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読書日記 #27 まるで「君たちはどう読むのか」をめぐりめぐる夏の只中

7月△日

傘は燃えないゴミ。
地区の案内に書いてあった。

暑くてあらゆる予定をキャンセルしてしまった日曜日。

せめて何か生産的なことをしようと、壊れた傘を捨てた。

何年も使い続けたお気に入りのリンゴ柄の傘。傘をこんなに大切に長く使ったのは初めて。

モノを捨てることは新しいモノを受け入れる余裕を作ることで、それなりにエネルギーを要する生産的な取り組みであると、この数年で認識を改めた。

溜まってきた積読の中から自炊にまわす本も選ぶ。

せっかく製本されたものを切り刻むのは心が咎めていつも申し訳なく思う。
でもこうした方が読む可能性が高まることもあるから許してほしい、とも思う。

たとえば「タタール人の砂漠」。どういう経緯で購入したのか覚えてないけれど、もう十分に本棚のスタメンとして、異国文学のかほりを漂わせてきた(とってもえらい)ので、そろそろちゃんと読んであげたい。

二十世紀幻想文学の世界的古典だというのだけど、あまりに現実の世界とかけ離れた世界が硬派な文体で描かれていて読み始めるタイミングを逸していた。未だに面白そうって思ってはいる。

他にも5冊くらい。

何のやる気もしない日は本屋に行く。全予定キャンセルしてもできること。
ちょうど明日の出張用に切符を発券しないといけないので、その駅近くの推しの本屋さんに行こうかと。

実は買いたい本もあった。

それにしても暑い。溺れるような暑さ。地球温暖化をこんなに身をもって感じた夏は未だかつてない気がする。SFみたいな現実が迫っている。

駅から数分の距離でも、どこからともなく汗のつぶが浮き出てきて肌を伝い、ぼーっと気が遠くなる。

ゾンビのようにだらだらとした足取りで歩を進める。やっと冷房のきいたお気に入りの本屋さんに辿り着く。

入口ですぐに目当ての本を見つける。

そう、「失われたものたちの本」が読みたかった。
最新のジブリ映画「君たちはどう生きるか」で原作ではないけれどリスペクトされている本だと聞いて。

この映画についてさまざまな考察が上がっているけれど、もう映像そのものに、そのすべてに深く感動した私としては、最後かもしれないこの宮崎駿作品のコンテンツの余韻にもう少し浸りたくて、友達と語り合った以上の考察は封印したままこちらを読もうと思った。

「君たちはどう生きる」か自体は「100分で名著」の池上さんのゆるい解説本を読み、どんな作品かは大枠理解したものの、まだ足りないので漫画版を古本で購入。もうすぐ届く。
原作の小説もこのままだと買ってしまいそう。

私こういう道徳的な本は苦手なんじゃないかなぁとも思うのだけど、特に漫画版は一時期すごいベストセラーになっていた記憶もあることだし、これを機会に読んでおくのは悪くない、と思う。

せっかく本屋さんに来たので他にも気になっていた本をお迎えしたい気分になる。(いつものこと)

まずこの「獣の夜」。森絵都さんの新作。
帯に“「カラフル」「みかづき」の作者が贈る”ってあるのがいいと思って前から気になっていた。
直木賞作家さんなのにそれには触れず。有名な人からコメントももらえそうなのにあらすじ紹介に徹していて。敢えてそのころの作品を例に出してくるところが、いい。
その当時の森絵都さんの児童小説が大好きだった私が、しっかりとターゲティングされている気がする。

それから「空芯手帳」が気になる。
解説をかいているのは大好きな松田青子さん。【女性差別的な職場にキレて「妊娠してます」と口走った柴田が辿る奇妙な妊婦ライフ。】というあらすじがまた狂ってそうでぐっとくる。「詠美」という名前は山田詠美さんリスペクトなのかな。考えすぎかな。
世界14カ国で翻訳されているのも注目ポイントだし、軽めに読めるフェミニズムへんてこ文学なら、私の大好物に違いない。

そして津村記久子さんの新作は、これはもう即買い。なんかタイトルが阿呆っぽいところも期待大。【社内政治の面倒臭さをリアルにコミカルに描く。】とあり、現代の“ゆるプロレタリア文学”(私が勝手につくったジャンルだけど)を代表する作家さんだと思うので、ぜひみたい。

今回買ったのはこの4冊まで。

最初手に取ったけれど、本2冊分くらいの価格で断念したのは皆川博子さんのレビュー本「天涯図書館」。

ブックレビュー本って読みたい本が増えるばっかりなのに、どうしてもストックを増やしたくなってしまう。それに、皆川ワールド全開のこの装丁の美しさがたまらない。帰ってきてこの日記をかいているけれど、やっぱりほしいなぁ。
思いとどまれたのは「辺境図書館」「彗星図書館」に続く3つめの作品だったから。つづきものってわけではないけれど、1巻から読みたいなと思って。
あとで古本でこのシリーズがリーズナブルに購入できるか調べてみよう。

ずっとほしいけどまだ買っていないのは、メフィスト賞をとった「ゴリラ裁判の日」。文字通り、ゴリラが裁判を起こす話。
ゴリラってタイトルに入れちゃうのは、もう、それだけでインパクトあってずるい。
実際にあったハランベ事件が下地にされてるというし、動物が裁判を受けたりする事例はヨーロッパの中世にはけっこうあったというしね。

昔、確か高校生くらいの頃に、ヨーロッパ中世の陰鬱だけれども、それゆえに妖しい魅力を感じるカルチャーが気になってその類の本をよく読んでいて、この「動物裁判」もその一つ。人権の意識とか、善悪の基準とか、全然違った価値観の中で生きる人たちの奇妙な慣習、とても興味深かった記憶がある。

