見出し画像

#13 新生活!五月病に効きそうなおすすめ本を備えよう。5つの方向性。 4月某日 誤り交換日記

世は新生活シーズンです。

私はシーズンにあわせて情報を発信するような仕事をしているのに、プライベートな生活においては、そういったシーズンに気持ちをチューニングするのがとても苦手です。

そうはいっても否が応でも勝手に周りはフレッシュになり、騒がしくなってきて、いつも以上にニコニコと新しい出会いを楽しみ、目標などを立てないといけなくなります。

具体的には私も今期をふりかえって来期の計画をねり、配置換えして新しく担当になった方に挨拶したりしています。ポッドキャストも2周年を迎えていかにもハッピーな感じでそれを発信します(ハッピーには違いないのですが)。

だからきっときます。「五月病」という名の反動が。

というわけで、五月病の時にはこんな本を読むのがいいんじゃないかなぁと自分の読書体験と五月病な頃の自分のメンタルを振り返りながら書き出してみることにしました。(憂鬱な気分を書き綴っても誰も何も得られないですし、かといって意識高い文章もなんだか書きたくない気分)

なお、ためになるビジネス本や鼓舞されるようなお仕事小説はきっと誰かが紹介しているので、全然違う方向で何かの一助になるのでは、と思う本を選びました。


五月病に効きそうな本5選

1)このくらいの熱量と真面目さで仕事したいんだ私は。(津村記久子「この世にたやすい仕事はない」)

鼓舞されるようなお仕事小説は選ばないといいましたが、津村記久子さんは鼓舞されない系のお仕事小説を書くのにとんでもない才覚を発揮されている方です。現代のプロレタリア文学というと格式高く聞こえすぎるかもしれませんが、でもコンセプトとしてはそういう感じのものが多いのです。

特にこの作品は、バーンアウトして仕事を辞めたところから物語が始まるのが五月病のシチュエーションにもぴったりではないかと。
今までとは全然違う、楽で責任も伴わないようなお仕事を求めてるだけなんだけど、その仕事というのがとても奇妙だし、だんだんと謎多き展開に陥ってしまう感じが、津村ワールド全開でじわじわおもしろいんですが。

そして、仕事との向き合い方という意味では、読み終える頃には、バーンアウトしそうな毎日の落としどころみたいなものが見えてくるんじゃないかと思います。

<あらすじ(Amazonより)>

面白いけれども、きつい仕事に燃え尽きてしまった36歳の女性主人公が、1年で異なる5つの仕事を経て、自分と仕事との健全な関係を取り戻すまでを描く連作短篇。

<私の読後の感想メモから>

森林公園の管理者、おかきの袋に載せるコラム執筆など。14年勤めた会社をバーンアウトして辞めて職場を転々とする日々が描かれています。
最初は退屈な仕事に単調な物語展開だと油断してたら思いもよらぬ事件が起きて仕事も面白くなって主人公はどんどん巻き込まれてどんどん目が離せなくなる。
基本真面目な性格のせいで問題を見過ごせず、図らずもどの職場でも大活躍する主人公が滑稽で愛おしく、バスアナウンスの内容初め細部までウィットに富み、読後は働く活力が漲るような清涼感が残ります。

<同系統のオススメ本>

  • 仕事のおかしみとやりがいが詰まってる。ある種のホラー
    今村夏子「とんこつQ&A

  • 同じく仕事を辞めたところから始まる「香り」をめぐる物語
    千早茜「透明な夜の香り

  • 自殺失敗から始まるのにこんなにあっけらかんとしてていいの?
    瀬尾まいこ「天国はまだ遠く

2)高尚に見せかけて超くだらなくておもしろいだけ。(森見登美彦「奇想と微笑~太宰治傑作選~」)

