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(ミニ小説)男の娘・はじめての振袖体験 5

白の辻が花を着た僕は撮影コーナーに手を引かれ、ここでもまた「まな板の鯉」状態で写真を撮影される。

最初は正面、そして着物姿で定番のやや右斜めを向いたポーズ、やや振り返って帯結びが見えるポーズ。

「ちょっと両手を広げて、そうそう」

袂を広げて袖の柄がよく見えるいつものポーズに、手をかわいく添えるポーズに何度も何通りも写真を撮ってもらう。

「せっかくだから笑顔で、そうニッコリーー」

最初は緊張で表情も硬かったがお店のスタッフみんなに口々に「振袖似合うー」「とってもかわいいー」「女の子みたい!」などなど「お褒めの言葉」を言われ続けて気分ものってきたのか少しずつうれしさを感じ、表情も緩む。それにこうして専用のスタジオで花よ蝶よとあれこれ誉め言葉を掛けながら撮影されるのはモデルになったような気もして悪くない。

そうしているうちに別のお客さんが入ってきた。どうやら予約していたが遅れていたお客のようだ。

「遅くなってすみません。あら、他のお客さんもいらっしゃるのね。振袖かわいいー。」

一瞬どきっとする。知らない人とは言え女装した自分を見られ実は男でないかばれないか、そして何より恥ずかしい。

でも別のお客さんは「この方とっても細身で背が高くてよく振袖がお似合いでいいわー。わたしも今日はこんな感じできれいに変身体験できますか?」と言う。どうやら全く僕が実は男であると云う事に気づいてないようだ。

うつむいた僕にお店の女性スタッフが「大丈夫、堂々としてたら誰も男の子なんて思わないわ。それにほんとはもともとあなた女の子だったでしょう。」とささやく。

そうしているうちに遅れていた他のお客さんたちも到着して店内のメイクスペースも撮影スペースも衣装スペースも若干手狭になってきた。所在なさげにしていた僕に「じゃあ、お店も混んできたし気分転換にお外で撮影しようか?」と女性スタッフさんが言う。

「外ですか・・・・・・」

「大丈夫よ。ほら今のお客さんも特にあなたが男の子だなんて誰もちっとも思ってないわ。」

そう促され、店の中に居ても男とばれたらと気になるので草履を履いてお店のスタッフさんに連れられて外に出る。

慣れない着物、慣れない草履でどうしてもちょこまか歩きになるが、かえってその方が着物は内股で歩く方がきれいに見えるのでいいと言われる。

このお店の近くに公園があって、そこで簡単な屋外ロケ撮影みたいな感じで写真を撮ってもらう。

言われるがままにバックが良いところでポーズを撮って撮影していく。

公園なので当然人の出入りはあり、撮影は珍しいのですれ違う人がそれぞれ

「あら、着物。きれいねー。何かのロケ?」とか

「この女の子ほんとに着物よく似合ってきれいねー。うらやましいわ。」とか言われ、誰も男性が振袖を着ているだなんて気づいていない。

こんな感じで撮影していると先程の別のお客さんが今度は公園に屋外撮影に来たタイミングで自分はお店に戻った。

「じゃあこれで体験は終了です。メイクオフして着替えましょうね。どうだった楽しかった?」

「・・・・・」

楽しかったか、と聞かれ正直言葉に詰まった。

楽しくない、と言えばうそになる。

女の子はこんなに華やかできれいな衣装を着て、みんなに「きれいね」「かわいいね」「着物いいね」と言われる。

しかも自分で言うのもなんだが、メイクして振袖を着た自分はそこそこ女性に見えるし、似合ってないこともなかった。

そしてどこから見ても女の子、着物とっても似合うと言われ自分の気持ちもうれしく、自分はほんとは女の子だったのかもと思ったくらいだった。

すっかり雨は止み、乾いた自分の服に着替えてお店を出て、帰りに何枚か自分のスマホで撮ってもらった振袖姿の自分を見てみた。

そこにはやっぱりどうみても女性にしか見えない振袖姿のはにかんだ子が写っていた。

それを見てまた振袖着たいか、と言われるとどうするか考えていた。

「また振袖着れたらいいな・・・・・。えっ・・・・・」

自分でも意外な答えに少しびっくりした。



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