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貴志祐介さんが描く 教卓の前のダークヒーロー。悪の教典上下巻を読み終えて

今更感が強いとは思いますが
ようやく悪の教典を読み終えました。
一言で言うと、人間最も信頼を置いている人間が狂ったときほど怖いものはありませんね...。
普段優しくて穏やかな人気者の先生がぶち切れた時の教室内の静まり返る様は凄まじいものがありました。

普段優しい人格者ほど怒らせると怖いとよく言いますから。決してその人格に甘んじていてはいけないと言うことですね!

しかし今作の主人公である蓮実聖司は
生まれながらにして精神異常者(サイコパス)であり
己の目標を達成するためなら、己のポジションを確保できるためならば殺人は厭わないといった人格で。
彼が過去に手をかけて来た人間は数しれず、そしてその全てが自分の為に行った殺人と言うことですね…。

一口でサイコパスと言うと異常な性質を持っていると捉えられがちですが、実はそうではなく普段日常生活を送り
大きな犯罪を犯すわけでもなく身を潜めているサイコパスもいるそうで、必ずしも皆がサイコキラーだという事は無いそうですね。
社会で成功を収める、スポーツ界でトップに立てるという人物もまたそういった性質を持っているのかもしれません


さぁ本題のあらすじに入ります。

有能で人気者の蓮実聖司は、校内ではトップクラスの支持を得ています。教師だけはなく、生徒たちからも信頼も熱く、また端正なルックスのおかげか親衛隊まである程の人気ぶりで、わかりやすく親しみやすい彼の授業そしていじめ問題等の校内での問題をいち早く解決をする蓮実聖司は
もはや晨光学院町田高校では欠かせない存在となっていました。

ただ彼には教師になる前の過去があり、その全てが謎に包まれています。少しずつ暴かれていく蓮実聖司という人間。そして彼が何故次々と犯罪を犯していくのか?
性善説に基づく学校という組織内で、影で行われる非情な行動の数々。そして尚もまた表では評価を上げ続けるそのベールが少しずつ剥がれ落ち落ちた時、悪魔の顔が姿を表していく。そして絶望に暮れる生徒たちの恐怖。

身近な存在ほど怖いものはない…。それを痛感させられる物語でした。


物語が終了し、映画作成に携わった監督のコメントが添えられていたのですが。
彼の言葉に共感できる内容があったので簡単に連載します

野生において殺意とは自由への祈りであり、生存への希望や条件である。
ところが人間は、他者を傷つけることなく、それぞれの個性を尊重することで、穏やかな明日を手に入れられると信じている。いや実はそんな事を信じてはいない、それが自分の身を守るために必要な方便だと心得ている。
だから自分を潜め、知らぬふりを決め込んでいる。
個性を尊重し自由を愛するという建前も、徐々に狭まり
セーフかアウトか常にジャッジされる。

〇〇は良いが〇〇はアウト。

ネットに蔓延る居酒屋の世間話的な私情に世間は左右され
生贄なしではテレビ番組すら作れない現状。
誰かを貶めて笑いを取る、弱者を潰して立ち位置を得る。

そして本作の主人公である蓮実聖司とは
僕たち人間の奥底に眠る願望。もしくは本質であり
普段世間という壁に隠された代わりのヒーロー。
彼が殺人を犯す、悪を叩きのめし正義を見せつける行為が人々の心を晴らしてまるでスカッとした!という爽快感を感じることができる。そのおかしな今を破壊することができるダークヒーロー。「善良な市民になりすましている私の代わりに、思う存分暴れてくれ、全力で走れ!」
そう、自分は読者という安全な場所に身を置きながら…。


ざっくりとこんな感じです。
まるで現在のネット社会の様ですね。
ネットという匿名性のガードに守られながら、その隙間から石を投げつける。自分は絶対的な安全な場所に身を潜めながら、悪を成敗する、世の中を変えようとする人間をあたかも自分の様に感じながら戦況を見守る。
それが蓮実聖司という絶対的な代弁者であり、自分の代わりに行動を起こしてくれるヒーローだと錯覚します。
SNSでの誹謗中傷。これはまさに本作悪の教典を読む読者の様で、自分を守りつつ行動者の行動を見守る。
そして悪を打ち下したというなんとも言い難い幸福が人々の心を潤していく。そんな世間の闇を上手く表現し、描いた貴志祐介さんの天才的な感性は素晴らしい物がありましたね!

やっぱり今作もただのホラー作品ではない。
非常に深いところまでついた人間という生き物の闇を描いた作品でした。
流石話題作だけあって非常に面白かったですね!
上下巻共に大体400ページちょっとかな?一気に読むのは難しいかなぁと思いつつ、下巻はあっという間に読んでしまいましたw続きが気になって眠れず結局遅くまで格闘してしまう自分がいましたね…。

映画のほうが有名ですが映画は見ないのでわかりませんが
今作はちょっと見てみたいなと思わせてくれました!
伊藤英明さんは好きな俳優さんですしね!


それではまた🤫🤫🤫🤫🤫🤫🤫

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