いい本屋さんはちょっとめぐるだけでも楽しい。

ゆっくりとお風呂に入る。

読んだのは「それを世界と言うんだね」

この本は本屋で見つけて気まぐれにお迎えした本の一つ。もともとは読者から集めた物語をもとに楽曲をつくり、それをさらに書籍化したんだという。

音楽と小説のMIXという在り方は、これからもっと模索したいジャンルで、特に10代から20代向けでレビュー評価も高いので買ってみた。

ラノベ的で読みやすい。
物語で幸せになれなかったものたちが集い、良い結末にしてくれる日を待っている、という設定もわくわくする設定に感じる。

それにしてもラノベ的ってなんだろう。読んでいて、あーこれはラノベのようでしっかり文学だって思うときと、小説を読んでもこの文章の感じはラノベっぽいなぁって思ったりする。

どちらがよりいいという話ではなくてどちらもいいんだけど、扱う題材とかだけじゃない、自分の中で分類基準があるような気がするのに、つかめない。端的にいうなら文体の手触りの違いみたいな感じ。もう少し言語化できたらいいんだけど。書き起こしてみたらわかるのかな。

8月⭐︎日

何もかも吸い込まれていく。
あー楽しみだなぁと思って過ごしていた時間も、
あー幸せだなぁと思って浸っていた時間も。

全ては夏の夜の闇の中に。

という詩的な感傷に浸って一夜明けて。

吸い込まれていくのは、夏の夜の中にではなくて、自分の中の欲望のブラックホールみたいな、暗く黒い場所なのではないか、という気がしてきた。

そんな目覚め。

まだ体の調子はうっすらと悪く、それでもなんとか起き上がって歯医者に行く。

歯医者に行くのが本当に嫌いなんだけれども、もっと痛い治療をしたり、自分の歯を失うリスクや、さらに身体に良くないものが取り込まれる危険性を考えるとどうしても定期的に行かざるを得ない。

今日はセルフメンテナンス日。

このあと整体、フェイシャルエステ、パーソナルに行く予定が控えている。

二つの予定を終えて、ランチを食べながら、既に半分読み終えた「失われた物語」の続きを読む。

久しぶりにとってもファンタジーな作品。
ファンタジーといってもダークファンタジー。もしこのまま映画にするなら子どもに見せるべきではない血なまぐさい描写が膨大に含まれてしまう

こてこてのファンタジーは世界観になじむのに時間がかかるのでなかなか手が出ない。ジブリの原作になってなかったら読まなかっただろうな、と思う。

作品自体としても面白いし、ジブリ作品「君たちはどう生きるか」で描かれていた部分を読み解く上でも世界観の理解などヒントになりそうなことがたくさんある。

お風呂タイムまで使って結局夢中で読み切ってしまう。お風呂がぬるくなる。

というわけでここからはネタバレ。読み終えてから映画と今、読み終えた本の違うところを記憶がなくならないうちにメモする。

映画と本であらすじが重なる主なポイント

・主人公の少年がお母さんを喪う
・主人公は比較的裕福な家庭で育つ
・お父さんは早々に新しい恋愛をし、子供を作り、再婚する
・新しいお母さんとは気まずくうまく話せない
・戦禍から逃れるべくお母さんの田舎のお屋敷に移り住む
・本好きの叔父さんは失踪して戻らない
・「私はまだ生きてる、会いに来て」というお母さんの声に呼ばれる
・不思議な世界に迷い込み、謎の獣に命を狙われる
・弱っているらしい王に会いに行く旅に出る
・王を受け継いでほしいと頼まれる
・出てくる生き物によって世界は破壊される
など。

映画と本で明確に異なる主なポイント

・新しいお母さんとのもとの繋がり(本では妹ではない)
・「君たちはどう生きるか」が託されるか否か(そもそも本ではお母さんの実家ではないから)
・赤ちゃんが産まれているか否か(映画ではまだお腹の中)
・お母さんとの険悪な関係の度合い(本ではかなりケンカする)
・あの鳥の邪悪さ(そもそも本では鳥ではない)
・童話がベースになって出てくる登場人物(童話は映画では過去のジブリ映画なんだと思う)
・少年を保護する存在の立ち位置(詳しくはいえないけど)
・恐ろしい命の危機が訪れる頻度(本では軽く5回は死にかけてる)
・現実世界から引き込まれた人が誰か(設定がそもそも違うのもあるけど)
など。

同じ箇所は物語の中で語られる説明を読むことで映画の理解が深まる(仮説が立てられる)し、異なる箇所は変更の意図を考えると駿さんのこだわり部分がより感じられる。

二人のお母さんとの関係の在り方とか、創作世界の中での少年の立ち位置とか。

この本を読みながら、駿さんの幼少期の両親との関係性なども調べたので、なぜ彼がこの作品に救われたのかもわかるような気がした。

1つの作品をこんなにいろんな角度から大切に掘り下げようと思ったのはいつぶりかな。

それにしても本の方はとっても怖かったなぁ。本当は怖いグリム動画が昔流行ったけれど、あれもそういう感じなのかな。

「めでたしめでたし」を許さない。ダメ、絶対。という意志を感じる。
私も離婚した両親をみて、小さいころから思ってた。「結婚して幸せに暮らしました。めでたしめでたし」って本当に?って。

とどまるところを知らない私たちの幸せを求める心のブラックホールは、たくさんの幸せな体験を過去のものとして消し去ってしまうから。

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