やる気の出ない日々でも、ちょっと高尚な文学を読んだら、なんだか意義あることをした気分になれるじゃないですか。

そんな時に読むのは太宰治がいいと思うんです。

ダメ人間の心に寄り添うセンテンス満載だし、センス系芸人のエッセイのような読みやすさだし。

ただ、普通に選ぼうとすると「人間失格」とか「斜陽」とかになっちゃう。それはそれでいいんですけど、せっかくなら、森見登美彦さんという名キュレーター(であり、太宰治氏の精神を受け継ぐ尊敬すべき作家さん)の力を借りたらどうだろう、というご提案です。

へんてこで短くて読みやすい作品が、エッセイと創作とまぜこぜにたくさん収録されています。
うざすぎる友人が訪ねてきた時の会話劇がコントみたいな「親友交歓」やとんでもなく何もない佐渡で、何もすることがない旅行の日々を描いた「佐渡」あたりが特に好き。

自分よりもダメな思考パターンの人が、「生誕100年」を経ても受け継がれる作品を数多く残しているということに思いを馳せると、人生は長いし、何が起きるかわからないよなぁって励まされるかもしれません。

<あらすじ(Amazonより)>

中学校の国語の時間。「走れメロス」の音読テープに耳をふさいだ森見少年は、その後、くっついたり離れたりを繰り返しながらも、太宰の世界に惹かれていった――。読者を楽しませることをなによりも大切に考えた太宰治の作品群から、「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いて選んだ19篇。「生誕百年」に贈る、最高にステキで面白い、太宰治の「傑作」選!

<私の読後の感想メモから>

短篇を1つ読むたびに、森見登美彦氏(モリミー)の作品ごとの解説を読めるのが最高です。モリミーが太宰氏に多大な影響を受けていることがよくわかります。
太宰さんはもとから好きですが、彼の才能に改めて感服。とある貨幣の一生を描いた擬人化ものや井原西鶴の作品を太宰風に再構築した本歌取り的作品や井伏鱒二の選集に寄せる熱い思いを綴った解説まで本当に楽しめます。
でも特に、彼のエッセイが自虐的で面白いのが一番の発見でした。

<同系統のオススメ本>

  • 医者として高い地位を得ながら発禁処分になってまで性欲について綴った
    森鴎外「ヰタ・セクスアリス

  • こんなお茶目な文章も書くんだ!常識を説かれて辟易したら読みたい
    三島由紀夫「不道徳教育講座

  • 清少納言さんとお友達になって飲み明かしたくなる
    酒井順子「枕草子REMIX

3)「夏休み」のことを考えて目の前の梅雨を乗り切ろう。(椰月美智子「しずかな日々」)

五月病になる原因の一つが、このゴールデンウィークを終えると、7月末まで祝日がなく、天気が悪くて憂鬱になるに違いない梅雨を乗り越えなければいけないということ。

だったら一足先に「夏休み」のことを考えればいいじゃないかと思うのです。
しかも、「あの頃」の夏休みのことを。

ありし日の夏休みを舞台にした「ぼくのなつやすみ」というゲームが未だに多くのビジネスパーソンに支持されるゲームだということからも、そんな現実逃避がとても求められているということがわかります。
いいと思うんです、そんな感じでだましだましやり過ごす日々があっても。

夏休みをテーマにした作品の中では、私はこの「しずかな日々」が一番好きです。劇的なことは全然起こらないので、現実と地続きな感じがしますし。
多感な少年がほんの少し成長する様子にもほっこりします。

<あらすじ(Amazonより)>

おじいさんの家で過ごした日々。それは、ぼくにとって唯一無二の帰る場所だ。ぼくは時おり、あの頃のことを丁寧に思い出す。ぼくはいつだって戻ることができる。あの、はじまりの夏に――。おとなになってゆく少年の姿をやさしくすこやかに描きあげ、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞をダブル受賞した感動作

