鉄分多めな旅手帖 石北本線編 #0 旅に出る理由

この旅日記は2023年1月に北海道を旅行した時のことを綴っていく内容となっています。

始まりは、去る2022年7月13日に発表されたプレスリリースでした。

『キハ183系特急型気動車が2022年度中に定期運用を終了』

 遂にこの日がやってきたかと呟いたのは、僕以外の鉄道マニアも同様だったと思います。
 全国津々浦々を走る鉄道車両の中にはJRが発足する前の「日本国有鉄道」時代に導入された車両もまだまだ存在します。それらは直線的あるいは単純な図形を組み合わせたようなレトロな風貌で、または昔に作られた物が未だに動いているというロマンからなのか、多くの鉄道マニアが注目する存在です。このキハ183系も、いわゆる「国鉄型車両」のひとつになります。
 しかし、形ある物として存在する以上、車体や搭載機器の劣化や老朽化を避けて通ることができません。特に特急型車両は高速度で長距離を走行するため部品の消耗や経年劣化が早く、普通列車などに使われる車両と比べて耐用年数が短い傾向にあります。大体25~35年で新車に置き換わると言われており、寿命を迎えた車両は役目を新型車両や比較的新しい車両へと受け継ぎ廃車されていきます。
 特に国鉄時代に設計・製造された車両はどんどん数を減らしており、特急列車ではサービス向上の目的を含めて次々と新型へ置き換えられています。その番が長年北の大地で活躍してきたキハ183系に回ってきたのです。

 僕はこのキハ183系に何か思い入れがあるのかと訊かれると、よく乗ったことがあるとか上京の時に使ったといった具体的なものは何もありません。子どもの頃に買ってもらった乗り物図鑑の中で見たキハ183系が印象に残っている程度です。ただその図鑑に載っていた写真というのが、真っ白な森の中で雪を跳ね飛ばしながら二階建て車両を引っ張って走る姿を収めたもので、その勇ましさが僕の胸に強く焼き付いており、いつか乗りに行ってみたいという気持ちをずっと心の中に抱えていました。
 しかし、その気持ちを叶えるためには時間とお金がネックでした。特にキハ183系が活躍する北海道への旅行となると、移動だけでも多くの時間が必要でしたし、何よりもたくさんのお金も必要です。恥ずかしながら収入が少ない割に物欲が強い僕には貯金を優先しなきゃとの意識が強くあり、どうしても旅行のために思い切ってお金を使うということができずにいました。今の状態では無理だと呟きながら鉄道関連の動画を眺め、ずっと気持ちを抑えてきました。

 ただ、最近は貯金優先という考え方にも変化が生まれました。確かにお金は大切ですが、適度に使うことも大事なのではないかと思い始めました。毎月入ってくるお金のうちどれだけ貯金や生活費へと回し、残ったお金の範囲で欲しいものを買う。そういう使い方を身に付けることで我慢し続けるよりも幸せになれる気がしたのです。
 思えば「今は無理だけど……」と我慢をして、いざ買おうとなったら欲しかったものが手に入らなかった、なんてことが今までもありました。それは鉄道でも一緒で、一度乗ってみたかった車両が気がついたら廃止されていて、あの時乗りに行けばよかったなあと後悔することだってありました。
 そんな中に舞い込んできたのが、さっきのキハ183系定期運用離脱の一報です。「今は無理だけどいつか乗りに行こう」そう言い聞かせているうちに、キハ183系は余命宣告を受けてしまったのです。

 お金を憂いて誰かの体験を見聞きするだけよりも、実際に経験する方が何倍も価値がある。だったら乗りに行こう。

 そう自分に言い聞かせ、夏頃から具体的な旅行計画を立て始めたのでした。

1日目へ続く……。

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