映像で学んで創る「世界遺産」 参加者レポート(最終コマ編)
本Noteは、2022年9月初旬から約2週間にかけて行なわれた『映像で学んで創る「世界遺産」』を題材にした勉強会企画レポートになります。
Noteは全4回に分けて構成しています。
今回はついに最終回となります…!
前回までの内容
前回のNoteでは、第5コマ、6コマ目の講義についてお伝えしました。
まだご覧になっていない方は下記リンクからご覧ください。
全て(1~8コマ)の講義レポートは以下、マガジンとして掲載しています。
最初から見ると、本企画の全貌がわかります。ぜひご覧ください!
映像で学んで創る「世界遺産」とは
本企画では、以下の映像で学んで創る「世界遺産」教材を使用させていただきました。
※ 本企画は、コンテンツ動画の改変や編集は一切行っておりません。また、完全非営利の教育活動を想定し、実施しております。
それでは、前回に引き続き、参加者兼企画チームの伯井さんによる講義レポートです。どうぞ!
7コマ目「世界遺産の推薦書を作成しよう」
こんにちは!
まなつく参加者の伯井智香子です。
今回は「映像で学んで創る「世界遺産」(以下、まなつく)」シリーズ最終回:第7・8コマ目のワークについてレポートします。
第7コマは第5・6コマのグループワークで議論した結果を基に推薦書を作成する作業を行いました。
私が参加したWorld SQUARE班は、「日本の温泉保養都市群 -江戸時代から続く混浴・大衆入浴の文化- 」を世界遺産推薦候補としましたが、考えるのが特に難しかったのは、温泉の保全・管理のアイディアです。
例えば、日本の温泉の混浴の文化(海外の水着で混浴する文化とはまた違った文化)についてはグループでたくさん議論しました。
議論の中で、World SQUARE班の楊貴妃さんに酸ヶ湯温泉(すかゆおんせん、青森県)には「混浴を守る会(見守り隊)」が存在するということを教えて頂きました。
酸ヶ湯温泉の「混浴を守る会」の人数は現在18000人を超えているそうです。この団体の取り組みにより、混浴に対して不安がある人でも安心してお風呂に入ることができています。
「混浴を守る会」は現在の価値観に合わせて誕生したものであると思います。日本に残る混浴文化を今後も守っていくためにも、活動を継続して欲しいと感じました。
また、外国人への対応についても考えました。
厳密には、「タトゥーを入れている方への対応を今後どうしていくかべきか」という議論になりました。
私はこれまで、タトゥーを入れている方はその目的によらず、タトゥーの部分を隠して入浴すればいいと考えていました。(今考えれば、いろんな立場の人がいることを考えられていなかったなと思います💦)
しかし、World SQUARE班のミドさんからは「タトゥーを隠していただきたい」と指示・お願いすることは自国の文化でタトゥーを入れている人に対してその文化を否定することになるのでは?とのご指摘をいただきました。
そこで私たちの班は、タトゥーを入れている方には時差入浴をお願いするなどして隠す以外の方法で対応するのが望ましいのでは?と考えました。
世界には様々な文化があります。
そのすべてを理解することは難しいですが、他の人と意見を交わすことで、そういった多様性を受け入れることのできるアイディアを出すことができたと思います。
講義時間:1時間55分 ー 完 ー
最終コマ「世界遺産委員会で審議しよう」
最終回である第8コマでは、各チームが書き上げた推薦書のプレゼンを行いました。
私の所属するWorld SQUARE班は、「日本の温泉保養都市群-江戸時代から続く混浴・大衆入浴の文化-」とったタイトルの元、発表しました。
対象としたは以下の11エリアで、登録基準は(ⅱ)(ⅲ)としました。
日本三古湯(道後温泉:愛媛県、有馬温泉:兵庫県、白浜温泉:和歌山県)
酸ヶ湯温泉(青森県)
銀山温泉(山形県)
下呂温泉(岐阜県)
城崎温泉(兵庫県)
湯布院(大分県)
別府温泉(大分県)
草津温泉(群馬県)
砂蒸し温泉(鹿児島県)
登録基準(ⅱ):日本の湯治文化の発展
→ 昔は身分の高い人しか入れることが許されなかったが、江戸時代以降は庶民の日常の交流の場となった。日本の温泉地に影響を与えた。
登録基準(ⅲ):
→ 江戸時代から現代まで続く、「お湯を神聖化」するという日本独自の文化の代表。
審査員からは以下のようなコメントを頂きました。
プレゼンを聞いて、日本の温泉保養都市群は今後世界遺産に十分なりえる可能性があると感じた。
貴族や宮廷文化を主としたヨーロッパの温泉保養都市群と異なり、日本の温泉保養都市群は一般大衆を対象としているため、差別化が出来ていて良かった。
登録基準の面ではヨーロッパの温泉保養都市群と同じ登録基準のため、差別化が出来ていないのではないか。
私は審査員の方々からのコメントを受けて、道後温泉や城崎温泉、銀山温泉などは温泉だけでなく、町並みや地域の暮らしに独自性があるため、登録基準(ⅴ)が認められる可能性があると思いました。また、日本の温泉は海外のお風呂文化に比べてより生活と密接していることに感じました。
玉川大学ユネスコクラブさんは、自分たちの所属大学である玉川大学を推薦書として提出されていました。
推薦されていた登録基準は(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)(ⅸ)(x)の5つでした。
登録基準(ⅱ):
→ デンマーク体操発祥の地との積極的な交流によりラジオ体操が誕生し、日本国民の健康づくりに貢献した。
登録基準(ⅳ):
→ 教師を育てる学校は、戦後間もない日本において重要な役割を担った。
これまでは有権者やその専門家が「読み書き・そろばん」を教えていたものの、昭和時代からは教師の立場が確立され「一般教養」を教えられるようになった。