<私の読後の感想メモから>

お母さんと離れて、ほぼ初対面のおじいちゃんと暮らす内気な少年、ぼくの一夏の成長の物語。というと子供向けのように思われますが、少年が少しずつ自分の意志を持って人と関係を築いていく様子に、その表現に、心が洗われるような爽やかで切ない気持ちが込み上げてきて、読んでいて幸せでした。
≪ああ、夏なんだなって、ぼくはこれまでで、きっとはじめて感じた。≫
≪だれかと一緒にいることが、こんなにたのしいと知ってしまったのに、ひとりぼっちに戻るのは大変なことなんじゃないだろうか≫
こんなことを思う夏が私にあったかなと思いを馳せる。

<同系統のオススメ本>

4)スケールの大きいミステリーにのめりこんでみるのもアリ。(ジェラルディン・ブルックス「古書の来歴(上・下)」)

ミステリーとかファンタジーとか歴史小説とか。
人によってのめりこみたい世界は違うかもしれないのですが、ひとまず今の自分とはまったく違う、スケールの大きい世界の謎にのめりこむことで、憂鬱な気分も含めて、いったん頭を空っぽにしてみてはいかがでしょう。

思いつく候補はたくさんあったのですが、あまり知られていないかも…と思うものをと、こちらを選んでみました。
古書のハガダーが歩んできたであろう様々な時代のストーリーがオムニバス的に読めるのですがどれも面白い。人間の命のスケールを軽く飛び越えて存在し続けてきた本なるものの軌跡と奇跡を感じられますし、謎解き的な側面があるのも夢中で読めるのでよかったです。

<あらすじ(Amazonより)>

100年ものあいだ行方が知れなかった「サラエボ・ハガダー」が発見された―連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。 ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われるヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在する最古のハガダーとも言われており、500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていることでも知られていた。それが1894年に存在を確認されたのを最後に紛争で行方知れずになっていたのだ。 鑑定を行なったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。それを皮切りに、ハガダーは封印してきた歴史をひも解きはじめ……。
異端審問、焚書、迫害、紛争——運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた1冊の美しい稀覯本と、それにまつわる人々を描いた歴史ミステリの白眉。第2回翻訳ミステリー大賞受賞作。

<私の読後の感想メモから>

たとえば高山地帯にしかいない蝶の羽、血の混じったワインの染み。数々の困難を乗り越え、数百年を巡る時を生き抜いてきた幻の古書に残るこうした痕跡には、本に携わる人々の人生の重要な局面が隠されている。古書を復元、分析するハンナの目線で繋がっているものの、各痕跡ごとに展開するサラエボ、オーストリア、ヴェネチアで暮らすユダヤ人のドラマチックな短篇集の趣が強く、それぞれが面白い。
久々に往復の電車とランチと帰宅後と、読み続けました。本書はフィクションですが、500年以上の時を生き抜いてきた本というのは、きっとこんなふうに数々の奇跡に救われてきた本なのではないかと思います。
ザーラが絵画の技術で奴隷の人生を切り開いていく頼もしさとその影にある苦悩にはとりわけ胸を打たれます。その肖像画をとても見てみたい。
(ところで、もし世界中の書物が電子化したらコンテンツの保護の在り方や書物に残る痕跡はどんなふうに形を変えるんだろう。)

<同系統のオススメ本>

  • ベストセラーなのには訳がある。超のめりこめる歴史ミステリー
    ダン・ブラウン 「ダ・ヴィンチ・コード

  • 最終的に全然ライトじゃない!むしろSF?どんでん返しを刮目せよ。
    南海遊「傭兵と小説家

  • 大人になったからこそ、海洋冒険の旅に出るロマンに浸れるんですよ
    ジュール・ヴェルヌ「海底二万里

5)散文で感情を言語化し、お手軽に癒される。(最果 タヒ「『好き』の因数分解」)

気持ちが落ちてきていると本を読む体力も失われているもの。
そういう時に備えて、小難しくなさそうな散文的な本を持っておくといいと思っています。私自身、何冊もそういった本に助けられながら、ここまで社会人をやってこれたわけですが、直近ぐっときたのがこちらの、今をときめく詩人最果タヒさんのエッセイ。

