きくち

鯨のように死に絶えたい

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鯨のように死に絶えたい

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「アイム・オッケー」

 このまま沈んでいきたいと思う。  呼吸を止めて、足を動かす。フィンで水を掻いて、垂直に潜る。広い海の中でガイドロープだけが視界にある。底が見えない水の中が陸で息をするよりも心地よかった。  水の中では言葉はいらない。それに気がついたのは小学生の時だった。海の近い町に住んでいて、みんなが水泳を習っているからという理由でスイミングスクールに連れていかれた。どもり癖があるせいで学校にはうまく馴染めず、放課後は誰かと遊ぶことなく一人でいた。僕にとって週に一回の木曜日だけが、用事の

    • 国道一三四号線沿い

      「バイクの後ろに乗るの、憧れてたんだ」  僕の声が風に乗って後ろに流れる。佐藤は何か大きな声で言っているが、ヘルメットをしている僕の耳には風の音しか入らない。僕は佐藤のお腹に手を回して、身体を密着させた。バイクは大きい歩道橋の下を通り、防砂林の横を走っている。防砂林の中は遊歩道になっているみたいで、春の訪れを感じた植物が防砂林になっている松の根本を彩っていた。 「わ、海、海だよ」  僕は時折防砂林の間から見える海に声を張り上げた。佐藤の肩が少し揺れている。横を大きなトラックが

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    「アイム・オッケー」