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万引き常習犯

中学1年生のころ、わたしは万引き常習犯だった。

私の年代から少しだけ中学校の校区が変わり、見事に私が住んでいた辺りは校区の変更エリアだったため、先輩もいない、ほとんどが別小学校の生徒で構成される中学校に通うことになった。

その中学校の大多数を、某小学校から上がってきた子たちが占めていて、
その中には同じ保育園だった子がいたこともあり、数と勢いにも巻かれ、
私もその子たちと仲良くなった。

一見普通の、ほんと、どこにでもいる中学1年生で。
しかし、その子たちは小学校から万引き常習犯だった。

めちゃくちゃ軽いノリで最初に誘われた時は、
「万引きすんの?!」
「え、チャリも盗むの、、、マジで?????」
と思っていたが、
家に帰っても苦痛だらけ、
お金のない家なので好きなものもなかなか買ってと言い出しにくい、
言ったら買ってくれるが、恩着せがましく買ってやったと言われる、
という環境だった私は、
お金を払わず、すんなりサクッと簡単にモノが手に入ることに
すぐ慣れてしまった。

他にも何人かと一緒に自転車を盗んだり、ほんのちょっとだけど
髪を染めたり、お酒を飲んでみたり、タバコを吸ってみたり。
分かりやすく「悪いこと」をやっていた。

女友達が一気に増えて、嬉しくなってたこともあると思う。
小学校から万引きするような子たちなので、変にませているというか、
クソガキというか、関わることが新鮮だったこともあると思う。
とにかく私は毎日のように万引きするようになった。

万引きすることが、スリルと快感だったので、商品の一部は使ったけれど、
使わなかったものも沢山あった。
化粧品や、文房具なんかを手あたり次第に、いいなと思ったものを
どんどん盗んでいった。

盗んだものは持っていた鞄にしまい、使わないものを仲間と交換したり、
ある子が欲しいって言ったものを、盗んできて渡してあげたり。
ここでも「役に立ててる」なんて馬鹿なことを思って、盗みを続けていた。

ある日、仲間の子たちが順番に先生に呼び出された。
呼び出された子はそのまま帰ってこない。
あれ、やばい、かも。
と思ったら自分の番になった。

案の定、万引きはばれており、
お店から中学校に連絡が入ったという内容だった。
今回は警察沙汰にするつもりはないので、自分でしっかりと親に話し、
謝罪に行くように、という指導で、そのまま家に帰された。

その時の家への帰り道は、何も考えられないくらい心が真っ暗だった。
足場が崩れ落ちた気分だし、ばれていると思わなかったし、
話したら絶対に叱られるし、お金がかかってしまうし、
もう、道路に飛び出して死んでしまった方がいいんじゃないか、なんて
考えながら、ふらふらと家に帰っていた。

確か、帰り道の途中に仲間の女の子が待っていて、落ち合った。
「やばい、どうする、、、」
「どうしよう、家から出してもらえないかもしれない、、、」とか
半泣きになっている子もいたり、変に堂々としている子もいたり。

何人かと相談して、とにかく証拠を隠滅しよう、ということになった。
まだ親が帰っていなかったので、わたしもすぐに家に戻り、
ほとんどの盗品をスーパーとか、コンビニのゴミ箱に捨てた。

100個とか150個とか、そのくらい商品があったと思うけど、
手元に残したのは10個くらい。これしか取ってません、ってことにした。

心臓が張り裂けそうなくらい怖くて、手も足も冷えていくような感覚で
親を待ち、万引きしてました、それがばれました、と伝えた。

父には特に何も言われず。「返して謝りなさい」くらい。
確かその後、母親に怒っていたと思う。
「なんで気付かなかったのか」とか、「お前が一緒に謝ってこい」、とか。

またここでも甘やかされ、責任は全て母に擦り付けられ、
父は一緒に謝りに行ってはくれなかった。

母には、「本当に盗んだのはこれだけか」と聞かれた。
「最近鞄がどんどん膨らんでいたから、おかしいと思っていた。本当に情けない。」と言われた。その後は一緒に謝りに行ってもらった。

「本当に情けない」
この言葉の意図が、わからなかった。
私に向けて言ったのか、母自身に向けて言ったのか、わからない。

一緒に謝りに言ってくれたことは、まぁ、ありがたいと思う。

だけど、私は、当たり前だけど分かっていた。
悪いことをしているってこと。ばれたら怒られることをしているってこと。
万引きは隠していたけど、染髪もお酒もたばこも隠しきれるなんて思っていなかった。

どうにもならない家がつらかったし、帰りたくなかったし、
訴える術もなく、何を訴えたらいいかも分からず、
苦しい気持ちと悲しい気持ちを持て余していた。

毎日のように母に怒る父に対し、何も言わない私を言いことに、
もう、どんどん私を気にせずに争っているように思ったし、
自分がこの家にとって重要でないような気がしていた。

私の心も体もここにあるのに、見てもらえない、大切に扱われてない、
考慮してもらえない、理不尽に不要なものを与え続けられていると思った。

だから、「悪いこと」をしたのだ。

お店の人には本当に迷惑をかけたと思う。
中学生だから、警察ではなくまず学校へ、と配慮してくれたのだと思う。
本当に、バカなことをして、申し訳ありませんでした。

だけど、私は、「情けなかった」のだろうか。
心にドカッとあけられて埋めてもらえない穴を必死に埋めたくて、
中学生になっても親の関心を引きたくて、
苦しい気持ちを助けてほしくて、
そんな思いで万引きに走った私は、「情けない人間」なのだろうか。

大人の私は、「方法を間違えた」ことを知っている。
話せばよかった、伝えればよかった。そんなことは今だから分かることで。その時はわからなかった。

そして、両親どちらにも、
なぜ万引きをしたのかも、聞いてすらもらえなかった。
ばれて、今どういう気持ちかも、聞いてもらえなかった。
謝りに行って、何を考えているのかも、聞いてもらえなかった。
ただ、起こったこととして、「情けない」というタグをつけられて、
有耶無耶のまま、この万引き騒動は終わった。

それ以降、万引きは二度としなかったし、
飲酒も喫煙も染髪も、高校を卒業するまでしなかったけれど、
悪いことをしたと反省したからではない。

直接の言葉や態度や行動だけじゃなく、間接的に伝えても、
気に留めてもらえないし、寄り添ってもらえるわけでもない、と
思ったからだ。

良く振る舞っても、悪く振る舞っても、
父も母も私を「見ない」と思ったから、やめた。
訴えるのをやめた。

何となく、適当に、当たり障りないように、生きだした。

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