本書を通じて、「好き」という感情を思い出すのも、五月病にはとてもいいと思います。

たとえば目の前の仕事で頭がいっぱいになると、それが世界のすべてかのように勘違いして自分を追い詰めすぎてしまうこともあると思うのです。
そんな時に、好きなお菓子とか、お気に入りのTシャツとか、昔推してたアイドルの歌とか、ささいなものでも「好き」なものを考えてみて、触れ合ってみる・向き合ってみるというのは、お手軽にみえて、しんどい毎日を生き抜くのに大事なことなんじゃないでしょうか。そこから何か始まる可能性だってありますよね。

<あらすじ(Amazonより)>

ここにあるのは、好きを飛び越えた私そのもの、もしくは、
私さえ飛び越えた、生きることであると信じているから。 ―― 〈はじめに〉より
48の「好き」を、3層のテキストで書き分けるという挑戦。
最果の「平成カルチャー論」であり、かつ、横溢する愛の読み物。
ミッフィー/ 風立ちぬ/ マックグリドル/ 燃える/カルテット/ ゆらゆら帝国/ 水族館/ ぬいぐるみ/クロード・モネ/ 石/ よつばと!/UFOキャッチャー/ 紫陽花/ 古畑任三郎/フィギュアスケート/ 書くこと/ 宇多田ヒカル(以下略)
……「好き」48
ファッション誌「FUDGE」の大人気連載を主に再構成し、大幅加筆、書き下ろし多数収録。

<私の読後の感想メモから>

好きなものについてまとめたエッセイ集なのだけど、好きな対象についての説明を全然しない。たぶん因数分解だからディティールは()にしまってしまって、共通因数的なものを熱く深く、綴っている。そんなところがとても愛おしい一冊でした。
お風呂で数章ずつ噛み締めるように音読しながら読み進めたけれど、最初に戻ってもう一度読みたい。
もはやこれは詩なのではと感じます。言葉がポップコーンができる時のように弾けていく感じが快感というか。私もそんなふうに対象を好きになるから気持ちわかるなぁと、オリジナルの好きを因数分解したくなります。

<同系統のオススメ本>

「誤り続けるオンナたち」の2人の交換日記でした。

こちらはPodcast「誤り続けるオンナたち」の2人の交換日記です。

交換日記のルール
・相手への質問を一つ書く
・内容はなんでもOK

つまり、今日あったことかいても、ポエムかいてもなんでもOK。
毎度もはや日記でなくてすみません。何を書いたらいいか迷ったあげく、本について書きたくなったので、新生活にあわせてまとめてみました。

一緒にやっているポッドキャストはこちらです。

1個前のかやこさんの日記はこちらです。

またイタリア旅行に向けて摂取したコンテンツについて質問したところ、こんなnoteもあわせて書いていただきました。
とても幅広く情報収集していて感動です。YouTubeとかやわらかいものも書いてあるのが面白かったです。参考になったnoteもぜひ知りたい。

質問「noteはどんな時どんな風にに書いてますか?」への回答

私もこちらは別記事にして一本書きました。

考えたこともなかったのですが、いざまとめてみると自分でもなるほど、と思えてよかったです。お題与えてもらうのは楽しいですね。

最後に質問「娘ちゃんにきかれて困った質問とその回答は?」

かやこさんにポッドキャストで「100の質問」企画をしたときに、「それは娘からの質問で対策済です」というようなことを言われて、その話もっと聞きたい!と思っていました。

過去にも読み聞かせをしていて突然出てくる質問に動揺した話がありましたが、思いもよらない娘ちゃんからの質問にびっくりしつつも、いつも一生懸命答えようとしている様子が「事実は小説より奇なり」という感じでとてもいいんですよね。

ぜひ最近出てきた突飛な質問(コメントなどでも)やそこから始まった会話などを教えてください。

他の日記はこちらのマガジンから読めます

ゆーーっくりの更新で恐縮ですがポッドキャストと合わせて、興味ありそうなnoteがあればぜひ見てみてください。

この記事が参加している募集

新生活をたのしく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?