人生をやり直せるとして

 2023年1月期、とても好きなドラマがある。
 日本テレビの日曜ドラマ『ブラッシュアップライフ』だ。
 主演:安藤サクラ、脚本:バカリズム、どうしたって面白いよねっていうドラマである。

 ひとことで言うと、33歳でトラックにはねられ死んでしまった主人公が、来世も人間に生まれ変わるために、今世で徳を積み直す話。
 だと、先週の8話を観るまで思っていた。

 主人公は、市役所に勤める実家暮らしの独身女性。
 その日は仲良しの幼馴染二人と、ごはんを食べて、カラオケに行って、帰りに寄ったコンビニでアイスを食べて、二人とその場で別れた後、風に飛ばされたおしぼりの袋を追いかけてそのまま交通事故に遭って死んでしまう。

 来世は『オオアリクイ』だと告げられ「人間に生まれ変わるんじゃないのか?」と問えば、自分の希望にそった生命に生まれ変わるにはそれなりに徳が必要らしい。
 ガッカリしていると、『今世をやり直して徳を積み直せば、人間に生まれ変われる可能性もある』と知らされる。
 来世も人間として生きるために人生をやり直す、というのがこのドラマのストーリーだ。

 初めのうちは、このドラマの生命のサイクルの設定の可笑しみや、ユーモアにあふれた愛すべき登場人物たちのハートフルな日常を楽しみに視聴していたのだけれど。
 回を重ね、また人生のやり直しを何度も重ねるごとに、どんなにがんばっても呆気なく死んでしまったり、どんなに徳を積んでも、来世は『サバ』だったり『ウニ』だったり。
「このやり直しには意味があるのか」
「来世で人間になれても、この人生のやり直しと何が違うのか」
 と、自分がやり直しているわけではないのに虚しさみたいな気持ちが芽生え始めていた。

 そもそも、私だったら来世がオオアリクイでも、ぜんぜん、オオアリクイとして生きるけどなぁと思う。

 今まで生きていて、失敗も後悔も、大きいものからしょうもないことまでたくさんあって、時間を戻したい、やり直したいと思うこともたくさんあるけど、いざ、人生を赤ちゃんから1からやり直すとしたら。
 1回目より多少は良い選択をできるかもしれないけれど、あらゆる物事の成り行きや結末を知っていたとしても、そのすべてを卒なくこなせるほどきっと自分は器用ではないし、今まで体験したしんどいことをもう一度味わう可能性もあるわけで、私はそれが耐えられないなぁと思う。

 それと、人生をやり直せるとしても、私には無かったことにしたくない思い出がたくさんある。
 それは本当に何気ない、家族や友達と過ごした時間だったり、失敗して怒られた後の先輩の優しさだったり、一瞬の笑顔や笑い声だったり、少しでもずれたらなくなってしまうような瞬間。
 そういうものを全部、無くしたくない。
 一つひとつは忘れてしまうような些細なことも、それによって作られる人との距離があるから。
 やり直すことでより良くなるものがあるんだとしても、巡り合わせで無いものになる瞬間があるんだとしたら悲しいなぁと思う。
 このドラマでもそういう描写があって、より強くそう思った。

 とはいえ、このドラマは非常に面白く、時に切なく、1話も見逃すことなく楽しんできた。
 そして、今しがた最新話の8話を見終えて、この1時間弱で感情をぐちゃぐちゃにされている。

 本当にわくわくして、面白くて、悲しかった。
 でもちゃんと悲しいだけじゃない、朝の澄んだ空気みたいな「つづき」を見せられて、このドラマのすべてが愛おしくなった。

 来世をより良いものにするために今世をやり直していた主人公が、最後に今世をより良いものにするために人生をやり直す。

 このドラマがどんな最終回を迎えるのかとても楽しみだ。

 

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