん。

◆其の参

あ01
ああこれは風のしっぽだ薄氷に似たはなびらがとける残像/武田ひか


風のしっぽ、薄氷、はなびらがとける残像。すべての温度が少し低めな感じがして、綺麗だと思いました。

あ03
愛でした。触れたら刺さって痛いから、泣きたいときだけ触るのでした。/立葵ゆら

愛に弱い。刺さるほどの愛? を私は知らない。「泣きたいときだけ触るのでした。」がとても好きです。少し絵本っぽい感じがしました。

あ06
愛のあるフリは得意で飽きるのはもっと得意で増えてゆく嘘/野添まゆ子


最初に心に引っ掛かったのは、「飽きるのはもっと得意で」に対する共感からです。なんだろう、こういう少し負のある歌に惹かれてしまうのは。

あ07
青空にライスシャワーの思い出を散らしたような子どもらの靴/美富うをみ


すごいね、目の前に青空がパッと広がるような歌です。眩しいくらい。結婚→家族への流れがあって、そうなるまでの思い出もある。結句の「子どもらの靴」がいいなあ。

あ08
赤ちゃんが乗っていますの軽四が猛スピードで右折してゆく/ふらみらり


そういうことあるよねって面白い。ベビーインカーを付けているからといって、ずっと赤ちゃんが乗っている訳ではないよねっていうのも思う。右折なので左折よりもスピード感がある。

あ11
新しい顔を投げないバタコには存在価値はないのでせうか/朧


そんなことないよ!! とても切ない歌で旧仮名がさらに切なさを引き立てているけど、バタコさんのキャラクター性が深刻さを軽減していて絶妙。

い03
居酒屋の灰皿になりあの人の別れ話を加速させたい/白鹿あん


こういう歌を詠めるようになりたい。皆まで言わずに伝える歌。灰皿であの人が喫煙者だと分かるし、居酒屋で空気感もわかる。別れ話を加速させたい、、灰皿に長いままの吸い殻が山を作っていくみたい。

う01
薄紅のiPhoneケース剥がすときわたしの心の薄皮にきず/香田花鳴


JK短歌っぽい。薄紅と薄皮ですよ。iPhoneケースを外すじゃなくて剥がすなんだなー、と思った。ケースを剥がすときの爪を立てる感じと、心の薄皮にきずが入ることのリンク。

え01
永遠が好きだよ、きみが持ってきてくれたらきみと結婚するよ/シギショアラ

ストレートは強いなと改めて思わせられる歌でした。四角くて短い爪の大きい手のひらみたいな歌で好きです。

え02
映画館から遠ざかる 終末のはじまりっぽい夕焼けのなか/瑠璃紫

よくわからないけどよかった(失礼ですみません)終末のはじまりっぽい夕焼けのなか、がいいんだなあ。

お04
お前らを死にたくさせるものぜんぶ東京湾に沈めちゃおうぜ/杏藤ミレイ


振り切れてて気持ちいい。主体の立場が気になる。「俺たちを死にたくされるもの」じゃなくて、「お前らを死にたくさせるもの」なんだ。

か02
改札で振り返るのが恥ずかしいあんなにすごいキスをしたのに/瑠璃紫


改札ですごいキスをしている人と遭遇したことはないけれど、ドラマチックです。恥ずかしさはキスをした相手に対するものか、周囲に対するものか。

か03
外食でご馳走様が言えるから良い人だって思い込んでた/あるこじ


外食でのご馳走様は外面っぽい。お家ごはんでもちゃんと言う人なのかが本質な気がします。あと、ご馳走様より頂きますをちゃんと言う人の方が良い人な気がします。

か06
傘を差す人と差さない人がいる町であなたと傘を持つ僕/真島朱火


傘に弱い。言葉の過不足がない感じがしました。全体を通して好き。相合傘をしてるのかな。雨宿りをしていて、傘を差す人と差さない人が行き交う町を見ている、とかでも素敵です。

き02
キズパワーパッドのふくらみ ぼくだけがぼくを救える世界の中で/天乃せつな


私もキズパワーパッドを詠もうとしたことがあったんですよ!! この歌めちゃめちゃいいじゃないですか!! こんな歌を読んでしまったらもう自分では詠めません!! 悔しい!!

