童話における「ですます」調について気をつけたいこと

「ですます調」は敬体とも言われていて、やさしい印象を持っています。ですが、その印象が言葉づかいひとつで壊れてしまうことがあるようです。今回は自分の勉強がてら、童話を書くときに気をつけたい言葉づかいについてまとめてみました。

接続詞

文章をつなげる役割を持つ接続詞は、物語の流れに大きく関わってきます。ことに童話においては、難しい言い回しを使わずに柔らかく平易な使い方を心がけたいところです。ここでは左に「である調」でよく使われる接続詞、右に「ですます調」に置き換えた接続詞を例に見てみましょう。

だが・しかし → でも・けれども・ところが
だから → ですから・ですので

どうでしょうか?
少しやわらかい表現になっている気がしませんか?

ここで「ですから」と「ですので」は、それぞれ特徴があり、一長一短があるようです。「~から~」は主観的に理由を述べるとき、「~ので~」は客観的に理由を述べるときに使われるようです。

ここでは学校でのシーン、体育の時間にサッカーをする予定だったクラスのワンシーン。

雨が降りそうだから、サッカーは中止です
雨が降っているので、サッカーは中止です

前者は「雨が降りそう」という推測を含んだ主観、後者はもう「雨が降っている」という事実から、結論を導いています。

また前後してしまいましたが、ところがは他の「でも・けれども」よりも、はっきりと今まで順調に進んでいたことが、うまくいかなくなる時の起点として表現できます。

サッカーの試合で多少のミスはあったけれども、負けたことなんて一度もなかった。ところがキャプテンの悟がマネージャーに振られてからというもの、負けることの方が多くなった。

文末表現

文末の表現は、文意に大きく関わってきます。また童話や児童文学では、同じような文末表現を繰り返していると、単調なリズムに読み手が退屈してしまうこともあるでしょう。ここでは色んな文末表現を見ていこうと思います。

でしょう、でしょうか

推測の文意を表します。
また登場人物が疑問に思っていることを作者として代弁するときなどにも使われます。

口喧嘩をしたクラスメイトのことを考える主人公のワンシーン

結局、その日ケント君は学校を休みました。昨日のことで、傷ついてしまったのでしょうか。少し言い過ぎたのかもしれません。ユウトはぎゅっと右手で左腕に爪を立てました。

ました、でした、ます、です、のです

一番悩みどころの文末表現。ここでは宮沢賢治の「グスコープドリの伝記」を参考に思ったことをまとめてみました。物語はですます調で書かれており、書き方を見てみますと、ましたでした、それにですます、そしてのですで文末は統一されているようです。

それぞれ何が違うのか?見ていきましょう。

ほとんどの文末が「ましたでした」になっています。しかし、「誰かが~しますと、~」のように句読点直後の文と主語がつながっていたり、連続して何かが起こった様子を伝える時には「です、ます」が使われています。

のでした」は時々はさまれます。文例を見ていきましょう。

するとあちらでもこちらでも、ぽう、ぽう、と鳥が眠そうに鳴き出すのでした。

するとこんどは、もういろいろの鳥が、二人のぱさぱさした頭の上を、まるで挨拶するように泣きながらざあざあざあざあ通りすぎるのでした。

一日がとても長くて、しまいには歩いているのかどうかもわからなくなったり、泥が飴のような、水がスープのような気がしたりするのでした。

出典:グスコープドリの伝記 宮沢賢治

繰り返し同じ動作を描写する時、あるいは毎日の当たり前の様子を描写する時などに使われているようです。

物語の起点ともなるワンシーン。主人公のブドリを雇った沼ばたけの主人が、作物の病気に気づいたシーンで「のです」を効果的に使っています。

ところがある朝、主人はブドリを連れて、じぶんの沼ばたけを通りながら、にわかに「あっ」と叫んで棒立ちになってしまいました。見るとくちびるのいろまで水いろになって、ぼんやりまっすぐを見つめているのです

出典:グスコープドリの伝記 宮沢賢治

ここの「のです」のおかげで尋常ならざることが起きたことがはっきりとわかります。

句読点

読点「、」の位置
ルールはありませんが、声に出して読んでみて、位置を調整することが読みやすい読点の打ち方かと思います。反対に他の児童文学を読む時なんかは、読点を意識して声に出して読んでみると、参考になるかもしれません。

読点と句点
ここでは新美南吉の「手袋を買いに」という作品の例を見ていきたいと思います。子狐が初めて見る雪の上で遊ぶシーンと、母狐が帰ってきた子狐の手を包んでやるシーンです。

子供の狐は遊びに行きました。真綿のように柔らかい雪の上を駆け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹が映るのでした。

母さん狐は、その手に、は――っと息をふきかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、「もうすぐ暖かくなるよ、雪をさわると、すぐ暖かくなるもんだよ」といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。

出典:手袋を買いに 新美南吉

一つ目の文でも、二つ目の文でも、読点をたくさん使っています。一つの動作の後に必ず読点が来ています。また一つ目の文では主語が「子供の狐」から「雪の粉」に移っていることが読点を通じてよくわかるようになっています。また二つ目の文の「母さん狐は、その手に、はーっと息をふきかけて、ぬくとい母さんの手で」の部分では母狐と子狐の手を、読点を使ってはっきりと分けています。

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