登録基準(ⅵ):
→ 多摩川大学が掲げる全人教育や童謡で知られるカエルの合唱
登録基準(ⅸ)/ (ⅹ):
→ 生物多様性。特に、多摩川大学付近では124種の動植物が見られることやチョウゲンボウと呼ばれる植物が自生している点。
審査員からは、
登録基準(ⅱ)と(ⅵ)は認められる可能性が十分にある。
登録基準(ⅸ)は白神山地のクマゲラの例のように、多摩川大学周辺のエリアだけでなくさらにエリアを広げる必要性があるのではないか
といった意見がありました。
発表では、玉川大学ユネスコクラブさんの大学愛が伝わってきました。
私自身は、今まで大学のことについてあまり知らずになんとなく授業を受講していました。今回の発表をお聞きして、自分が置かれている環境やその歴史に興味を持つことが、新しい学びに繋がると感じました。
Nubianさんは「東海道-移動と文化の源泉-」についてプレゼンしてくださいました。
対象エリアは、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、静岡県、京都府の宿場と街で、
推薦登録基準は(ⅱ)、(ⅲ)、(ⅵ)を推薦されました。
それぞれの概要は、
登録基準(ⅱ):
→ 江戸時代、多くの人が箱根や伊勢参りに向かう上で使用した道である。
奈良時代の律令より、駅伝制という文化を取り入れてきた歴史もある。
登録基準(ⅲ):
→ それぞれの宿場は町飛脚(現在の宅配便のようなシステム)という文化を現在に伝承するものである。主に宿場などの周辺関連施設(文化財指定を含む)から当時の旅ブームの一時代を作ったことが証明される。
登録基準(ⅵ):
→ 歌川広重の「東海道五十三次」、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」など芸術にもはっきりと「道」がメインテーマとしてクローズアップされている。
審査員からは、以下のようなコメントがありました。
東海道を世界遺産にしようという発想がなかったので面白かった。
その他の特色の移動手段の発展段階を証明するという部分がグループワークを通じて生まれた新しい視点で良かった。
妻籠や馬籠宿(旧中山道)のような宿場町が東海道にあれば、保全対象にしやすいのではないか。
東海道は「江戸の守り」としての役割は、価値の部分に取り入れることが出来るのではないか。
宿場町で生まれた文化は登録基準(ⅳ)、(ⅴ)も当てはまる可能性があるので検討してみて欲しい。
私自身も「東海道」を世界遺産にするという発想がこれまでなかったため、Nubianさんのプレゼンはとても興味深く感じました。また、歌川広重や十返舎一九など日本史の教科書で習っていた人物が世界遺産に結びつくとしたらとてもワクワクするだろうなと感じました。
講義時間:2時間00分 ー 完 ー
まなつくを終えて
世界遺産委員会での厳正なる審議の結果、全ての班の推薦候補が(企画内)世界遺産として登録されました。
世界遺産委員会終了後は、全8コマの「映像で学んで創る「世界遺産」(まなつく)」を通じての感想をそれぞれが共有しました。
参加者からは、
海外旅行に興味を持った。
自然遺産に興味を持った。
世界遺産検定以外にも楽しみ方を知った。 ←重要
推薦書を作るのが難しかった。
次回作る時はヒヤリングもしたい。
といった感想をいただきました。
私自身、自分で推薦書を書く作業は初めてだったので、グループワークを始める前は「世界遺産についてまだ詳しくない私が推薦書を書けるのか…」と不安な気持ちがありました。
ですが、最終的には小又さんをはじめ、多くの方々のアドバイスを頂きながらプレゼンテーションまで行うことができました。
とても貴重な経験になったと思います。
最後に
ここで、伯井さんから企画者の小又へとバトンタッチです。
まなつく企画、様々な方のご協力のおかげで無事に終えることができました。まず、コンテンツ提供元であるTBSテレビさんに、素晴らしいコンテンツを作成してくださったことに感謝申し上げたいと思います。
私も多くの読者の方と同じように、世界遺産検定から「世界遺産」という分野に興味を持った1人です。「知識を得る」というのはインプットは簡単にできても、そこから一つ先のステップである「考える」というのはたくさんのエネルギーを使います。
その入り口として世界遺産検定があり、「考える」部分がマイスター制度だと思います。ただ、検定試験というのはどうしても孤独であり、個人としての考えは自分の経験や価値観に基づいた側面に偏りがちです。
そんな中で登場したTBSテレビの映像で学んで創る「世界遺産」教材は仲間や他者とともに調査・議論することで、自身の思考力・行動力・伝える力を磨くことができるように構成されています。
世界遺産のように多様性を認め、多角的な視点を持てるようになることで初めて今の時代にあった保護・保全の在り方、世界遺産制度の今後を議論できると思います。
参加者は実際に推薦書を作成することで、世界遺産を申請すること、ストーリーを作り上げることの難しさを知ることができたと思います。
異なる切り口、視点で物事を見れるというのは、現代社会を生きる上で非常に大切なことです。答えのない課題に挑むときに、今回の企画で学んだこと、経験したことを活かしていただければと私自身も嬉しいです。
最後に、TBSテレビさん、参加していただいた皆様(各方面世界遺産関係者の方々、玉川ユネスコクラブさん、慶應大学世界遺産コミュニティNubianさん、企画チームの伯井さん・内島さん)に改めて感謝申し上げます。
小又寛也
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