こ08
壊れると知っているのに投げつけてしまう花瓶のような言葉を/toron*


華奢な花瓶をイメージして儚くて綺麗な歌だと思った。それが一般的な読み取り方だと思うけど、読み手が思い浮かべる花瓶によって雰囲気が変わる歌だと思う。ごつい花瓶とか。

さ06
残像を消せないほどに鮮やかな螢をくれてどうもありがとう/金森人浩


「螢」って「ほたる」と読むんですか…ずっと「ひかり」って読んでた…(頭が悪い)
「ひかりをくれて」と読んだので、私を照らしてくれてという読み方をしていたけど、「ほたるをくれて」だと温度が感じられて好きです。

し13
自由にも期限があればいいのにね なんでもできてなにもできない/薄暑なつ


結句がとても切ない。なにもできない。かなしい。かなしいけど、好きです。

せ01
青春のまっただなかは暴風で青いことすら気づかなかった/あまがっぱ


すごく良くない? すごく良いです! 青い嵐って感じだあ。

な02
ながれ星見つけてそっと目をつむる君の場所まで落ちますように/薄暑なつ


主体が目をつむって君の場所まで落ちるように祈っているんだと思った。それとも、目をつむって祈っている君のもとへ、星が落ちてくるように祈っているのかな。どっちだろう。

な05
なにものであってもいいよ手のひらを春の夜風がすすいでいった/あさ凪


上の句の肯定と春の夜風は同じ温度だと思いました。私の「風」は撫でていきがちなので、すすいでいくのがいいなって思いました。

は03
花の絵を飾る手つきでアリエールかおる洗濯物を空へと/武田ひか


アリエールとエリエールを混同してしまって、最初は花柄の箱ティッシュを想像していました。私は洗濯物をバシバシ干しちゃうけど、主体は優しく干すんだなと眺めてました。優しい匂いなんでしょう。

ほ02
包丁で初めて怪我をした時の血の色に似たトマトの赤さ/早瀬ちの


包丁で初めて怪我をした時の血の色なので、若い鮮血でしょう。トマトの赤さとよく合っていると思いました。

ま03
またいつか会えるといいねそんな日は来ないと知っているから言えた/砂狐


もう会えないと知っているから、またいつか会えるといいねって言えた。痛いほどわかる。主体は本当は、また会いたいと思っているんじゃないかな。

よ01
よく晴れたグラウンド駆けるあの人が好き野球部に私もなりたい/grp


すごく可愛い。この子はペカーッ✨って笑いそう。無敵。

◆其の四

あ13
あの人を語る角度があまりにも美しすぎて縮まらぬ距離/八重森さくら。


主体が距離を縮めたいあの人には別に想っている人がいて、その人のことを語っているときが主体には一番美しく映っているのでしょう。切ない。

い02
生きている意味を尋ねる君だけが僕が生きてる意味を知ってる/美富うをみ


完全に感覚で好きだった歌。僕の生きてる意味は君ってことなのか、もっと深い何かがある感じもする。

い03
潔く入浴剤は泡となり人魚になれず浮かぶくるぶし/詩季


入浴剤、泡、人魚、くるぶしのモチーフがまず好きです。特に結句のくるぶしで打ち抜かれちゃった。くるぶし、めっちゃ良くないか。

お01
おずおずと後部座席のおさなごが手を振ってきて振り返し春/小倉るい


これは春ですね。主体は運転席、ルームミラー越しに後部座席の我が子が手を振ってきたのかな。私は子どものころ後部座席から後ろの車に手を振るのが好きだったので、そっちの読みでも面白いなと思いました。

す01
すきだって伝えられずにさくら散り雨ばかり降る春のまぶたに/藤森岬


伝えられなかった想い、さくらが散っていくこと、雨、まぶた。涙も連想させるようなしっとりとした歌で好きです。でも、主体は泣いてない気がする。

す03
少しずつあなたのことを知るための時間を僕にくれるのですか/はすおみ


これ、これ…! 一番好きでした、読んだ瞬間…! 詳しい状況はわからないけれど、主体の心情がすごく伝わってくるな、と。澄んだ空気がかすかに震えるような感じがあって、すごくいいなと思いました。

