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わたし・僕でいるための『わたしたち』/ カネコアヤノ

前作の「よすが」はコロナ禍を通して制作されたこともあり、寄り添うような優しいメロディが多かったイメージだが、今作「タオルケットは穏やかな」は全体を通してとてもシューゲイザーを感じる構成となっている。まず「わたしたちへ」冒頭も同様に、今回「タオルケットは穏やかな」制作にあたり新たに参加した照沼さんの力強いドラムのイントロから始まる。

あの子は誰よりも退屈に慣れてる
こちらを見て 泣いたりはしない
真夏の日差しに育てられた
母よりも怖いくらい

「退屈に慣れる」とはどういうことなのだろうか?「退屈」とは何もすることがなく暇を持て余したり、飽きてしまうことだが、わたしたちは日々退屈しないために刺激を求める。それは映画であったり音楽であったり、スポーツであったり……。それもいつかは慣れてしまい、新たな刺激を求めるようになる。しかし、「あの子」はそんな退屈を振り払う術を知っている。それが初心に戻ることなのか、SNSやメディアなどの現代のしがらみから脱却することなのかは分からない。
そんな退屈に慣れてしまう状況で「こちら」が退屈から脱却するための救いの手を差し伸べても彼女は泣かないし、他人に救いを求めない。「真夏の日差し」という暑さを耐え抜かねばならない季節に育てられた、例えるならひまわりのような強い人なのだと感じる。

わたしは夏生まれだ。わたしも向日葵のように真夏の日差しに向かって真っ直ぐ伸びる強い人なのだろうか。

私でいるために心の隅の話をしよう
変わりたい 変われない
変わりたい 代わりがいない私たち

最近、他人を愛することは出来るが、自分は自分のことを愛せているだろうか?と考えるようになった。自分の良い所は何なのか客観的ではなく主観的に考えたり、自分のことを心から好きになるのはとても難しい。わたしがわたしでいるために、自分の心と向き合う。変わりたいけれど、変われない。変わりたいと思っても私と同じ人間は誰一人としていない「代わりがいない」わたしなのだから。

あの子の目の奥はいつも何か信じて
いるようで そらせない

「あの子」はなにか強い信念を目に灯しているようだ。わたしは自分が信じようと思った愛や言葉、生き方を信じ抜くことがまだできない。「わたし」は力強く生きるあの子の目からそらせない。

部屋の片隅でくすぶる熱
ささやかな歩き方さえ
羨ましいよ

彼女の信念だけでなく、歩き方さえも羨ましい。そのくらい魅力的な人間だ。
部屋の隅では熱を帯びた小さな灯火が静かに燃え続けている。彼女が強い信念を持っているのと同じように。

寄りかかることがこわい
愛ゆえに

私でいるために心の隅の話をしよう
変わりたい 変われない
変わりたい 代わりがいない私たち
私たち 私たち

「わたし」は信じることが難しい「愛」だからこそ恋人、友人、家族に頼ることがこわいと感じている。他人に秘密を話したり、ましてや家族でさえも頼れないことは多々ある。それは恥ずかしいやこわい、不安といったネガティブな感情を含む。しかし、わたしは失恋した時に1番に母を頼ってしまった。どうも辛くてご飯も食べれないほどであったからだ。「あなたが生きていれば愛してくれる人間はきっといるから」という言葉に救われた。一人の人間に固執する必要などない、私が泣く必要なんてないと少し前を向くことが出来た。他人を頼ることは怖くないんだと、頼ることも「愛」なのだとわかった。

だからこそ「わたしたち」は自分と向き合わねばならない。自分の信念を大切にして生きねば、「わたし」という一人の人間でいる意味が無い。「あの子」が変わりたいと感じている葛藤もわたしたちに当てはまることだ、誰もが抱えている他人への羨望も悪いことじゃない。でも何か一つ自分の好きなところを見つけられたら、それは自分を愛することの1歩になるのではないかと思う。

強くひとりで生きることも、時には他人に「愛」を求めても良いこと、弱い心は決して悪くないこと、ひとりひとり違う良いところがあることを忘れずに日々生きて生きたい。
「わたしたちへ」はその気持ちを思い出させてくれる曲だ。


カネコアヤノ「わたしたちへ」歌詞

あの子は誰よりも退屈に慣れてる
こちらを見て 泣いたりはしない
真夏の日差しに育てられた
母よりも怖いくらい

私でいるために心の隅の話をしよう
変わりたい 変われない
変わりたい 代わりがいない私たち
私たち 私たち

あの子の目の奥はいつも何か信じて
いるようで そらせない

部屋の片隅でくすぶる熱
ささやかな歩き方さえ
羨ましいよ

寄りかかることがこわい
愛ゆえに

私でいるために心の隅の話をしよう
変わりたい 変われない
変わりたい 代わりがいない私たち
私たち 私たち
私たち 私たち

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