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子供のころ夢見た大人になれたことに乾杯した夜

春節と出張が重なり、ヨーロッパに一か月くらい滞在している。

中国発着便のプライスはまだ落ち着かず、往復でも生き返り別発行でもあんまり差がない。スイス着がやけに高かったのでふと調べると、アムス着が安い。弟分のような友人がアムスに住んでいて、ずっと遊びに来いということだったのでよい機会とチケットをポチった。XiaoHaoと呼ぶことにしよう。

Xiaohaoは中国留学中に仲良くなった中国人男性で、国内名門大学のバイオ学部を卒業したあと、オランダにあるこの分野の某名門大学のマスターを卒業し現地で職を得て三年目になる。春節明け一日目の朝に空港に着いた私をピックアップしてくれ、「アムステルダムの小金持ちがどんな家に住んでるか見せてあげる」とのことで彼の友人宅に向かう。

オランダ人数人がホームパーティーの準備をしていたが、Xiaohaoとの会話は全部オランダ語でまずびっくりした。オランダは(確か)英語力が世界でもトップの国で、道中会った人全員私には流暢な英語を話してくれた。平たくいえば、オランダ語ができなくて生活上困ることはかなり少ないであろう。中国や南欧とは違い、必要に迫られることから生まれる語学習得モチベーションはかなり下がる。

そんななか、全員ネイティブのホムパでふざけあうレベルまでオランダ語を習得したXiaohaoを見て、姉貴分としては胸が熱くなった。立ち居振る舞いもマナーも含めて、どこに出しても恥ずかしくない(この表現を使うのも変だけれど)ような大人の男性に洗練されていた。Xiaohaoは、中国国内でも貧しいエリアの出身でご家庭も所謂ごく普通の中産階級である。(私は実家にも遊びに行ったことがあり、確認済)いわゆる帰国子女ではない。

大学時代からとても頭がよく努力家、の彼だった。今も勿論根本のところは変わっていないけれど、今回4日間一緒に過ごしてみて、なんかあか抜けたというかいい感じで力が抜けたな、と感じていた。最後の夜、二人でごはんを食べていたとき、その話をしてみた。

Xiaohaoは言った、
「自分では考えたことなかったけど、確かにいわれてみるとそうかもしれない。今ふと思ったんだけど、留学時代から必死に頑張り続けた結果、自分が夢に描いていたことをすでに実現できたから、ということかもしれない。」
そして過去を振り返るように続けた。
「子供のころから遠くへ行きたいと思ってた。一刻も早く独立したいと思っていた。中学生くらいからは、将来は欧米で暮らしたいとはっきり意識していた。親には留学費用を出す経済力はないから、どうやったら実現できるのか、いつも考えてたんだ。」
「オランダに留学に来て、みんな自分の研究のほかはある程度私生活をエンジョイしてたけど、僕は必死でオランダ語を勉強した。就職で差がでるって聞いてたから。コロナ禍の就職は困難を極め、売り手市場の僕の専門分野でもオランダでの就職を決めたのは20人ほどの留学生のなかで僕一人だっ
た。」

よく頑張ったね、あなたの努力でここまで来たこと私本当に尊敬するよ。今回とても充実して幸せそうなあなたを見れて、本当によかった、と伝えた。

「なんか不思議な気持ちだけど、ありがとう。」
「でもさ、大姐は?自分だってずっと頑張ってきたんじゃないの?今、なりたかった自分になれてるんじゃないの?」

逆質問されて、Xiaohaoと同じように過去を振り返ってみる。子供のときは、(糸井氏のゲーム作品)MOTHERみたいに生きたいと思っていた。自分の知らない世界に出かけて、友達を作って、一緒に何かを乗り越える、みたいな生き方をしたいと漠然と考えていた。

ある程度大人になってからは、自分のライフスタイルの選択権を握りたい、という思いが強くなった。どこの国でどんな風に誰と生きるのか、自分で考えて、そしてそれを実現できるキャリアと行動力を身に着けていたい。

ベラベラとそんな考えをXiaohaoに話した。
「ほら、大姐も結構実現してるんじゃないの」

確かにこれは不思議な気持ちだ。夢中で走ってたらゴールを過ぎてた感じだけれど、もちろん悪くない気分。

そして私は言った、
「乾杯しようか、自分におめでとうって」
彼はにっこり笑って、私たちは珍しいオランダ産のワインを乾杯した。

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