ち01
地下街の喫茶は壁がヤニ臭いBGMは聞き飽きたJAZZ
新棚のい

淡々としていて、お洒落な歌だと思いました。私が「珈琲を飲めるようになりたい」と言ったら、外出の合間にJAZZ喫茶に連れて行ってくれた喫煙者の上司のことを思い出した。

て02
デタラメに紙を折っても鶴とかは出来上がらずにそれが良かった/シギショアラ


折り鶴、難しいよね。小中学校で折らされた。鶴は鶴を折ろうと思って折らないと出来上がらないから、出来上がった鶴にはそれだけの思いが込められている。

と02
友達に友達というラベル貼り君には何も貼らないでおく/新妻ネトラ


私がとても好きな小説に住野よる先生の「君の膵臓をたべたい」というのがあって、それっぽい。気になる方は小説を是非読んでください。君という人は主体にとって簡単に分類できない、したくないほど大切な人なのでしょう。

な02
何もしてないのに壊れたんです、と修理に出した人間関係/佐々木菜々子


あ~、備品とか自分で壊したのに「壊れた」と言う人いるな…と思いながら読んでいくと、結句の人間関係に全部持っていかれた。人間関係、壊れるよね…。そして、この世界では修理に出せるのね…出したのね…

◆其の伍

か02
ガッカリだ浮気も隠せないなんてわたしが惚れた男のくせに/桝枯井戸


主体は女性として読んだ。私は強い女性が好きなので、初見で心惹かれた。ガッカリだ、~なんて、~くせに、と終始、相手を貶める口調でありながら「わたしが惚れた男」という言葉から自分の惨めさも確かに感じていて、それを認めたくないのかもしれない。

き04
きみの手をきみと手に分け手を握る きみがほんのりひかる夕暮れ/長井めも


全体的に易しい言葉遣いだけど、上の句の解釈は少し難しかった。きみと手に分けられるんだ…と思った。手を繋いで少しはにかむきみは、穏やかな西日をうけてほんのりひかって見える。

こ06
殺したいひとの一人も欲しかった目標がある君はやさしい/あるこじ


優しい人って、心の奥になにか持ってる気がする。

し03
職歴が汚い と言う役員の飛沫で汚染される履歴書/桝枯井戸


しんどいね。

す03
ずっと好きだったから、って理由しか好きな理由が残されてない/はすおみ


国語の授業の「コンコルドの誤り」を思い出した。

せ02
善良な市民は死ぬのがセオリーで あなたがわるいひとでよかった/abc


ドラマチック。あなたは善良な人ではないけど、主体にとってはとても大切な人なのだ。

て01
デパートで偉そうだけど役割を果たしたことがない食器たち/金森人浩


よく考えるとたいていの売り物はまだ役割を果たしたことがないと思うけど、着目されているのが食器なのがよかった。

と01
東京の天気予報が外れた日 わたしが空を取り戻した日/稲井亮太


わたしが空を取り戻した日? 難しいなあ。主体は何者だろう。東京の天気予報が外れた日。晴れたのか雨なのか、ここには明記されていない。読み手に委ねられているのがいい。

と04
とりあえず白くて便利なやつだからアイリスオーヤマだってば、多分/梅鶏


笑っちゃう。こういうの大好きだ。

な04
何度でも確かめるよう振り向いて入学したての子が道をゆく/三浦なつ


優しくてあたたかい歌。自然と顔がほころんでしまう。

に01
人間は温かいんだ 手の平で包んだ水の温度が上がる/波よこに


私なら「手の平で掬った」にしてしまう。「掬う」という言葉に頼ってしまう。

ね01
ねぇ春が あなたをここに置いたまま 夏と結ばれようとしてるよ/渦


詩的だ。風がささやいているみたい。

ろ02
ロータリーを足早にゆく人の手のとりどりの傘とりどりの傘/花瀬果林


下の句のリフレインが楽しい。帰路だと思って、「とりどりの傘」がそれぞれの人たちの生活に通じている感じがする。

わ01
WARNING 希望に満ちた新人がまっすぐ僕を見つめています/真珠。

面白い。新人のキラキラした表情が主体には眩しくて、「WARNING」と言いながらも、その眼差しがまんざらでもなさそうだ。

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